野生の饗宴 凌辱の生贄
コケむし、シダやキノコの生える巨木に身を横たえ、全裸のルカはポーズを取る。
ときには触手のようにたれさがったツタに身をからませ、骨のない軟体動物や地虫の蠢く腐葉土に身体を沈めながらも、ルカは嫌悪の表情を浮かべない。それどころか、うっとりと妖しく淫靡な笑みをカメラに向ける。
まるでジャングルに巣くう、すべてに犯されているかのように。
カメラマンの飯田は、そんなルカを見ながらシャッターを切った。
締まった肉体と豊満な乳房をほこるルカは、19歳のグラビアモデルだ。
女が男を押し倒し、凌辱する。そんな時代にふさわしいアイドルとして、彼女はデビューする。
「なにもこんなところにこなくても、国内でも、それなりの森はあるだろうに」
飯田はレンズを交換しながら、苦言を呈する。
「なにいってんですか。ルカのイメージコンセプトは『野性と理知とエロス』ですよ。野性味を引き出すのにもっともてきした場所はジャングル。ジャングルといえば赤道直下の熱帯雨林。奄美や屋久島あたりの原生林じゃ、見る人が見ればわかっちゃいますよ」
ルカのマネージャー小山は、湿気と熱気と飛び交う羽虫に顔をしかめながらいう。
「わかっちゃ、ヤバいのか」
「ジャングルは都会でもあるんです。ジャングルで身もだえするルカは、都会で男を求める女の象徴なんです。大都会トーキョーに対抗するジャングルはやっぱり……」
「そんなもんかね」
虫よけスプレーを全身に塗りつけているとはいえ、襲いかかる虫たちはあとを絶たない。まるで、ルカの裸体を求める男たちのように。ルカもそれを承知しているのか、ドロリとした粘質の樹液にまみれながら、かすかな興奮を見せている。
飯田も最初は、小山と同じようにうだる暑さとベットリと染みつく湿気にうんざりしていた。しかし、ファインダーをのぞき、一糸まとわぬルカの姿を見つめているうちに、そんなことを気にしなくなる。
身長は170をゆうに超え、肩幅もひろく、脚も長い。
バストサイズはGカップ。しかし、その乳肉は張りつめ、鋭利な金属でも簡単にはじき返してしまいそうだ。
ワイルドな肢体をほこりながら、顔立ちは清楚な東洋風。肌の色も純白に近く、いまは熱気と興奮に紅潮している。
ジムできたえているといっていたが、色気のない筋肉質ではなく、ほどよい脂が全身をおおっている。それが汗と除虫薬で光沢を放ち、木漏れ日を跳ね返す。
うっそうと生い茂る木立、けたたましい鳥や野獣の声、むせ返る熱気、鋭い陽光。
文明とやらに毒された人間たちをあざ笑うかのような大自然の中で、ルカは長い髪をかきあげ、小さく厚い唇から舌をのぞかせ、みずから乳房を揉み、大きく股を開いていた。
飯田は無我夢中でシャッターを押す。時間を忘れ没頭する。それはだれもが同じことで、その場に居合わせたマネージャー、アシスタントらスタッフも現地のガイドも、ルカのダイナミックな痴態から目をそらすことができずにいた。
陽がかたむき出したころ、予定時間を大幅にオーバーして、その日の撮影は終わった。
昼間でも薄暗いジャングルは、夕方になると、いっそうその趣を強くする。
飯田たちはぬかるむ地面に苦労しながら帰路を急いだ。
完全に闇が訪れれば、抜け出すことすら不可能に近い。こんなところで野宿をする準備をしていないし、勇気もない。
「はやく、はやく」
元来気の弱い小山はスタッフを急かす。
「待てよ、こっちは荷物が……」
膨大な機材を抱えて飯田はいう。
「わたし、持ちます」
「え?」
「体力には自信ありますから」
そういって、バッグの一つを手に取ったのはルカだった。
「あ、ありがとう」
「いいえ」
日灼けを避けるために長袖のシャツとくるぶしまでおおわれたパンツ、そして安全靴を履いたルカはにっこりと笑う。
