『小説の神様』
わたしは元来、読書メーターというアプリを利用している。
読書メーターでは、読んだ本を登録して、本の感想を書くことができるのだが、250字という制限がある。
しかし、最近読んだ『小説の神様』の感想は250字では書ききれないと思ったので、noteのほうに記しておこうと思う。
※ネタバレ注意※
主人公の話
まず、途中でわたしはこの本を読むのをやめようか悩んだタイミングがあった。
なんとなく主人公の裏に作者が透けて見える感じがしたからである。
勿論、主人公が小説家なので、主人公に作者を投影してしまいやすい環境ではあったと思う。
しかしながら、そもそも主人公が書く小説の主人公は(ややこしい)、精神的にも弱くて幼い主人公であり、かつ主人公も精神的に弱い部分があるので、主人公が書きたい小説の主人公=作者が書きたい小説の主人公なんじゃないかという錯覚に陥った。
(伝わる?)
そうなると、小説に入り込みにくくて、あくまでも現実のわたしがこの本を読んでいるという事実が強調されるような気分になり、ギブアップしそうになった。
でも読み進めていくと、主人公に人間味があることが愛しいと感じるようになっていった。
きっと誰でもそうだろうし、占いでもよく言われるようなことなんだけど、後悔したことを何度も思い出してしまうというところが身近に感じたのだ。
後悔したことのない人を探す方が難しいと思うので、ここをキャッチーに描くというのは、読者が小説に入り込みやすくなるきっかけとしてとても良いだろう。
このように後悔を描くことによって、最初はただ精神的に弱く自分の弱さを見て見ぬふりをしている主人公が、なぜ精神的な弱さを抱えているのかを理解することができ、主人公を身近に感じられるのだろう。
ヒロインの話
この小説の中には、完全無欠なヒロインが登場するのだが、このヒロインは主人公の妬みの対象になる。
ヒロインは主人公と同じ小説家ではあるのだが、美人で売れっ子作家だったのである。
しかし、このヒロインは実は主人公と似たような悩みを抱えていることが明らかになる。
ヒロインも主人公も小説を書くということができなくなっていたのである。
その中でヒロインは、普段書いている小説とは別のペンネームで恋愛小説を書くようになる。
別のペンネームということもあり、その恋愛小説は鳴かず飛ばずで全然売れなかった。しかしながら、その小説はヒロインの本当のファンには届いていたのである。
それが主人公の妹だ。
主人公の妹は病気がちで入院を繰り返していたのだが、兄である主人公が小説家ということもあってか、小説をよく読んでいた。
妹はヒロインの書く小説が好きで、よく兄に依頼して病院に持ってきてもらったのである。
その中に混ざっていた本が、ヒロインが別のペンネームで書いた恋愛小説だったのである。
わたしはここに、この物語の核を感じた。
つまり、小説を待ってくれている人は必ずいるということ、どんな小説家であっても「あなたの本を待っているよ」と言ってくれる人がいるということだ。
これは作品中にも直接的な言葉で何度も書かれている。
しかしながら、この妹とヒロインの描写では、間接的な表現を用いて、小説を待っている人がいるという事実を伝えているのだ。
「小説の神様」とは
結局「小説の神様」が何かということは、直接的には書かれていないし、きっと読者ひとりひとりが考えるべきものではあると思う。
わたしは小説を読んできて、神様という神様に出会ったことはないけれど、力を貰ったことはある。
昔『パセリ伝説』という名前の小説を読んでいた。
主人公は「パセリちゃん」という名前で特別な力を持っており、その力で祖国を守っていくという話だった。
「パセリちゃん」はとても勇敢で、自分の力を信じて、どんな困難にも立ち向かっていく女の子だった。
わたしは当時小学6年生で、水泳部に所属していたのだが、飛び込みがどうしても怖くてできなかった。
そんな時に『パセリ伝説』に出会い、主人公の「パセリちゃん」に感銘を受け、無事に初めて飛び込みができるようになったのである。
きっとこれが神様と出会った時だったんだろう。
このようにきっとみんなどこかで「小説の神様」というヤツに出会っているんだと思う。
神様を味方につけるのか、それとも身近におくのか。それは読者次第であろうが、存分に享受して明日の自分にプレゼントしてあげたらいいと思う。
物語は、願いだ。
願いを受け取って、明日の誰かが、今日よりも素敵な誰かになりますように。