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中小企業診断士 養成課程の強みと弱み

 養成課程の強みは、学習内容の量的豊富さと、これによって繰り返しあらゆる与件に取り組むことで、自然と現状分析から課題特定、真因探求までできるようになることです。
 これらは、演習で鍛えられ、実習でその成果を発揮するという建付けになっています。演習では、テーマ別にカリキュラムが組まれ、これに取り組みます。

 しかし私が感じるのは、果たしてこれでいいのだろうか、ということです。このことは同時に、私が考える養成課程の弱味になります。
 というのは、入学して、直ぐに演習が始まる訳だが、演習ではテキストが配布され、このテキストはある企業の経営環境とこれに対する設問が記載されている。要は2次試験の問題と同じで、2次試験と違うのはボリュームが多いという点です。これをグループ単位で、現状分析から課題特定、真因探求から課題解決策まで解いてゆく。
 これが入学早々から行われる訳です。当然、研修生の皆さんは、その時に持っている知識で、これに取り組むことになります。その知識とは、当然、1次試験知識になります(テーマによっては多少、仕事で得た知識も反映されるかもしれない)。そして、それが全てです。
 
 これを来る日も来る日も繰り返すことになります。確かに毎日、同じことを繰り返すことで慣れます。したがって、より早く回答が導かれることになります。しかし、その回答が必ずしも正解とは限らない。同時に、1次試験知識以外、他の知識やノウハウは得られないという大きなデメリットも発生します。
 これでは、得られるものは少ないと言わざるを得ないでしょう。これで将来、コンサルティング実務をこなしていかなければならないというのでは、心細くならざるを得ません。

 考えてみれば2次試験も1次試験知識に基づいてロジカルに正解を導くものであるので、2次試験で資格取得しても同じ課題が残ります。
 この課題は、実務の中でこなしていけば解決されるものでしょうか。それは非常に難しいと言わざるを得ません。

 よく経営コンサルタントが10人いれば10人の考えが違い、それは全て正解だというようなことが言われる。
 私はこの考えに賛成できない。10人の考えは正解もあれば、不正解もあると思っています。もしも不正解を企業に助言・指導したらどういうことになるかは、火を見るよりも明らかです。その企業が瀕死の状態であったなら、倒産に直結してもおかしくありません。私たちの助言・指導で助かったり、逆にどん底に落とされたりするのです。
 
 だとするならば、養成課程にいるうちに正しい知識やノウハウを身に付けることが必須だということです。毎日、同じことを繰り返していたのでは、進歩や革新は生まれないのです。

 一例で考えてみましょうか。毎日の繰り返しで使われる代表的な手法の一つに、SWOT分析あります。SWOT分析は、企業の現状分析を4つの象限にまとめたもので、現状整理には欠かせない。そして、これをクロスして課題の特定まで導いている。ここで考えてほしいのは、演習や2次試験なら百歩譲ってこれでいいかもしれない。
 しかし実務となると、ここには大きな罠が潜んでいるのです。

 それは、SWOTの情報源は社長からということになります。その社長から聞く内部外部情報は果たして本当に正しいのだろうか、ということです。多くの社長は、その情報は従業員から取得している。そして経営にとって最重要事項である販売に関する情報は、営業マンに依存しています。販売の現場で何が起こっているかを自ら確かめる社長なんて、ほんの一握りいるかいないかというのが現状です。その従業員からの情報は、嘘やごまかしで塗り固められている。いや、さすがにそこまでいかなくても、従業員本人にとって有利になるように多少なりとも脚色や創作がなれているものであり、時には貴重な情報が握り潰されているということさえ起こるのです。しかも従業員サイドの情報というのは、経営に関するものはほとんどないという社長や我々にとっては参考にならない情報に埋め尽くされてしまっている。ということは、事実とはかけ離れ、その情報の質も低いという状況の中でSWOT分析してしまっては、事態の状況を誤ってしまう危険性が生じ、そして会社を間違った方向に導いてしまうのです。
 
 私は実務では、SWOT分析は自分の頭の中で整理するに留め、これを書き出して社長に説明したりすることはない。なぜなら、話半分の情報であり、社長の話をSWOTにまとめて説明しても今更感が強いためです。社長にとっては既知のことだからです。したがって、SWOTに代わる現状分析手法が絶対的に必要になるのです。現状分析でこけては、すべては悲劇に終わってしまいます。現状分析は、コンサルティングの入り口だからこそ、正しい分析が求められるのです。養成課程では、このようなことに基づき、正しい現状分析のための手法を教えて頂きたいものです。

 私見ですが、経営とは学問でもなければ理論でもないと思っています。それは、企業存続の実現を賭けた戦いなのです。その戦いに勝つための必要な助言・指導を行うのが我々の仕事なのです。戦いを経験したこともない人達の理論を有難がっているうちは、成果の上げられるコンサルティングは不可能でしょう。なぜなら、そのような理論の多くは、机上の空論に過ぎないためです。


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