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#網膜ボカロ Pたちに色々話を聞いてきた


はじめに


みなさんは網膜ボカロライフ、
いかがお過ごしですか?

網膜ボカロってなんなんだ?とお思いの方はこの記事なんかををご参照あれ。

 簡単に言ってしまえば、提示されたボカロ曲のタイトルやサムネイル(作品によっては歌詞やMV)から、どのような音楽なのかを想像し、それを聞いて楽しむものだ。たとえば、上記事で提示されている「脳香ストレンジミキサー」(いとととP)。個人的には、尖ったサウンドの中に繊細な少女性を感じる。

 さて、この記事では筆者の選んだ網膜ボカロ曲の紹介を行うとともに、一部作品については作曲したクリエイターたちとの対談記録も記す。網膜ボカロの世界に少しでも興味を持ってもらえれば幸いだ。


1.イメージDeath/初音ミク

 網膜ボカロ黎明期の一曲。初期網膜ボカロの特徴として、初音ミク楽曲が多いことが指摘されている。
 初音ミクは歌を歌うキャラクターである以前に、企業によって作られた人工物・創作物である。どんなものであろうと、彼女のビジュアルの全ては ※イメージ にすぎない。当たり前のようで少々残酷な事実を、締め付けられれるような音圧と共に歌う。我々が彼女を認知しなくなった途端に、その ※イメージ は死を迎えるのだろうか?そんな想像が働く一曲だ。

2.モママコ彗星シアター/網音モマ・四鼓マコ

 この頃、網膜ボカロの歌姫として網音モマ(あみね・もま)、四鼓マコ(よんこ・まこ)が誕生した。本作は二人のポップなデュエット曲である(タイトルの表記揺れに関しては、「モママコ」が正しい。)
 本作では動画と歌詞の両方を用いた表現が印象的であり、二人の掛け合いがありありと浮かんでくる。デジタルなサウンドと少女の柔らかな声が美しく調和しており、明るい雰囲気も相まって何度でも聞きたくなる一曲だ。
 

3.網音モマの純真/網音モマ (しんなりP)

 あの頃の網膜ボカロといえばまずこの曲が挙げられるだろう。近年の網膜ボカロ界の盛り上がりによって再発見された名曲だ。柔らかで明るいサウンドに意識が行くが、サムネイルにもあるように歌詞は不穏なものに仕立てられている。心地よいメロディラインながら、なかなか複雑で闇のある歌詞。時を超えて愛される、いわゆる「オタクがみんな好きなやつ」だ。
 今回なんと、作者のしんなりPと連絡を取ることができた。対話の一部を紹介する。

 ◆◆◆

筆者(以後:筆):本日はありがとうございます。話題のしんなりPさんとの対談が叶い、嬉しい限りです。
しんなりP(以後:し):こちらこそありがとうございます。その名義で呼ばれるのも十何年ぶりです、恥ずかしいですね(笑)。しかしまさか自分の過去作が令和になって掘り起こされるとは、思いもしませんでした。
筆:そうですよね。この再ブーム、どうお思いですか?
し:
いやー、ホントびっくりって感じです(笑)。この曲は大学生の頃に作ったんですが、その後すぐ就職して網膜ボカロから離れていたんです。作曲そのものとも距離ができてしまっていて…。当時の作曲仲間からの連絡があって、ようやく再ブームを知りました。
筆:
なるほど!それは驚きますよね(笑)。現在の網膜ボカロリスナーは「網音モマの純真」の歌詞に特に注目しているようですが、それについてはいかがですか?
し:
この歌詞ほんとに恥ずかしいんですよね〜!もうなんというか、こういう歌詞が流行る時代だったというか…。かわいい女の子の愛がちょっと重いやつって、やっぱりいつの時代でもウケますから。僕も大好きだし(笑)。そんな曲がたくさんあった中で、僕の曲が流行ったのはちょっと謎ですが。イラストのさしみさんのお陰かなって思ってます。
筆:そうそう、イラストも特徴的なんですよね。曲調と相まって、まさに「あの頃の!」といった感じ。
し:いかにも平成って感じでね。せっかく復帰したので、今ドキな曲も書いてみたいなって思います。
筆:お、いいですね!楽しみにしています。いやー、この度はお時間いただきありがとうございました!
し:こちらこそ!
 
