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月と森のサブマリン ③       きこり                      

(森でひとり潜水艦)

建築場所が決まれば、
次は林立する直径30~50㎝、
高さ20mの赤松の伐採。
…。
建築場所に立ち、
見上げる。
…。
なんてでかいいんだ。
赤松は…。
…。
ワニのようなゴツゴツした赤黒い外皮をまとい、
ウネウネと曲がりながら天に伸び上がる。
伸し掛かるような重量感。
その見上げる先の木々の合間を、
白い雲が悠々と行く。
…。
こんな太い木をどうやって切り倒す?。
…。
何年生きてきたのだろう。
…。
人間の都合で切る。
…。
さて、
問題はどうやって切る。
ネット動画を見る。
なるほど、
チェーンソーとかがいるのか…。
…。
ホームセンターで見つけた。
歯の長さ400mm、
排気量36cc。
…。
買った。
…。
ついでに防音用ヘッドホンと保護メガネなどを購入。
…。
これで道具は揃った。
…。
やるぞ。
俺はキコリになる。
…。
翌週、ネットのポップスを聞きながら車で走る。
赤松の森に向かって。
…。
アハハーで走っていたが、
赤松の森に近づくと、
どんどん緊張してきた。
…。
前日。
切り倒す動画を何本も見た。
切り方…。
逃げ方…。
…。
現場に着くと折りたたみイスを出し、
座り、
茶を飲み、
仰ぎ見る。
赤松林。
さて、
どれから切るか?。
…。
やがて、
切るアカマツを決めた。
根元の太さ50㎝。
心臓が鼓動を速める。
荒い呼吸をしながら、
頭上を見上げる。
どちらに傾いているのか?。
どっちだ?。
こっちか。
倒す方向を決め、
呼吸を整え、
身支度を整えると、
チェンソーの燃料ポンプを数回押し、
キャブを半分閉じ、
エンジンスタートロープを一気に引く。
ブヒィ-ン。
キャブを全開にし、
アクセルレバーを数回引く。
ギャイ-ン、
ギャイ-ン、
森に響くエンジン音。
アカマツのてっぺんに止まっていたカラスがパラパラと飛ぶ。
森の空気が引き締まった。
いくぞ。
倒す側に斜め上から歯を入れる。
スロットルを上げ、
ギン-ン…。
歯がアカマツにめり込んでゆく。
と同時に切り屑が飛び散る。
ギヒィーン。
延々と、
慣れないから、
あちこちに力が入り、
苦しい。
やがて、
直径の四分の一ほど切り込むと、
歯を抜き、
始めに入れた位置より10㎝程下から斜め上方に向けて、
歯を入れる。
ギャイ-ン。
始め入れた切り込みの最終点にむけて切り進む。
イケ-。
やがて、
三角状になったアカマツの破片が抜けた。
一気に緊張感が溶けてゆく。
フ-。
エンジンを切り、
布イスに座り込むと、
ペットボトルの茶を飲む。
ここまで休み休み30分。
なるほどチェンソーの威力はなかなか。
…。
チョコなどを食いつつ、
意識をネットの世界に飛ばす。
世界の情勢、
音楽…。
別世界に飛び、
やがて、
現実に戻ってくる。
ヨシャ-。
倒し切りだ。
ラスト反対側から歯を入れる。
入れる位置は始めの刻みより10㎝程上。
ここからは長い戦いになる。
なにせ、切る深さが長い。
片膝立ちで、
歯をアカマツに入れてゆく。
ギャブィーン--。
切る事10分。
休みを入れて、
今度は反対側から、
ギャブィーン--。
そなんなこんなで、
やがて、ミキミキと音。
ヤバ。
途端に走る。
後方へ。
辺りの灌木に足をとられて転倒しながら、
逃げる。
巨木アカマツが、
ジワジワと倒れてゆく。
辺りにある他のアカマツの枝をへし折り、
合間の広葉樹をボキボキと押し倒しながら、
もんどり打って大地に落ちてゆく。
ドドォ~ン。
…。

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