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ムジナ汁は何の肉?
ムジナをご存じですか? そうです。小泉八雲の怪談に登場する妖怪です。それを汁にして食べるのですからワクワクしますね!
小泉八雲の「貉(むじな)」
江戸・赤坂の紀伊国坂は、日が暮れると誰も通る者のない寂しい道であった。ある夜、一人の商人が通りかかると若い女がしゃがみこんで泣いていた。心配して声をかけると、振り向いた女の顔には目も鼻も口も付いていない。驚いた商人は無我夢中で逃げ出し、屋台の蕎麦屋に駆け込む。蕎麦屋は後ろ姿のまま愛想が無い口調で「どうしましたか」と商人に問い、商人は今見た化け物のことを話そうとするも息が切れ切れで言葉にならない。すると蕎麦屋は「こんな顔ですかい」と商人の方へ振り向いた。蕎麦屋の顔もやはり何もなく、驚いた商人は気を失い、その途端に蕎麦屋の明かりが消えうせた。全ては狢が変身した姿だった。
この話ではムジナが化かすのですが、一般的にタヌキ=ムジナと考えられているのでムジナが化かしても違和感がないのでしょう。ただし、地域によってはアナグマ=ムジナだったり、タヌキ=アナグマ=ムジナ、ハクビシン=ムジナ、タヌキ=アナグマ=ハクビシン=ムジナだったりするので、色々とややこしいのです。
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タヌキ、アナグマ、ハクビシンは外見がよく似ています。これらはみな夜行性なので、街燈など無かった時代なら見分けられなかったのだろうと思います。また、タヌキはアナグマの巣穴を使っていることがよくあるので、同じ穴から出てくるとさらに見分けられなくなります。これが本当の同じ穴のムジナですね。
タヌキ汁
こうなるとややこしいのはタヌキ汁です。タヌキの肉は臭いというのはジビエ愛好家の間では有名で、タヌキ汁は実はアナグマやハクビシンの肉で作るという説も有ります。アナグマとハクビシンの肉は旨いと評判ですからね。タヌキではない肉を使う場合は、ムジナ汁という名前になることがあります。ハクビシン汁とかアナグマ汁はストレート過ぎて敬遠されるからです。ムジナ汁なら、なんとなくタヌキっぽいし、ムジナって聞いたことあるし… みたいな。ちなみに、精進料理でタヌキ汁といえばコンニャクが入った味噌汁です。
婆汁(ばばあ汁)
昭和初期ぐらいまではタヌキ汁を婆汁(ばばあ汁)と呼ぶ地域もあったようです。これはカチカチ山のストーリーに関係しています。
❮カチカチ山❯
昔ある所に畑を耕して生活している老夫婦がいました。老夫婦の畑には毎日、悪いタヌキがやってきて不作を望むような囃子歌を歌う上に、せっかくまいた種や芋をほじくり返して食べてしまいます。業を煮やしたおじいさんはやっとのことでタヌキを捕まえました。
おじいさんは、おばあさんにタヌキをタヌキ汁にするように言いつけて畑仕事に向かいます。タヌキは「もう悪さはしない、家事を手伝う」と言っておばあさんを騙し、縄を解かせて自由になるとおばあさんを杵で殴り殺し、おばあさんの肉で「婆汁」(ばばあ汁)を作りました。そしてタヌキはおばあさんに化けると、帰ってきたおじいさんにタヌキ汁と称して婆汁を食べさせます。おじいさんが食べたのを見届けると正体を表し、「婆汁食べた、婆汁食べた!流しの下の、骨を見ろ!」と嘲り笑って山に帰りました。
なんともショッキングな話ですが、元々のカチカチ山はこんなストーリーだったようです。「今夜は婆汁にするべ」なんて笑顔で言うとトンだサイコパスです。
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最新タヌキ汁事情
戦後の経済成長とともにタヌキ汁を食べることは少なくなっていったのですが、ジビエ料理がブームになり、タヌキを食べる人が徐々に増えてきているようです。そこで少し疑問に思ったのですが、今出回っているタヌキ肉は本当にタヌキなんだろうか? ということです。中にはアナグマやハクビシンが混ざっているのではないか? バラしてしまうと見分けがつきませんからね。なんならアライグマやレッサーパンダでも分からないでしょう。
もちろん、ちゃんとした肉を提供されている真面目な業者(猟師)さん、ジビエ料理店は「タヌキ」「アナグマ」など、きちんと分けて表記していらっしゃいます。
ムジナ汁(ムジナ肉)と表記されている場合は、恐る恐る「何の肉ですか?」とお尋ねください。店主の返答次第では、両腕で頭をカバーして走って逃げましょう。