 ◆◆◆

 貴重な話を聞かせていただいた。しんなりPの今後の動向にも注目していきたい。

4.ぼーだーらいん/網音モマ (橋下トチカ)

 シンプルでかっちりとしたサウンドに、様々な音が混じり合う不思議な雰囲気…それがこの「ぼーだーらいん」の魅力だ。MVは主に関数アプリで作られており、知的な雰囲気も漂う。
 橋下トチカ氏は本来は数学マニアであり、作曲の経験はなかったのだという。しかし網膜ボカロに興味を駆られゼロから作曲をスタート、2作目の「ぼーだーらいん」にて早くもヒットを叩き出した。先ほど述べた「様々な音」は、橋下トチカ氏が自ら生活圏で収録した生活音であり、ドアの開閉音や電車の走行音、野良猫の声まで多岐にわたる。
 今回都合がつかず対談は叶わなかったが、本記事に際してメッセージをいただいたので掲載する。

 橋下トチカです。この度はご紹介ありがとうございます。こんなよく分からん曲伸びるわけねえよと思いながら投稿したので、たくさんの方に聞いていただけて驚いています。
 さてこの曲では規律と混沌が入り混じっているのですが、これは僕が数学的なものも、あと普通にその辺の猫とかも好きなことに由来しています。数学オタクだからって綺麗に並んだものばっかり好きなわけではないぞ!と。そんな感じです。
 作曲は本業ではないのであんまりたくさん書けるわけではないのですが、次回作があればそちらもぜひよろしくお願いします。それでは。

橋下トチカ

5.最後の晩餐/網音モマ (常夜)

 こちらは最近話題の網膜ボカロP、常夜(じょうや)氏の最新曲にして、最大のヒット曲。ギターの音色が印象的な、ストーリー性に溢れる一曲だ。優雅で高尚な1・2サビと激しく荒れ狂うラスサビの対比も見事で、シンプルで無機質ながら寓意に満ちたMVと相まって作品の世界に引き込まれる。網音モマが高音で歌い上げるサビにも注目したい。
 さてこの度は常夜氏との対談も実現した。一部抜粋して紹介しよう。

 ◆◆◆

筆:この度はありがとうございます。
常夜(以後:常):こちらこそありがとうございます。網膜ボカロクリエーターとしてインタビューを受けるの、実は初めてなんですよね…。緊張しちゃってるので、よければそちらからなんでもお聞きください。
筆:おお、そうなんですね。ではお言葉に甘えまして…、本作は5作目にして最大級の反響を呼んでいますが、この曲を作るきっかけ…作るにあたっての思いだとか、そのようなものがあれば教えてください。
常:そうですね、私AMICOMIさんというPさんが大好きでして……ご存知ですかね?
筆:ええもちろん、「少女慣性飛行」とか。名曲ですよね。(常夜氏、うなづく)
常:AMICOMIさんって、「まねごとのいのり」を投稿してから一切浮上されていないんですよ。どうしても新曲が聴きたくて、「まねごとのいのり」への…返歌かな?そんな形でこの曲を書いたんです。お恥ずかしいですが…(笑)。
筆:なるほど、確かに言葉の引用だったり、MVに同じモチーフが出てきていたりもしますね。
常:ええ、もうめちゃくちゃ意識してます(笑)。あとこれは解釈の問題なのですが、「まねごとのいのり」は新約聖書の「ゲッセマネの祈り」を下敷きにしていると思うんですね、キリストが処刑の前日に祈りを捧げる、という。それで、私の作が「最後の晩餐」。キリストが弟子たちと食事をとり、この中に裏切者がいると告げる…時系列で言えば、「まねごと」の数時間前でしょうね。
筆:あぁなるほど!キリスト教モチーフの作品なのは分かったのですが、まさかそんな裏話があったとは。
常:いやー、実はそうなんですよ。あわよくばAMICOMIさんに届いてたらなんて考えちゃいますね(笑)。
筆:この勢いで届けちゃいましょうよ!本日はインタビューをお受けいただき、ありがとうございました!
常:こちらこそ、貴重な経験になりました!

