月と森のサブマリン ⑳ 巨神兵を買うの巻
(ひとり森で潜水艦)
建築確認の強度計算研究が始まった。
大学の建築科あたりで使われていると思われる、
分厚い本を開いた。
…。
初っぱなから、
…。
汗。
汗…。
謎の記号が並ぶ。
汗。
む。
なんだ?。
書いてある文もわけわかめ。
…。
建築の暗号解析は、
勤めから帰ってくると、
家の片隅で始まった。
暗夜行路だ。
…。
そこには建築構造の壁。
突然素人が記号と数値と説明不足の解説に乱入。
やばい。
5分も読めば、
手が震え、
心臓が…。
…。
だが、
現場でも問題が起きていた。
…。
当然休日になればアカマツの森で肉体労働者となった。
気分は最高だ。
夜の建築書物の暗号解析と比べたら、
お天道様に照らされて、
森の風の中、
ひとりでエンヤコラなのだ。
だが、
5トンユンボで、
建築場所を掘ると。
表層の薄い土の下に、
石、石、石。
岩、岩、岩。
中岩。
大岩。
巨石。
超巨石。
小惑星。
惑星。
地球。
巨大な岩がゴロゴロ。
とてもじゃないが、
尋常なレベルではない岩がゴロゴロ。
もはや、
地球に合体していると思われる岩。
ビクともしない岩だらけ。
もはや5トンユンボでは埒(らち)が明かない。
なら、掘るの止めて、
岩の上に造成すればよろし、
と言われそうだが、
頭の中の設計思想が許さない。
…。
そして、
ついに、
動かぬ岩に、
現場の造成工事も暗礁に乗り上げた。
…。
男は森にひとり佇んだ。
…。
八方塞がりだ。
…。
ぼんやりと木々の合間から見える空を見た。
青い空を、
白い雲が流れてゆく。
…。
ふと、
シジュウカラが飛んだ。
眼の前を。
お!。
とその時。
頭の中に浮かんだ。
ん?。
何処かにあったような?。
俺はジムニーに乗ると、
森を抜け、
田園の田舎道を走る。
緑の稲が風に揺れ、
遠くまで波のように風が流れてゆく。
その先に見えた。
あった。
それは巨大なパワーショベル。
それは知り合いの不動産屋の敷地に置かれていた。
近くに建つ不動産屋の事務所に車を止めた。
オヤジさんいる?。
おお、どうした。
あの裏にあるバックホー売らない?。
おお、あの20トンのパワーショベルか?。
そうそれ。
コンマ7だぞ。
説明)このコンマ7というのは、
バケット一杯で0.7立方の土砂を掬(すく)い上げる能力があるという意味。
一般的に使われるパワーショベルでは一番大きい。
あれは、
借金のカタに、
土建会社からの引き上げた物だ。
と言いつつ、
不動産屋のオヤジは一本指を伸ばし、
声を上げた。
一本だ。
ん?一本?。
100万だ。
それを聞いた途端俺は声を上げた。
買った-。
…。
新品で買えば2000万はするバケモノだ。
それが100万。
だが、
当然そんな金は俺には無い。
あるのは嫁の懐(ふところ)だ。
…。
あ~でもない、
こ~でもないと、
籠絡(ろうらく)し、
買った。
アハハ。
汗…汗。
…。
近くの重機運送会社にお願いして、
森の入り口まで運んでもらった。
その巨大な鉄の固まり。
…。
家がそのまま動いているような大きさだ。
そのバケモノに、
名をつけた。
…。
巨神兵。
…。
つづく。
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