279、夏バテ父さん
あ~。疲れた。
お父さんが、心配をかける。
食事介助のとき、見守ってると、ひとりで変なところに、スプーンを運ぶ。
以前までなら、こんなことはなかった。
スプーンによそって、手渡したら、ちゃんと口もとへ自分で運んでいった。
今日は、ほっぺたのところへスプーンを持っていって、口に入れてくれない。
姉が心配しちゃって、心配しちゃって、職員さんに相談する。
「夏バテかも知れませんね」
と職員さんは、答えた。
それまで、風邪の後遺症が残ったのだろうか。具合でも、悪いんだろうか。姉と二人で、一生懸命、話し合っていた。
夏バテだったのだ。
夏バテ。
ぼくらでも、夏バテになると、普段できていたことができなくなる。
高齢者なら、もっとかも知れない。
「お姉ちゃん。きっと、お父ちゃん、なにするのもダルいんやわ。ダル~て、ダル~て、しゃーないんやわ。
ぼくかて、夏バテしたら、なにもかも、ダルなるもん」
そう言って、姉を納得させた。
ぼくは、お母さん子で、姉は、お父さん子だった。姉の父を心配する気持ちは、人一倍、強い。
ダルいんか~。お父ちゃん。
ダルいんやったら、しゃーないな。
でも、あんまり、心配かけさせんといてや~。