現代4コマ空間
突如告知された、いととと氏(@itototo1010)による個展「現代4コマ空間」。私は開幕2日前の告知に笑いながら、行ける気がするポイントを溜めていた。楽しそうなんだもん。
行った
高速バスで名古屋駅まで、そこから電車で清洲駅まで向かい、美術館まで歩く。
テクテク歩いて清須市はるひ美術館に到着。周辺はとても穏やか、広場や図書館も併設された、まちの美術館といった感じだ。コンクリートの少し無骨な作りがクール。
見に来ておきながら、「ホントにやってるんだけどwwww」みたいな気持ちになってしまった。他にも数箇所掲示があったが、見るたびにちょっと面白くなってしまう。
一階の展示を見たのち、現代4コマ空間こと二階へ上がる。
階段を上がると純粋4コマの歓迎を受けた。歓迎…?歓迎してる?無言すぎるだろ、なんとか言えよ。
展示風景抜粋
美術館デビュー
後で詳しく触れるが、現代4コマはこれまでに2回の展示を行ってきた。ギャラリーでの展示、そして大学の学祭での展示。そこに今回美術館での展示歴がついたことで、オイオイ、なんか箔が付いている!えらいことである。
今回の展示の性質
美術館内のギャラリーに、しれっと現代4コマが並んでいる。さも当然のように、「え、いや現代4コマですけど?あるでしょ?」みたいな顔をして。周囲に並ぶさまざまな美術館の展覧会ポスターや芸術系の本を見回していると、サブリミナル的に現代4コマが流れ込んでくるのだ。
現代4コマは4コマ漫画から独自の発達を遂げたけっこう前衛的なジャンルであるはずなのだが、な〜んか空間に馴染んでいる。普通に「あるもの」としての振る舞いをしているのだ。
私はここに、本展の特徴を見る。現代4コマはこれまでに2回の展示を行ってきたが、それらの舞台はそれぞれ銀座のギャラリーと大学の学祭である。そこでは作品は見やすいように、まさに「作品」として壁に掲示された。場の主役は作品であり、展示室の白い壁は作品を立てるために働く。しかし今回の展示でその力関係は通用しない。壁は壁で好きにやっているし、作品はそこにしれっとお邪魔しているのだ。
1、2回展が現代4コマはこういうジャンルだ!というスタンス、つまり受け入れられるための主張だとすると、本展は「あっこんにちは現代4コマです〜」といったような、受け入れられた現代4コマの形を示しているように思うのだ。
そのためにはやはり、空間でなければならなかった。
(これまでの展示については、このあたりの記事やアカウントを参照していただきたい。)
「空間」
我々はすでに馴染んだものをわざわざ展示するだろうか?いつも使っているコップや鉛筆を展示室に並べるだろうか?いやまぁ並べる人もいるかもしれないが、基本的にすでに馴染んだ・受け入れられたものは、展示室には並ばない。日常生活の空間に溶け込むのだ。
ならば日常生活の空間に溶け込んだものは、馴染んでいて、受け入れられているものと考えることができるだろう。今回現代4コマが見せたのは、「日常の空間に馴染んだ、受け入れられた姿」なのではないか。
こういう4コマもあるよね、あぁこういうのも面白いね、これすごいなと、見る人が普通に飲み込んで了承してくれるという展望。それを体現しているのかもしれない。
空間に溶け込むことで、概念として溶け込む。
現代4コマ空間とは、そういうことなのではないか。
ブレイクタイム
額縁に入ってるやつと壁にベタ貼りしてあるやつの違いが全然分からなくて面白い。
いととと氏は、上の時計も4コマであると言う。時計の針が指す延長線上の数字4つが4コマを構成するらしい。この写真を撮った17時44分には、6、7、8、9 が4コマを構成する。そうか…。
はるひ美術館という舞台
私はいととと氏をきっかけにこの美術館を知った。外の広場では地域の子どもたちが遊び、芝生にはレジャーシートが広げられ、まさに街に根付いた施設であるといえる。
今回の展示がこの清須の地で開催されたのは単に清須がいととと氏のホームタウンだからなのだが(地元でなにかやりたかったそう)、この美術館の来館者層と現代4コマの取り合わせはかなり愉快なものだ。
いととと氏によると「おばあさんがなんとも言えない顔で見ていた」とのことだ。私が来館した日、1階の展示に携わるご老人方が、「空間の使い方が…」と真面目に考えていたりした。
小さな娘と母の2人組が面白そうに作品を眺めていた。娘は「こぼれ落ちるほどのイクラが乗ってる4コマ」、母は「チーズイン4コマ」が気に入ったらしい。「運命を思いついた瞬間」を見て「あ〜そういうことか!」と楽しげな男性も見かけた。
いととと氏は「現4を知らない地域の人にアプローチができた」と、展示をやって良かったと話す。
私は「小さい子が人生の最初に見る4コマがチーズイン4コマだったら、ほかの4コマにチーズが入っていないことを理由に泣いちゃうんじゃねえか」とか考えていた。刷り込みである。
さてこれまでの会場では、ターゲットはギャラリーや学祭に訪れる人に絞られていた。しかし今回の展示では、本当に地域の人がやってくる。最近の話題作「3分経った」をはじめ、割とわかりやすい 4コマっぽい作品が並んでいたこともあり、意外とウケていた(ただ、会場入ってすぐのところに結構意味のわからんやつが並んでいる。初見殺し!)。
私は最近ノコノコ参入してきた軽めの現4作家にすぎないのだが、現代4コマがウケてると、超うれしい!面白いよな…!!
まとめ
美術館デビュー
馴染んだ、受け入れられた現代4コマの姿?
空間に溶け込むことで、概念として溶け込む試み
絶対現4知らない人と現4の出会い
個人的に「現代4コマ空間」は、現代4コマの未来を示しているように思える。しれっと芸術概念として定着した現代4コマ、わりといろんな年齢層の人にウケている現代4コマ、そういった展望。果たして今後この未来に繋がるのかどうか、現4作家たちがそこで落ち着いてくれるのかはわからないが、一種の素敵な展開を示してくれているのではないか。
不思議な4コマにそれとなく取り囲まれながら、そんなことを考えた1日だった。
余談
聞いたところによれば、いととと氏は展示にあたって構想を練っていたとかそんなことは全然ないらしい。3月末にたまたま美術館に赴き、そこで展示が決まったというから驚きだ。オープン展示室(本展会場)に居合わせたスタッフに、ここで展示はできるかどうか聞いたのだという。通常だと展示準備は数ヶ月前から始まるため、現代4コマ空間が恐ろしいほどの突貫工事であるのがわかる。よく開催できたな!
も〜っと余談
お土産にイガイガの恐竜カーをもらった。