【読んだよ】井上真偽『その可能性はすでに考えた』
タイトル画像は文庫版のカバーです。
出版社のカバーの上にTSUTAYA文庫のプロデュースしたカバーがかけてありました。
井上真偽さんは初めて読む作家さんなのですが、YouTubeチャンネルの「ほんタメ」で紹介されたので購入して読んでみました。
山里で集団生活していたカルト宗教の教祖と信者たちが自殺したという事件があり、唯一生き残った少女が探偵を訪ねてきます。
その少女には首を斬られた少年が自分を運んだのでは?という記憶がありました。
少年を殺害した凶器は遠く離れた場所にあり、少女が殺すには不可能な状況。
さらに亡くなった信者たちは鍵のかかった拝殿の中にいました。
ここまであらすじを書くと、探偵が謎を解き明かす流れだと思われるでしょう。
でもこのお話では、探偵が事件のあらゆる可能性を否定し、首のない少年が少女を運んだという奇蹟を証明しようとするのです。
は? なにそれ? と思いましたか?
わたしは思いました。なので読んでみました。
謎を解こうとするのは、元検察官の老紳士、裏世界を牛耳る中国美女、探偵の元助手だった小学生(!)です。
彼らの提示した推理を聞いた探偵は、「その可能性は、すでに考えた」という決め台詞と共に自分の報告書を読むように言います。
探偵の報告書には推理の内容が書かれ、さらにそれが成立しない理由も書かれているのです。
あらゆる可能性を潰して奇蹟であることを証明する。
そんなことが本当にできるのでしょうか。
気になった方は読んでみてくださいね。
◆感想◆
キャラクター設定や文章がミステリというよりライトノベルぽいなと思いました。
探偵の上苙丞(うえおろじょう)は青髪、オッドアイ、赤い上衣の美青年。
探偵に融資する中国美女が相棒役を務めるのですが、「~ね」という口調がやや古さを感じさせます。
探偵にツッコミ入れつつところどころ可愛いです。
老紳士たちが推理を展開しますがどれも荒唐無稽、探偵は状況と当事者の少女の記憶を根拠に否定をします。
そのような机上の空論ぶりがあまりわたしの好みではありませんでした。
事件かどうか不可解な状況について登場人物があれこれ論じるという作品で思い出したのは、中井英夫『虚無への供物』です。
1964年に出版されたミステリですがたいへん面白いのでお勧めです。
ウィキペディアにはオチが書かれてるので読まないでくださいね。