目深にかぶった帽子からかいま見えるその表情に、飯田はついさっきまでのイメージとまったく違う印象を抱いてしまう。
ガイドが先頭に立ち、飯田たちは急いだ。しかし到着したときよりも、余分に時間がかかっている。
「どうしたんだよ、いつになったらクルマにたどり着けるんだよ」
小山はガイドと地図を見ながら、英語で話している。口早な会話に、飯田は何をいっているのかわからない。
「迷ったようですね。ほんと、頼りないんだから」
そのようすをながめてルカはいった。
「ルカちゃん、英語、わかるの?」
「少しだけですけど、日常会話くらいなら」
ルカはにっこりほほ笑む。こんな状況におちいっても落ち着き払ったその態度に、飯田は敬愛すらおぼえてしまった。
「こっち、こっちです」
半分泣き出しそうになりながらも、小山は虚勢を張って声をあげた。
「よっこらしょ」
腰かけていた倒木から腰をあげ、飯田は小山が示す方向に進んだ。
肩にずっしり機材のストラップが食い込む。しかし同じようにバッグをかかえたルカは、平然と前を向いて歩いていた。
「あ……」
どうにかこうにかジャングルを抜け出ると、あたりは明るい陽光に満ちていた。たしかに巨大な太陽は西の空にかたむいてはいるものの、森の中にいるほど暗くはない。
しかし、目の前にひろがる光景を見て、飯田たちは声をなくす。
そこは一つのムラだった。
「なんだよ、ここは」
飯田は小山を見る。小山とガイドは首をかしげて地図を見つめている。
文明から隔絶されたといっていいのか、ムラは広場を中心にひろがり、まわりはジャングルに囲まれている。つまり飯田たちは、完全にジャングルを抜け出たわけではないのだ。
並ぶ住居らしき建物は掘っ建て小屋。珍しそうに飯田たちを見つめる住民は全裸に近く、腰ミノを身につけているだけだ。
「困ったなぁ」
小山はつぶやく。
「困ったのはこっちだよ」
「ま、とにかく野宿の必要は……」
「本当か?」
ムラの女や子どもたちは、突然あらわれた飯田たちに脅えた視線を向けている。そして男たちは、威嚇するような鋭い視線を向けている。
「快く泊めてくれるとは思えねぇけどな」
「ま、とにかく交渉だけは」
小山はガイドに命じた。常に笑みを浮かべ、ルカをいやらしい目で見つめるこの男は、愛想よく原住民たちに近づいて行く。
「言葉、わかんのか?」
「さあ……」
不安げなようすで小山はガイドを見守る。
ルカはそれでも落ち着き払っていた。聡明なひとみをまっすぐに向け、ことの成り行きを見守っている。
「しかし、なんですね」
「なんだ」
突然、言葉を出した小山に飯田はたずねる。
「なんだかいいですね、ここ」
「なにがだよ」
「いえね、ジャングルでの撮影もいいんだけれど、なんていうか、エロが足りないっていうか」
「え?」
「やっぱり、カラミがほしいんですよ。完璧な肉体をほこるルカと野蛮な男の」
「なにいってんだよ。あいつらとルカをセックスさせようっていうのか」
飯田は思わず怒鳴ってしまう。飯田の頭の中では、すでにルカを単なる被写体ととらえてはいない。
「なにも、そこまでいっちゃあいませんよ。セックスしなくても、なんていうかな、全裸のルカと男たちの何人かが一緒に写るだけでいいんですよ。ほら、女のエロっぽさを引き出すのに、動物と一緒に写すのって、あるでしょ。ヘビとか」
「あいつらは人間だぜ」
「あれがルカと同じ人間だと思いますか?」
小山の言葉に、飯田はムラの人間を見た。
女はスルメのようにしなびた乳房をたれ下げ、飛び出た腹とずん胴の腰を見せつける。男たちは太い胴体に細い手足を持ち、干からびた表情をしている。
別に原住民を卑下しているわけではないが、ルカの肢体とは雲泥の差がある。
「ネ、横に並べるだけでも読者は想像しますよ。ルカの肉体が犯されるようすを。もちろん、それなりにエロチックなポーズは要求しますけど」
