顧客と共創の時代に重要とされるD2Cの考え方
はじめまして、rite株式会社の古谷と申します。
弊社は2018年創業以来、様々な企業様のブランディング・マーケティング支援を行わせていただいており、最近は特にD2Cの取り組み支援に注力しております。この記事を公開した2020年11月にはD2C支援サービスfab.をリリースさせていただきました。
この記事を執筆することになった経緯としては、支援させていただいております様々な企業様、経営者様から、D2Cの概念とは?といったご質問を受けることも多く、意外とD2Cという言葉は浸透していないのか。あるいは、ネットの記事などを拝見すると、言葉の定義がバラバラである、一人歩きしているというところもあるかと思いました。
今回はD2Cの思想を解説させていただくとともに、なぜD2Cと分類される企業から多くの成功事例が生まれているのか、皆様の実務の一助となるような情報を提供できればと思っております。
辞書的な意味でのD2C(狭義でのD2C)
D2CとはDirect to Customerの略であり本来は販売方法を表す言葉です。
D2Cとは日本語に言い換えると"直販"であり、"作り手→卸売り業者→販売業者→ユーザー"といった流れではなくプロダクトの作り手が卸・販売を挟まずにECなどを駆使して直接ユーザーに商品を販売する販売方法をD2Cとして指すこともあります。
"直販"から得られるメリット
表面的なメリット
・中間コストの削減
販売のプロセスに販売業者を挟まないためその分販売コストを削減できる。
当然のことですが、販売プロセスにおいてブランドが直接顧客に販売ポイントを持つことができれば、中間コストの削減・利益率の改善が見込めます。その分のコストをマーケティングや商品開発に当てるといった経営判断も可能です。
また、弊社がお手伝いさせていただいている企業の中には、過去の経営方針から様々な販売店とお取引をしていて、販売店ごとに来る顧客層が異なるため、販売店の要望から方向性の違う商品開発を同一ブランドとして進めてきてしまったという企業もいらっしゃいました。
ブランドとしてのターゲットユーザーの一貫性を保てない。すなわち、ブランド・アイデンティティがぶれてしまう、といったお悩みがありましたが、直販を主とすれば、ブランド戦略に則ったマーケティング・商品開発に集中的に投資をすることができるため、上記のような課題が発生しづらいとも言えます。
ですがこれらの要素はあくまでD2Cの狭義な意味合いであり、成功しているD2C企業のエッセンスはこれだけではないと弊社は考えております。
D2Cとは「顧客との共創関係の構築」を軸とした戦略
弊社の考える「D2C」とは、次の3要素を満たすブランディング戦略・事業戦略の概念です。
1 ユーザーに共感されるブランド独自のライフビジョンを提案し、その実現に向けて一貫性を持ち動いていること
2 提案するブランドライフビジョンに共感してくれたユーザーと密度の高いコミュニケーションをとり、ユーザーの潜在的なニーズへの深い理解を得て、素早い商品化・サービス化に向けて動いていること
3 潜在的なニーズに答えていくことでユーザーにとって「なくてはならないブランド」となり、ブランドを一緒に盛り上げていく「共犯者」「共創のパートナー」としての強固な関係性を築いていく
近年では"ユーザーファースト"や"顧客との共生"といった思想・戦略概念的な意味合いでD2Cはバズワードとなっています。
その解釈が誤っているわけではありませんが、弊社の考えるD2Cのコア要素とは上記の3点になります。
ユーザーと直接の接点を購入サイトやSNSなどで持つことで、自社の提案するブランドビジョンをユーザーに示し共感を呼ぶ。そこで得たユーザーからの意見を深く理解することで、競合他社が持たないユーザーインサイトを得る。そのユーザーの本質的なニーズを満たすことで、ユーザーから愛される唯一無二の存在へと変わっていきます。すなわち、直販という形態は「ユーザーとの接点を持つための代表的なポイント」ということに過ぎず、直販に拘らなくともD2Cの戦略概念を取り入れていくことは可能です。
実は上記のD2Cの取り組みはブランド価値向上のための必要ステップとほぼ合致しております。ブランディングの重要要素とは?という観点はまたどこかで記事にさせていただければと思います。
D2Cブランドのメリット
メリット1:売り手のビジョンや思想を顧客に伝えられる
「こんな商品があったらみんな喜ぶのではないか?」というアイデアから生まれたブランドには、確固としたビジョンや思想があり、企画側の意図・作り手の想いを消費者に直接伝えることができるのがD2Cの強みです。
モノ消費からコト消費に、というのは2010年頃から提唱されている考え方ではありますが、ブランドの提供する価値やその背景にある思想を継続的にユーザーに届けられることが、強い共感を生むための第一ステップとなります。
メリット2:一人ひとりの顧客の声を聞ける
商品の企画から販売までを自社で完結するD2Cでは売り手と顧客との距離が近く、ビジョンや思想を一方的に伝えるだけではなく、顧客側のフィードバックが得やすいのもD2Cの特長です。
顧客からの意見やフィードバックの中には「他社が気づいていないユーザーの潜在的なニーズ」=「ユーザーインサイト」の気付きの種がたくさんあります。そうした「貴社だけが気づいているユーザーニーズ」に答えることで、他社との明確な差別化ポイントを作り出すことができ、貴社のブランドをより強固な存在に変えます。
