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月と森のサブマリン ⑲       正面突破の巻

(森でひとり潜水艦)

イドの怪物との戦いの末、
正面突破に決まったが、
そこに至るまでの戦いは、
壮絶を極めた。
そこで、
その時の様子を、
適当に描写してみよう。
…。
イドの怪物が深層の奥底から、
お前、逃げきれんぞ-----。
と地に這うような重低音で、
俺に唸り続けた。
そして、
肥大化した奴を押さえきれなくなり、
あの時、
森で奴と対峙とあいなった。
お前--逃げきれんぞ---。
うるさいな~、なんだよ。
なんだその軽いのりは?。
だから、正直うるさいって言ってるんだよ--。
ふざけるな。
逃げるな。
正面きって俺と向き合え。
…。
分かった。
それで?。
やりゃーいいんだよ。
何を?。
強度計算だよ。
…。
イドの怪物、お前知ってるだろ。
何を?。
俺は数学、赤点だった事あるんだぞ。
…。
…自慢かよ?。
自慢だよ。
何時の話だよ、
遠い昔だ。
…。
わかるだろ。
何が?
強度計算って何だかわからね~けど、
超ムズイって事だよ。
だから何だ?。
だから?。
できそうにないって事だよ。
そういうのをバカの壁のバカってんだよ。
何だそのバカの壁のバカって?。
バカの壁って養老孟司のやつだろ。
たしか、
人間それぞれが何かを理解しようとする時にぶつかる限界の事だろ。
そうだよ。
それにバカがもう一つ並んで、
自分でできないと思い込んだら、
どんな些細な事でも出来ないって意味だよ。
誰が言ってるんだよ。
俺だよ。
…。
努力が足りないんだよお前は…。
…ちょっと待て、
何だ?。
努力が足りないのは、お前だろ。
俺?。
お前だよ。
俺?。
お前だ。
悲しくなってきた…。
…。
泣くな。
泣いてなんかいね~よ。
いいじゃないか、
何が?。
さんざん野原や川で遊んだじゃね~か。
…。
あの自然の中で真っ黒になって、
スイカも盗んで食ったし、
川でカジカのでかいの捕まえたし、
学校帰りにカキもリンゴも盗んで食ったし。
盗んでばっかだな。
そうだ、学校に行く途中で青大将捕まえて、
カバンに入れて持って行ったら、
授業中に後ろの女子の悲鳴が教室内に響きわたった。
後ろ見たら、
カバンから青大将が顔だしてペロペロ舌を出してた。
やばいかったな。
どこの田舎だよ。
お前も一緒だっただろ。
そうか?。
そうに決まってるだろ。
そうか。
お前がそそのかしたんだよ。
そうか?。
お前も共犯なんだよ。
そうか?。
…。
自白しろ。
忘れたよ、そんな昔の事。
…。
で、何だっけ。
強度計算だよ。
だから無理だって言ってるだろ。
それをバカの壁のバカって言うんだよ。
なんだよそれ?。
さっき言ったろ。
忘れた。
記憶力半端ないな。
うるさい。
人にはそれぞれ出来ないと思ったら出来ないという壁があるんだよ。
そりゃそうだ。
ちょっとまて、
なんだ?。
なら出来ると思ったら出来るのか?。
そうさ。
嘘こけ-、俺がリーマン仮説を解けるか?。
無理だ。
だろ…いやいや納得するなよ。
そうか?。
そうだろ、アホの壁のアホってのは自分が出来ないと思ったら出来ないんだろ。
なら出来ると思ったら出来るってお前は俺に説得しようとしてんじゃねーのかよ。
いや~、限度がある。
限度?。
そうだろ、超ひも理論が正しいか証明できるか?。
…そりゃ無理だな。
できると思っても無理だ。
だな。
…。
なら無理ね~か。
…。
そうでもないさ。
?。
できないと思ってもやってみる。
…。
もしかしたら、できるかもしれない。
まあ、ゼロパーセントじゃないだろうな。
でも、フェルマーの最終定理は無理だな。
興味ないし、挑戦する気もないし、
そこにやる意義も利益も感じない。
確かに。
なら、強度計算は意義も価値も利益もあるぞ。
…。
ここまでゴチャゴチャやってきた家を作る準備が、
ここで頓挫したらお笑い種だ。
…。
分かった。
古来からの軸組工法のホゾとホゾ穴に逃げるって手もあったが、
やめた。
…。
正面突破だ。
おお、正面突破。
…。
というわけで正面突破とあいなった。
で、
ついに始まる反転攻撃。
それは夜。
嫁も子も寝静まった巳(み)の刻。
男は茶の間の横に置かれたみかん箱の上で、
パコソンを開きネットの世界に潜り込んだ。
ブクブク。
…。
強度計算とやらを紐解く為には、
まずは参考書を購入して、
勉強するか…。
さて、
何を買えばいい?。
…。
いろいろ調べてゆくと、
分かってきた事があった。
…。
接続金具が破損しない為には、
建物の自重などにより接続金具に加わる力よりも、
接続金具の強度が高ければ、
金具は破損しない。
…。
なるほど。
…。
ふむふむ。
さらに、
地震などの外力が建物に加わった場合、
建物の中の丸太などを接続している金具に加わる力よりも、
金具の強度が高ければ、
破損しない。
なるほど、
…。
接続金具の強度を調べるにも、
金具にどのような力が加わるのか分からないと、
強度もへったくれもない。
となると、
建物の構造やら強度やらの勉強が必要となる。
やばいな。
で、
ゾロゾロ並ぶ建築構造とやらの書籍の中から、
適当に、
はじめての建築構造計算…。
鋼構造の設計…。
構造力学…。
鉄骨構造の設計…。
建築学小辞典…。
…。
などをまず第一弾としてネット購入したのだった。
…。
これで俺も構造計算屋だ、
とか思った。
…。
つづく。

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