飯田は思わずルカを見る。ルカは黙ってうつむいている。
「いいね、ルカ。なにも恥ずかしがることはない。ただ裸になって肌に触れさせるだけなんだ。なあに、あいつら女の裸は見慣れてる。ムラの女はいつだってまっ裸と同じだから」
そういって小山はカラカラ笑う。その声に、飯田はいきどおりすらおぼえた。
「ルカちゃん、どうする。きみがいやなら、オレはシャッターを切らない」
その言葉に、ルカは首を横に振った。
「わたしはしたがいます。だって……」
それまで不安げだったルカは、ニッコリ笑った。
「だって、お仕事でしょ」
「そう、そうそう、仕事なんだ。写真集が売れれば、もう、がっぽり」
小山は満足げな顔を浮かべた。
こうなると飯田に逆らう権利はない。どんなに頼りない男でも、小山はプロダクションの社員。飯田は仕事を請け負っている立場だ。力関係は歴然としている。
ガイドはムラの言葉を解したのか、交渉は段取りよく進んでいった。その中に小山が割り込み、新しい企てを告げる。
ガイドはおおげさに手をひろげ、満面の笑みを浮かべると、そのことも住民に告げる。そのとき、やはりいやらしい目でルカを見ることを忘れなかった。
「あいつ、ルカちゃんのこと、狙ってるな」
飯田はいう。
「あら、わたしはこれから、何千、何万人の目に裸をさらすのよ。一人くらい平気よ」
たしかにそのとおりだ。写真集が売れ、グラビアで取りあげられると、ルカの肉体は途方もない男たちの視線にさらされる。
その売上が飯田のギャランティの原資になるわけだが、なんだか釈然としない気持ちになってしまう。
これまで何十人もの女の裸を撮影してきた飯田にとって、初めての感慨だった。
交渉がまとまり、ルカは記念撮影風に写真を撮った。帽子は脱いだものの、着衣のままだ。
その後、ルカは衣装を脱ぎ、ふたたびその完璧な裸体を白日にさらした。
夕闇は刻一刻と迫り、オレンジ色の夕日の中で、ルカの肢体は淫妖に浮かびあがる。
ルカはその姿で、まず女たちと並ぶ。栄養失調気味の干からびた女たちとは違い、ルカの張り裂けんばかりの色香を保った肉体は、やはり同じ人間かと疑いたくなるほどだ。
それだけでも、じゅうぶん扇情的である。
やがて、女たちとの撮影が終わると5人の男が選ばれ、ルカとのからみがはじまった。
最初はふざけた素振りで、ルカはじゃれあっていた。
脚をからませ、肩に抱き着く。男たちに抱きかかえられ、宙に浮く。
男の一人がルカの乳房を揉んでも、甲高い笑い声をあげ、拒絶を示さない。
しかし状況が高じてくると、男たちは遠慮なくルカの肉体をまさぐりはじめた。ルカもつらそうな表情に変わってくる。
背後から胸乳を揉み、臀部に腰を押しつけてくる男。ルカの秘部を注視し、顔を押しつけようとする男。ルカの太ももをなぜまわし、舐りはじめる男。
ルカの表情は、苦悶から次第に淫靡にゆがみはじめる。唇からは淡い吐息が漏れ、全身が桜色に染まる。
生まれてこの方、湯を浴びたこともなく、アカや脂にまみれた肌を極上のボディにこすりつける男たち。くすんだグレーの物体が、汚泥に立ちつくすヴィーナスを求め、もてあそぶ。
男たちのペニスは、いつようにふくらんでいる。ルカは何度も舌なめずりをし、光悦の表情を浮かべる。
男たちの愛撫で、ルカの準備は整っているのかもしれない。だれかが股間を密着させ、少しでも腰に力を加えれば、いともたやすく挿入を果たしてしまうに違いない。
「これ以上は、ヤバいんじゃないのか?」
飯田は、ツバを飲み込み、黙って見つめている小山にいった。
「犯られちまうぜ」
その言葉に小山は我に返る。
「そこまで、そこまでだ!」
いままさに嬲りかかろうとする男たちを怒鳴りつけ、小山は間に割って入った。
