talkin' about Ayako Wakao 5
The edged age '60s (1)
* 女優開眼/増村保造
妻は告白する
滝川彩子 (若尾文子)をめぐる二人の男は夫の亮吉 (小沢栄太郎)と幸田修 (川口浩)。戦争を挟んで世代は異なる二人だが、自身の中に男としての等身大の愛慾を抱えている。しかし、それは日常を逸脱するほどのものではなく、妾を囲うことがステイタスであった日本的男性社会では、めんめんと黙認されてきた種のものだろう。
滝川は大学薬学部の研究者であり、製薬会社社員の幸田とは今どき乱発される win-win の関係ではあるが、家に出入りする幸田と彩子の親密度は深まっていた。
Trouble Is A Man
(1955/vo./Chris Connor) (song by A.Wilder)
(youtube)
3人で出かけた登山行をアクシデントが襲う。岩山で夫・亮吉が滑落したのだ。岩場にかろうじて取り付いる幸田は、足場を失くして宙に浮く夫婦の、命綱にかける重力に必死に耐える。岩場に取り付こうともがく亮吉によって状況はさらに悪化する。彩子は足元に下がる夫のザイルを切断した。
15年にわたる戦争という“日常”のなかで親を失った彩子は、親類に厄介者として養われていただろう。終戦後、薬剤師を目指し滝川の下で働いていたが、老年の愛慾に求められるまま後妻となる。しかし家政婦扱いの日々が流れるなかで出産も許されず、離婚を要求るも拒絶されていた。そんな情況のなか同世代の幸田への思いを募らせていたのだった。
非日常での究極の選択は、告発された彩子に無罪を与えた。保険金をも手にすることに。自分を圧していたものへの反撥が弾けた。
事件をきっかけに、幸田に抱いていた恋情は、自分を囲んでいたものを破って “愛を乞う” 行動へと突き進むが、幸田は怯懦して逃れようとする。
自分を飼殺しにすると言う夫の圧からの、また一方、長い戦時下の圧に堪えてきた女性の愛慾が、その解放を欲求したともいえるだろう。しかしそれだけではない、主人公の核にあるラディカルなものを表現しえたのが若尾文子だった。
雨でずぶ濡れになった彩子が (自己の存在を剥き出しにして)、幸田の会社 (社会に保守された場所)を訪れるシーンには鬼気迫るものがある。すでに人気No.1の若手スターであった若尾が “女優” に変貌したのだ。この時、相手役が誰であろうと、作品を背負える女優力を身につけたと思われる。そんな資質を映画世界に見事に引き出したのが増村保造だった。監督と女優の宿命的な関係性は大映終焉まで続く。
増村保造とのタッグで独つの女優像にたどり着いた若尾文子は、1962~3年にかけて、戦後世代の川島雄三監督「雁の寺」「しとやかな獣」、
ベテラン吉村公三郎監督の「その夜は忘れない」「越前竹人形」などで、
美しさ故にいっそう際立つ薄幸の女。一方、コケティッシュで、したたかな悪女のイメージをもまとったようであります。巷ではどの映画も高い評価ではあったらしいがな、、、
妻告で強烈な印象をもたらした、若尾的女優像からはピントが外れているように感じます。
新生 ファム ファタル
大映にとって、看板女優若尾文子を推す企業戦略は当然だったんでしょう。稼げる時ほど強欲にですな。最も多くコンビを組んだ増村作品にしても、人気スター映画の公開をコンスタントに要求するシステムの縛りのなかでは、全てが素晴らしい出来映えになるとは限りませんが、
「卍」(1964)
「刺青」(1966)
上記2作品には思わず引き込まれましたな。大谷崎の原作の美意識が増村監督の手で、そら美しいまでに映像化されての感嘆面 !!!
主人公(若尾)に相対する者は、自分の欲望の視線を、若尾に返されたとたん、彼女に “運命の人” を感じ、その魅惑に没入し幸福感に包まれる。監督はそのプロセスを、流麗でドラスチックなカットで展開し、エロスの使徒と成りにし者を翻弄し、ついには自滅させる “宿命の女” の美を描いたやな。
愛の神エロスはタナトス(死の神)の仮面であるという二面性を持つファム ファタルを、60年代の若尾ほどに演じえた女優はなかったろう。...蒼白き影のミステリアスに惹き寄せられて人は彷徨う。
A Whiter Shade Of Pale
(1967/Procol Harum)
(w./K.Reid /m./G.Brooker & M.Fisher)
(youtube)
*これ余談なんですけど・・・
試聴室のあるレコード店で、行くたびについ見とれてしまう、五つほど年上に思える女子店員から手渡されましたな。
ベースとアンプを買うため、夏休みのバイトの新聞配達先、広い芝生の庭がある家のお嬢さん (同年の高校生) へ貸したのですが、お好みではなかったらしい。その後は会うこともなかったけれど、何か?
海霧に目隠しされたようなこの曲のEP盤も、いつのまにか行方知れずでございます。
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