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阪神百貨店の美味しい牛すじを食べて姫路おでんを思う(姫路「澤田店」の関東煮と巻き寿司、イナリ寿司)

大阪から兵庫辺りへ新幹線で行くと、私はだいたい梅田の阪神百貨店に立ち寄る。あの辺りにいくつもある一連のデパート群の中でも、阪神百貨店のデパ地下が最も好きなのだ。回りやすい広さで、食べものをより美味しそうに見せる照明の感じも良い。
元々は大好きな絹笠の「とん蝶」を買うために初めて訪れ(新大阪や大阪駅でも買えるけれど、阪神百貨店では全種類が揃うのだ)、繰り返し通うにつれ、人の流れが速い上に地下道が複雑で若干苦手意識を持っていた梅田にも少しずつ慣れた。何か美味しいもの買って帰ろう…という時にはだいたい阪神百貨店のB1フロアをひと巡りし、その時美味しそう、食べたいと思ったものを買う。

学生時代から大好きなとん蝶。煮大豆と昆布のおこわに赤い小梅が添えられた、かわいくて美味しい一品

とん蝶、和菓子、節分なので恵方巻に明太いわしと順調に買い揃え、概ね満足ではあるけれどもう一品くらい何か欲しいかな…と思いつつ歩いていると、肉惣菜のエリアで夫が「美味しそう」と目に留めたのが牛すじ串。さすが滅多に関西に来ない夫、関西らしい美味しいものを見つけるのが早い。
でも確かに美味しそうだった。串に刺さっているのが更に照明に映えて食欲をそそる。惚れ惚れするような照りにほろほろの煮加減、どうしても食べたくなって迷わず2串買った。ねぎとだし醤油をかけてこぼれないよう袋に入れ、しっかりテープで留めてくれる。

帰宅して温めようと取り出すと、脂がすっかり白く固まっていた。それくらいトロトロで、国産牛ならではの旨味もボリュームもたっぷり。欲張って一人ひと串買ったが私には半分で十分だったので、残りの半串は煮汁と共にとっておき、翌日絹ごし豆腐とえのきだけを加えて煮込んで贅沢な肉豆腐にして食べた。これまた抜群に美味しかった。一味を降ると最高、大満足。

写真のイメージよりも三割増しくらい大きいです

そんな美味しい牛すじを食べて、ふと思い出した関西の美味しいものがあった。
姫路おでん。
牛すじ串が必ず入り、そのこくを煮出した出汁と濃い色の醤油で煮込まれ、食べる際には生姜醤油をかけるスタイルの、「関東煮(かんとだき)」と呼ばれてはいるが、関東ではまず食べられない種類のおでんである。
姫路まで食べに行ったことは随分前に一度しかないが、その一度が忘れられない。「澤田店(さわだみせ)」という老舗で、このために姫路から山陽電車に乗って向かった。

2014年時点の外観。その後改修されたのか、公式ページを見るに現在は異なるようです
2014年当時のお品書き

見よ、この一朝一夕では到底出せない濃く深い煮汁の色を。これだけでもう家では真似できないとひと目でわかる。おでん屋さんのおでんは格別の美味しさ、贅沢だと思う。

丸天、こんにゃく、すじ、厚揚げ、ちくわ

澤田店では煮込んでも崩れず、汁の濁らない練り物とこんにゃく、すじだけを具に採用している。煮鍋はその六種の具ごとに仕切られ、奥のピンク色の容器に入った生姜醤油をシャバシャバとかけて出してくれる。

「ほな、かんとだき何にしましょ?」と手早く取り分けてくれたおっちゃんの手がぶれました

いかにも濃く見えるが、食べてみるとそれほど濃くはない、醤油とみりんのやさしい味…と思っていたら、直後にすじの味がぐいぐい来て私は思わず刮目した。当時はまだ関西の牛すじ食文化を知らず、濃い色の煮汁から単純に関東でよく見る醤油の濃いおでんの味を想像していたのだ。それ故口の中に意外な美味しさが広がり、俄かに理解できずにいると同行した和歌山県出身の友人に笑われた。「そりゃそうだよ、おでんと関東煮は違うものなんだよ」と言い、「そうそう、これが関東煮だよね」と懐かしそうに目を細め、頷きつつ味わっていた。
それまで私は「関東煮」という言葉は単に関西の人がおでんを指す際使うものだと思っていた。全くの別物であると知ったのはこの時だ。

しみしみの厚揚げ

加えて特筆しておきたいのが同店の巻き寿司、いなり寿司の美味しさである。持ち帰りで注文したところ、いなりは注文してから酢飯を詰め、巻き寿司も注文後に切ってくれる。確か「どれぐらいの厚さがええ?」とおっちゃんに訊ねられた気がする。そうした会話も至って良いものだった。

当時の価格で巻き寿司500円、イナリ寿司400円。両方合わせて竹皮でくるみ、緑色の包装紙で包んで持たせてくれる。それぞれが二人前くらいありそうな、ずっしり来る重さ。

特にいなりは時間が経つほどに味がなじみ、美味しくなった。食べ頃はむしろ数時間後かも知れない。玉子焼きとかんぴょうの具の巻き寿司も美味しくて、これ以来私は好んで玉子焼きの巻き寿司をよくつくるようになった。

いかにも素朴、なのに感心するほど美味しかった

印象的だったのは寿司酢のまろやかさで、件の友人が「ああ、これも関西風の酢の柔らかさだよ。東京の寿司は酢が固いんだよね」と、その味をしきりに懐かしがっては「あの店のうどんも食べたかったなあ」と後々まで言っていた。

――わかる!わかるよその気持ち、という牛すじのしみた煮汁や関東煮の美味しさを、冒頭の牛すじ煮を食べて久しぶりに思い出した。それで長々と書いた次第である。
しかも今日は初午。お稲荷さんを食べる日にちょうど良い話題だったかも知れない。

また行きたいな澤田店。十年以上前の訪問時で既にかなりの年季の入り方だったので、まだあるかしらとやや心配になりながら検索すると、ちゃんと健在だった。良かった。


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