茫然自失となったルカ。バスタオルに包まれ、スタッフに助け出される。
「大丈夫か、ルカ」
「え、ええ……」
小山の言葉に薄い笑みを浮かべるルカ。顔は上気し、身体から力は抜け落ちている。
そのとき、男たちが激しく飯田たちに訴えた。
「なんていってるんだ」
飯田は小山にたずねる。同じ言葉を英語にし、小山はガイドにきく。両手を肩まであげ、ガイドは困った顔で説明している。
「なんていってるんだ」
飯田の質問に、小山は困惑の表情を浮かべて答えた。
「男たちは、ここまでさせといてストップは殺生だといっているらしい」
「なんだ、最初の約束はどうだったんだ」
「我々が危険な一行でないこと。その証拠にこの女を抱いていい。その代わり、一夜の宿をあたえてほしい……。そんなふうに交渉したらしい」
飯田は愕然とした。
小山をはじめ、スタッフの目的は単純な写真撮影だ。それを頼りないガイドは、ルカをまるで手みやげがわりにしてしまった。
説明不足だと、小山はガイドにつめ寄る。しかしガイドも、このムラの言葉を片言の単語でしかあやつることができなかったらしい。
「どうやら、並んでの撮影をうまく伝えられなかったようです」
小山は焦燥をあからさまにした。
男たちは全員、腰蓑から隆々と一物をあらわにしている。このままで終わるのはヘビの生殺しだ、とでもいいたいのだろう。
男として、その気持ちはわかる。しかし、簡単に許していいものでもあるまい。
ルカはモデルだ。AVギャルではない。裸体をさらすが、ハメ撮りはNG。当たり前のことだ。
原住民の男たちは、激しい剣幕でガイドに食ってかかる。その言葉をガイドは小山に伝える。小山の顔から血の気が引いて行く。
「なんだ、なんていってるんだ!」
飯田はわからぬ言葉の渦に、いらだちを感じた。
「困りました。男たちはわたしたちを殺してでも女を奪い返す、と……」
ガイドは震え、逃げ場を探しはじめる。しかし、ジャングルに飛び込んだところで、無事に帰ることのできる保証はない。
「クソ!」
飯田たちになすすべはない。男たちは、いままさに襲いかかろうと身構えている。武器を用意するものもいる。
「わかったわ、わたしがなんとかします」
それまで黙ってことの成り行きを見守っていたルカがいった。
「なんとかするって……」
飯田はいう。
「大丈夫、まかせといて」
スカはすくっと立ちあがり、バスタオルを巻いたまま男たちに近づいて行った。
「おい、やめろ!」
小山が叫ぶ。
「心配しないで。なにもセックスしようっていうんじゃないの。いくらわたしでも、5人一度じゃ壊れちゃうから」
ルカはそういって少女のような笑みを返す。そして、立ちつくす男たちの輪の中へ、身を投じるのだった。
状況の変化に気づき、歓喜の男たちは我先にとルカに襲いかかろうとした。しかし、ルカは毅然とした態度でそれを制する。そして、一人一人に指をさし、順番を決めると乾いた地面にひざまずいた。
「さあ、あなたから」
髪をかきあげて一人の男にすり寄ると、どんなに激高してもなえることのなかった肉棒に舌をはわせはじめる。
「んん、うぅん……」
ルカはこびりついたアカをぬぐうように、ていねいに舐る。そして唇を大きく開くと、すっぽりとほお張る。
「オゥ……」
ルカの愛撫を最初に受けた男は、小さな雄叫びをあげる。
女を犯したことはあっても、口での行為は初めてに違いない。そのなめらかで温かな感触に、男はぼう然とした表情で立ちつくしている。
「んん、あぅん、んん……」
ルカの舌が、太く屹立する男根に絡みつく。あたえられるだけの行為に、男は早くも頂点を迎えた。
「オオ、オオ、オオ……!」
男は太ももの筋肉をケイレンさせると、ルカの口の中にほとばしりを放った。
「んく、あん……」
ルカは地面にザーメンを吐き出す。
「さあ、次はあなた」