 ◆◆◆

 意外なルーツについて教えていただけた。新曲にも期待したい。

6.都市構造メディカルミュージック/網音モマ (sakanatare)

 網膜ボカロ界の最前線を走り続けるsakanatare氏による一曲。可憐でありつつも切なげな歌詞には、作曲者の感性が光る。少女が見上げる夜のビル群は、まだよくわからなくて少し怖い。甘酸っぱい畏怖を包むのは、電子音が交差する深みのあるサウンドだ。信号や車の走行音も織り込まれており、都会の交差点に立たされているような気分になる。
 今回筆者はsakanatare氏とコンタクトを取ることに成功した。一部を紹介する。

 ◆◆◆

筆:この度はインタビューを快諾していただき、ありがとうございます。いろいろお聞きできればと思います。
sakanatare(以後:sa):いえいえ、こちらこそありがとうございます。インタビューしていただけるのは光栄なのですが、正直あまり大したことを話せない気がするんですよね…。
筆:えっ…、というのは?
sa:この曲、僕が都会を怖がっているだけなんです(笑)。
筆:え、投稿者コメントの「都会が怖い」って、本当にそういうことなんですか!?
sa:はい、いかにも…(笑)。いい感じに曲にしてモマに歌ってもらって、イラストとかMVまでつけてもらったもので、格好良くはなってますがね。元を辿れば本当に…ビル高い人多い怖〜い、みたいな。
筆:まあ、確かにちょっと怖いですよね、わかります(笑)。
sa:ですよね、僕の住んでる所はそこまで栄えてないんで、たまに都会に出ると怖いんです。まあなんというか…曲にしているうちに、社会に対してまだ少しの距離とときめき、そして恐怖を抱く少女が浮かんできたんです。未熟な彼女の目は高層ビルの規模感にくらむでしょうし、サラリーマンの歩くのだって早くって、世界に置いていかれるような気持ちになるかもしれません。
筆:なるほどなるほど…。タイトルにもある「メディカル」というのは、どういった意図があるんですか?
sa:それについては「自分の肯定」って感じですかね、この社会を歩いていていい、私は生きている…といった感じの。ラスサビなんかはこれまでと打って変わって、雲間から光が刺してくるような雰囲気に変えています。そこで横断歩道の音を入れたのも、青信号の暗示ですね。
筆:あぁ確かに、ラスサビで風向きの変わる曲だなと思っていたんですよ。
sa:そうですね。この希望が誰かにうまく刺さってくれれば幸いです。僕はまだ都会は怖いですが…いい大人なのに…。
筆:まだまだこれからですよ!私も要改善ですしね。では、本日はありがとうございました!
sa:ありがとうございました!新曲も製作中ですよ〜!

 ◆◆◆

 網音モマの少女性に加え、今後はsakanatare氏のメッセージにも注目していきたい。貴重なお話を聞かせていただけた。


おわりに

 網膜ボカロの世界はいかがだっただろうか?今後はもっとさまざまな楽曲を扱ってみたいと思う。人には人のストーリーがある網膜ボカロ。今回の記事も参考に、目力と想像力を働かせてさらに網膜ボカロを楽しんでいただきたい。

 ◆◆◆

 今回取材にご協力いただいたしんなりP氏・橋下トチカ氏・常夜氏・sakanatare氏に、あらためてお礼申し上げる。

インタビュー全文はこちらから!↓
https://dic.pixiv.net/a/網膜ボカロ

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