欠けた葉と増えた歯
■葉
大学3年生。夏。
池袋の公園でタバコを吸いながら缶コーヒーを飲んで、15:00の授業までだらだらと暇をつぶしていた。
ふと空を見上げると7月の空の中に、蝉の抜け殻がイチョウの葉の裏に脱ぎ捨てられていた。二股に分かれた葉に橋を架けるように。
「蝉からすれば二股に分かれている方が不安定だ!なぜ二股なんだ!」
とよくわからない蝉への正義感で怒りが湧いてきた。
変人である。
いくつか記事を調べてみたが明確な答えは得られなかった。どうやら扇型になるのは光合成効率を上げる為、二股に切れ込みが入るのは風の抵抗が大きくなってしまうのを避ける為と言う説があるようだ。
なるほど、ともすれば二股に分かれている構造は蝉にとって風で飛んでいかない安全装置にもなっているようだ。イチョウさん失礼した。
もう蝉として謝罪している。変人である。
そんな事を考えてもまだ時間は潰れない。
遅めの昼飯を松屋で食べるか、と牛めしを想像して舌でベロリと口内をなめずった時である。
「凸!」
舌の真舌。何もないはずのそこにデキモノの様なふくらみを感じた。
■歯
5か月後。
下あごのそこには5mm程の歯が生えている。
歯の並びをポンデリングの位置だとすると、中の空洞部分に歯が生え始めているのである。そこには嚙み合わせも何も無い。
始めは「こんなところに歯が生えてるオレカッケー!」と、主人公が異能力を手に入れた的なイメージでワクワクしていた。
しかし、5mmにもなると常に舌にぶつかり、口内に常に異物感を感じるのである。
流石に常に口をもごもごさせている主人公は嫌だと思い、歯医者に行った。
「あー、この位置珍しいね。カジョウシだわ。写真撮らせて。このままにしとくと舌ズタボロになるからね。あと親知らずも抜いちゃうね」
まったく知らない市が出てきたと思えば、しれっと追加され一気に2本抜く事になった。そんな替え玉みたいに。
グリグリと二本抜かれる際、能力を失う主人公を想像しなんだか悲しくなった。
抜かれた後は快適だ。
口内が健全だとこうも集中力に差がでるのかと、テストの点が悪かった事とカノジョがいない事をカジョウシとやらのせいに出来た。
調べてみると、どうやら「カジョウシ」は「過剰歯」だったようだ。
過剰歯とは通常生える永久歯以外に生えてきてしまう歯の事を指すらしく、女性よりも男性に多く見られるらしい。
諸説あるらしいが、なぜ「過剰歯」が発生するのかそのメカニズムは明確にはなっていなそうである。
抜歯後の定期通院で過剰歯の発生理由について聞いてみると、
「明確には分からないけど、昔の人ってもっと歯が多かったんだよね。だからその名残でたまに生えてきちゃう事があるんだと。君の場合は生えた場所が珍しいけどね」
との事だ。
つまり、過去の能力が意図せず発現してしまったらしい。
■葉と歯
足りないもの。過剰なもの。あなたにとってはどちらも好ましいと思えないかもしれない。
しかし、実際には100点ピッタリでは無い事で何かしらの新たな意味を内包する事ができるのだろう。
欠けた葉は蝉の成長を支える事が出来るし、しがない学生の授業までの暇つぶしにもなる。増えた歯は束の間の主人公感とカノジョが出来ない理由を与えてくれた。
むしろ100点ではない事で新たな気づきを得る事が出来るのだ。
そんな、ヒソカ的生活してみると面白いかもしれない。ククク。
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