並ぶ男たちに、次々とルカはしゃぶりつく。あれだけ荒々しく憤怒をあらわにしていた男たちは、お菓子を配られる子どものように順番を待っている。
一人、二人……。
ルカは疲れを見せず、しゃぶり、舐り、精液を導き出していく。
射精のたびに吐き出してはいるが、いくらかはのどを伝って胃に落ちて行く。口からあふれた唾液や精液の残り汁が、乳房の谷間にしたたり落ちる。
「んん、あっ、あん……。ふう、さあ、次の番」
射精間際に口から抜け落ち、顔面に浴びせられても狼狽を示さない。落ち着き払った態度で次から次へ、ルカは咥えつづける。
3人、4人……。
動きは激しく、ヂュブチュプと湿った音がシンと静まったムラにひびく。バスタオルがしゃぶり動きでゆるみ、スルリと地面に落ちる。
ルカの肢体が、ふたたびあらわになる。それでもルカは手で、口で、唇で、舌で、男たちを悦楽に導き、樹液を浴びる。
「さあ、あなたで最後……」
日が暮れはじめたとはいえ、熱帯の暑さは終わりを告げない。ルカの肌はポツポツと吹き出す汗におおわれる。それがいっそう素肌に光沢を加え、見つめる飯田たちに奇妙な感慨をあたえた。
「んん、んん、うん、んく……」
最後の一人が果てたとき、ルカはだらしなくうつむき、ザーメンを吐いた。
漆黒の髪は、白濁のしぶきがこびりついている。紅潮した肌や乳房が粘液で汚れている。
「はあ……、これで、許してね」
ルカはうわ目づかいで男たちをながめ、笑顔を送った。
しかし復活した最初の男が、快感にぼう然としている最後の男をはねのける。そして、もう一度の愛撫を求め、ルカの髪の毛をつかんだ。
「バカ野郎、もういいだろ!」
飯田は思わずルカをかかえ込み、男をにらみつけた。そのあまりの剣幕に、男は一瞬怯んだものの、すぐに飯田ににじり寄る。
あたりに険悪な雰囲気がひろがる。ルカに愛撫を受けた男たちは、飯田につめ寄る。それを飯田は、必死ににらみ返す。
「プア!」
そのとき、ムラの中でもっとも大きな小屋の中から声がし、一人の老人が姿をあらわした。
「プア、アウタン、ブカ!」
白髪を地面に届きそうなほど伸ばした小柄な老人は、杖をつき、男たちに近寄る。その言葉は叱責なのか、男たちは飯田から離れる。
顔面はヒゲにおおわれ、体躯はミイラのようにやせ細っている。背丈は木立にぶら下がるチンパンジーほどでしかないのに、その声は凜としてハリがある。
男たちに近寄り、老人は何かを告げる。すると、殺気立っていた男たちはスゴスゴと引き下がり、それぞれの小屋に戻って行った。
「ふー」
飯田は安堵をおぼえる。
「もう大丈夫だよ、ルカ」
ルカはうなずき、崩れ落ちる。
老人は静かな声で何かを話し、それをガイドが小山に伝えた。
「なんていってるんだ」
意識を失ったようにひとみを閉じるルカをかかえたまま、飯田はたずねた。
「この老人はムラの長老、つまり最高権力者。今夜はこの村に泊まるがいい。もちろん男たちは一切近づけない、といってるらしい」
そういって、小山も安堵でへなへなと地面にひざをついた。
「そ、そうか……」
飯田は眠りに落ちるルカを見た。
肌と唇に男たちの体液が残っている。それでも飯田はいとうことなく、それどころか、その唇に触れたい衝動に駆られるのだった。
とてもうまいとは思えない食事と妙な味の地酒をふるまわれ、撮影班には粗末な小屋をあてがわれた。それでも昼間の疲れもあって、飯田たち一行は熟睡する。
「ユー、OK? OKね」
「いやよ、なにするの、やめてよ」
眠りに落ちていた飯田の耳に、ガイドとルカのいい争う声が入ってくる。飯田は眠い目をこすり、身を起こす。
「なんだ、お前、なにしてんだ」
その声にガイドは、驚いたようなそぶりを見せた。
「飯田さん」
男たちと離れ、小屋のすみに横たわっていたルカは急いで飯田にすがりつく。