メリット3:高いブランドロイヤルティを持つユーザーを獲得できる
顧客とのコミュニケーションを重視するD2Cブランドは、提案するビジョンに共感したコアなファンを獲得しやすく、このファンをただの消費者ではなくブランドが提案する世界観を共に盛り上げる共創者として位置づけます。
彼らは強固なリピーターとして売上を支える存在となり、貴社のブランドの魅力を知人に伝えるアンバサダーとなり、ユーザーに対する深い理解を貴社にもたらすアドバイザーとなるでしょう。
D2Cブランドの成功事例
ここまででD2Cがどういう戦略概念かという理解は進んだでしょうか。
これらの取り組みは短期的に成果をもたらすとは限らず、ブランド力の向上という評価しづらい指標と向き合いながら、長期的に顧客と向き合う覚悟が必要です。
しかし実際に成功しているD2Cブランドはたくさんあり、その企業の中には「大成功」と評価されるべき企業もいます。
貴社がもし今後D2Cの取り組みを行っていきたいと考えられているとしたら、参考にするべき企業の一例をこちらで紹介できればと思います。
オールバーズ(海外)
概要
Allbirdsは2015年にサンフランシスコで創業のウール素材で超軽量化された履き心地抜群の靴を販売しています。
世界一の履き心地と称されSNSにてたくさんの投稿が寄せられており、著名人も高い評価を寄せています。
創業から現在までの累計資金調達額は2,750万ドル(約30億円)にのぼり、時価総額1000億円を超えるシリコンバレー発ユニコーンD to Cブランドです。2020年11月現在、日本も含めた世界中に21店舗を展開しております。
"ミニマル"や"サスティナブル"を軸にブランドの世界観を構築しており、グーグル共同創業者のラリーペイジや、俳優のレオナルド・ディカプリオ、オバマ元大統領などが愛用していることで有名です。
D2Cならではの施策
インスタグラムを通じた広告戦略を上手に運用し、ブランドの重視するSDGsの考え方や物づくりへのこだわり、そしてブランドの提案する世界観を表現してファンを獲得しています。
新規商品を発表した際、インスタ映えする画像を投稿し顧客からのコメントを担当者が1つ1つ丁寧に追いかけることで製品開発へと反映させています。
実際、「Allbirds」の製品ラインナップには青色の靴はなかったのだがインスタグラムのコメントで新色として青の靴を販売する要望が多かったことからすぐさま新色展開を行い、SNSにて「we heard you(私たちはあなたの声をしっかり聞き届けました)」という一言を添えた投稿で宣伝しました。
こうした「ユーザーニーズに応えたい」という企業の姿勢と、「自分たちの要望に応えてくれる企業だ」というユーザーの実感こそが、根強いファンの獲得につながっています。
ファブリック トウキョウ(国内)
概要
「FABRIC TOKYO」はオーダーメイドのビジネスウェアを適正価格でご提供するD2Cブランドです。2017年~2019年にかけて、3期連続で200%の成長を続けており、20〜30代の忙しく働くビジネスパーソンを中心に支持されています。
D2Cならではの施策
D2Cながら「採寸とコミュニケーション」に特化した実店舗を日本各地に計16店舗有し、無料で採寸を行っています。
採寸された体のデータはクラウド上に保存され、その後ユーザーはECにてパーソナライズされた商品を気軽に購入できるサービスです。
単に身体情報を測定してスーツをデザインするのではなく、ユーザーの趣味・趣向などのデータも収集し、これまでに集積した10万件以上のパーソナルデータを元に、ユーザーごとに最適なカスタマイズされた提案、コミュニケーションを行っています。
こうした施策がリピーターの獲得にもつながっており、リピート率は驚異の約45%!業界平均の1.5~2倍の数値を出しています。
まとめ
今回はD2Cの概念とメリットについてお伝えさせていただきました。
記事の内容を3点にまとめると次のようになります。
・D2Cとは顧客との共創関係の構築を軸においた事業戦略、ブランディング戦略の考え方である。
・共創関係を構築するために必要なのは「共感されるブランド・ライフビジョンの提案」「継続的なユーザーコミュニケーション」「ユーザーインサイトの獲得」である。
・「他社が認識していない潜在的ユーザーニーズ」に応えることで、競合との明確な差別化をなし、「無くてはない唯一のブランド」としてのポジションを目指す。
次回はD2Cの考え方と密接に関係する「ブランディング」の考え方について、弊社なりの見解を発信させていただければと思っております。
本記事を通じて気になった点、こうした点が知りたいなどのご意見がありましたら、コメントなどを頂戴できますと幸いです。
また、ブランディング・マーケティングなどの分野でお悩みのある企業様、今後D2Cの概念を取り入れたブランド戦略を考えていきたい企業様は、一度ご相談を頂戴できれば嬉しいです。
弊社の提供しておりますD2C支援サービス「fab.」もよろしければご覧ください。
・fab. サービスサイト
・fab. プレスリリース(2020年11月11日)
よろしくお願い致します。
文責:rite株式会社 古谷