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◆ 話のネタ ◆No.39 Aさんの事:私は人殺しなんです

 約40年前、大学4回生の時の事、予備校で一緒だったAさんに大学入学後
初めて会い、話す機会がありました。 

 Aさんは、田舎の高校出身で予備校で1年一緒でした。 
高校教師志望で、純朴でまじめながら、少しお調子者のところもあるナイスガイで、皆から好かれる人柄でした。 

 Aさんは、私とは別の国立大学の教育学部に入学していました。
 
「Aさん久しぶりじゃね、元気じゃった?」 
「あっ、S(私の事)さん、久しぶりです。僕は、まぁなんとかやってま
 す。」
「そう、もうすく卒業じゃけぇ、いよいよ念願の高校教師になれるね ♬」

・・・・・そ・・れ・・が・・・・・・・・・・

「え~っ 何? ・・・・・ どうかしたん??」


「・・・・・Sさん・・・・・実は・・・・・私は、人殺しなんです。」 
 
 ”人殺し” という言葉が、耳に飛び込んで来たものの、一体何を言っている
  のか全く、理解できませんでした。
 

「ど、どういうこと??」 


 「私は、入学後、勉強ばかりでは、ダメだと思い、自分の身体も、精神も
 鍛えようと空手部に入りました。 辛くきつい練習だらけでしたが、
   その中で、かけがえのない仲間もでき、やがて黒帯を締められるよう
 になりました
。」 

「頑張ったんじゃね!」 
「そして、みんなから選ばれ空手部の主将になり、空手も一生懸命努力する
   とともに、仲間を引っ張っていきました。」


空手部の主将になった

「すごいじゃん、Aさんが主将なら、思いやりも厚いし、部員もみんな慕っ
 てついてきてくれただろうなぁ・・・」 
「えぇ・・・そうなんです、空手部は、よくまとまったとてもいい部に
 なりました。」
 
「それで、なんで、Aさんが人殺しなん?」 
・・・・・・・・実 は、・・・・・・・

「実は、空手部の伝統行事で毎年正月に寒げいこがあります。 
 海に入って空手の型をする荒稽古があるんです。」
  
「それで?」
「今年の正月に、海で寒げいこをやったんですが、空手部全員で海に腰まで
 つかり、気合を入れて様々な型をやりました」 
「なるほど」 


海に腰まで浸かっての恒例の寒げいこ!


 
「主将の私の掛け声でやるのですが、1度海につかって型をやり砂浜に
 上がった時、私が、つい、勢いにまかせて 
『おい、みんな~ 今年は、もう1回やるぞ!』
と叫んで、再度、海に
 入り、型をやりました。」 

非常に寒かったのですが、全員一丸となって、気合をいれているのがとて
 も素晴らしく、私は、
『おい、もういっちょやるぞ!!』
と叫んで、3度目の型をやりに海に入り
 ました。」
 
 そして、海に腰までつかりながら、3度目の型をし、砂浜に上がってきた
 時、なんと、部員2名が上がって来ないんです。 私は、慌てて、海に
 仲間と飛び込んだんですが、2人は、意識不明で溺れていました。 
 
 救急車を呼んで、病院に運んだのですが2人とも助かりませんでした。」 

           「・・・・・・・・」 

・・・あの時、私が調子にのって、3度も海に入らなければ2人とも死なな
 かったのに・・・・私が2人を殺したんです・・・・・・」

           「・・・・・・・・」 

「亡くなった2人のご両親に事態をご説明して、お詫びをしたのです
 が・・・・・・・

 Sさん、人殺しの私に、教師になる資格があるのでしょうか?・・・・」 

           「・・・・・・・・」


     今現在、その国立大学のホームページの部活の所には、
過去に『自然を甘く見たために死亡事故が発生し2名がなくなった』
という記載がありました。

 その後、私は、1度もAさんには、会ったこともありませんし、
噂も耳にしたことは、ありません。 

でも、Aさんは、間違いなく人の痛み、自分自身の痛み、自然の怖さを、
生徒に伝えられる教師になっていると思います。

そして、Aさんにも、子供ができ、亡くなった2人のご両親の痛みも、更に
深く感じ、その痛みも生徒や周りの方に生涯をかけてお伝えしていると思いますし、思いたい。


◆ 毎週、金曜日に発信予定です。
    次回予告:No.40 緊急時にマニュアルは、役立ったのか?

💛 よろしければ、スキやフォロー、コメントを頂けると幸いです ♬

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