「オー、ノー」
「何がオー、ノーだ。だいたいお前はなぁ」
起きあがり、食ってかかろうとする飯田をルカが止める。
「いいの、あの人のおかげで、こうやって眠る場所ができたんだもの」
「なにいってるんだ。あいつはルカちゃんを」
「いいの、その代わり」
「その代わり?」
「今夜は一緒に寝てください。ね、いいでしょ」
ルカのほほ笑みに、飯田の気分はやわらぐ。ガイドは何かぶつぶつ文句をいいながら、自分の場所で寝入ってしまった。
雲一つない空には満月が浮かんでいた。小さな窓と掘っ建て小屋の透き間から、青白い光が差し込んでくる。
疲れ切っているはずなのに、飯田は眠りなおすことができなかった。
すぐ横にルカがいる。昼間、さんざん裸体を見せつけ、ムラの男たちのペニスを咥え込んでいた彼女だが、その寝顔は少女のように愛らしい。
しかし、ダイナミックなスタイルと甘酸っぱいフェロモンが、飯田の神経を過敏にする。
「くそ」
ヘビの生殺しはこっちだ。飯田は、そうつぶやきそうになった。
小山もほかのスタッフも熟睡し、あのガイドもいびきを立てて寝入っている。安心して眠っているルカに手を出しても、気づかれることはあるまい。
「でもな……」
それなら、さっき制したガイドと同じことになる。自分も同じ穴のムジナとなってしまう。
「くそ」
もう一度、飯田はつぶいて眠りに入ろうとした。
森の中から、ときおり聞こえる動物たちの呟き。飛び交う羽虫、うだる熱気。
「ホー、ホー」
そのとき、ケモノの咆哮にも似た妙な声が、ムラ中にひびいた。
「なんだ」
ようやくまどろみを迎えていた飯田は覚醒する。
「ホー、ホー」
あわてて外を見る。しかし、人の影は見当たらない。
「ホー、ホー」
何かを誘うように、だれかを呼んでいるかのような声が延々とつづく。
「あ……」
ルカがいきなり、むっくりと身を起こした。
「ルカ」
飯田は声をかけた。ルカは何も聞こえにいようなそぶりで立ちあがる。
「どこへ、どこ行くんだ」
飯田は引きとめようとする。しかしルカは、声の主を捜すように小屋を出て行った。
「どこへ行くんだ。戻れ、ルカ」
飯田は、夢遊病者のように歩くルカを追いかけた。
広場は月の明かりで昼間のように明るい。
ルカは寝ぼけているのか、それにしては足取りがしっかりしている。まるで、目的のある場所を目指して歩いているように。
「ルカ」
飯田は声をかける。しかしルカは振り返りもせず、ジャングルの中へと足を踏み入れて行く。
ムラに到着したときには気づかなかったが、ジャングルには細い道があり、奥へ奥へとつづいていた。
そこをルカは進んで行く。飯田は冷たい月光だけを頼りにあとを追う。
「ホー、ホー」
声は次第に大きくなる。その声は、まぎれもなく人間の口から発せられていることを飯田は確信する。
「ルカ、止まるんだ、ルカ!」
不思議な力に導かれていることを知った飯田は、大声でルカを呼んだ。しかし、ルカに足を止める気配はなく、やがて木立が開いた部分にぼんやりと灯る光の存在を飯田は見つけた。
「なんだ?」
警戒しながら方向を見定めると、ぽっかりとした空間がひろがっていた。その広場の中央にかがり火がたかれていた。
炎はメラメラと闇を舐め、燃えあがっている。そして、周囲にうごめく人影。
「う……」
その光景に飯田は声をなくした。
人影はムラの男たちだった。もちろん、ルカが口技でザーメンを絞り出した男たちも、車座になっている。
広場の端には祭壇のような舞台。その上には、あの長老がうずくまっていた。
声は男たちの口から漏れている。全員が目を閉じ、クスリに酔っているかのようにゆらゆら揺れている。
飯田の前を歩いていたルカは、それが当たり前であるかのように舞台に進み出る。男たちはルカの登場に、別段驚いたようすもなく前後左右に揺れつづけている。
影の揺らめきは、飯田の足をその場に止めた。
やがた声は止まる。薪の音だけがパチパチとはじける。
ルカは舞台にあがり、長老の前に立つ。長老はルカを認めると、しなびた笑みをこぼした。
昼間の好々爺とは打って変わって、奇怪で不気味な様相。
ルカは妖しい笑みを浮かべ、スルリと衣服を脱いだ。
ルカの白い肉体が、炎の向こうに浮かびあがる。男たちはそれでも、歓喜のため息ひとつこぼさない。
全裸のルカは舞台の上に横たわった。長老は枯れ木のような腕を伸ばし、ロウを流したようなルカの肌に触れる。
「あん……」
ルカは、それだけで電気でも流れたような表情を浮かべた。
老人の手は、ルカの足からふくらはぎ、そして太ももへと進む。
「う、うん……」
苦悶の表情を浮かべ、切ない吐息を漏らすルカ。
老人はクモがはいずりまわるかのように、ルカの素肌をなぜる。
茂みの薄い恥丘をなぜ、腹部をこすり、乳房をまさぐる。あお向けになっても崩れることのない盛りあがりは、老人の手の動きにプルリと揺れる。
「ああん、うん」
老人はしつこく、丹念に手をはわせる。首筋をなぜ、ほほをはさみ、髪の毛を指にからめる。
「んんん、ああん」
ルカは、そのたびに白い歯をこぼし、舌をのぞかせた。
肌は薄い朱に染まり、汗がにじみ出ている。
老人はくまなくルカの素肌を楽しむと、その秘部に手を伸ばした。
「あぁん、あん……!」
その瞬間、ルカはあごを突き出し、背を反らす。
老人はせわしなくルカの肉裂の中で指を抽送させる。ルカは敏感に反応し、のけ反り、ケイレンをくり返す。
老人の手が愛液で濡れる。ルカは髪をかきあげ、自分で乳肉を揉む。
「あ、い、はやく、うん、ううん、はやくぅ……」
ルカの湿った喘ぎ声がひびく。男たちは黙って、そのようすをながめている。
老人のしつような愛撫。ルカは我慢の限界を超え、身をよじった。
「はやくぅ、はやくぅ……」
驚いたことに、老人の男根はムクムクと怒張をはじめていた。それは、あの小さく細い体躯のどこに隠していたのかと疑いたくなるほど、長くて太い。まるで、よじって切り取られる前の腸詰めのように。
「ヘビだ……」
飯田は思う。
股間の異物はぬたくるヘビのようにうごめいている。それは、このムラを統率する神聖な象徴であるかのように。あの性器が存在するからこそ、血気盛んな男たちを一喝することのできる力をそなえているかのように。
老人はおもむろに、ルカの脚の間に身を置いた。そして、その長大な陽物をずるりずるりとルカの内部に挿入していった。
「アアァ……!」
ルカはカッと目を見開く。まるで、老人の肉塊で内臓を食い荒らされているかのように。
クビレた腰を浮かし、触れればはじき返すハリを持った太ももを震わせ、爪を突き立てて舞台の床を引っかく。
「アアア、アア、ああああああ!」
ルカの雄叫びがひびく。しかし老人は、すべてを埋没させるまで注入をやめようとはしない。
ルカは必死にこらえていた。膣筒をかき混ぜ、子宮内部まで届く感触にたえている。
老人は座したまま動こうとはしない。そのモノ自身が、自らの意思でルカを犯しつづけている。
「ン、ああん、いやん!」
悶絶するルカ。一度すべてを沈めた長物は、ずぬりずぬりと抜けはじめた。
その動きに合わせ、ルカの腰が沈む。しかし半分ほど抜け出た腸づめは、ふたたび侵入する。
「んああああ、ああうぁん!」
ルカは、泣き声にも似た叫び声をあげた。
紅蓮の炎、冷色の満月。
桜色に染まった裸女、鈍色の老人。
二人をつなぐ忌まわしい肉柱。
それをぼう然とながめる、褐色の男たち。
「ああん、あんあん、あん、ダメぇ、もう、ダメぇ!」
老人から伸びる軟体動物の動きが早くなる。
「あん、あん、あん、あん、もう、あん、もう、やん」
ルカの声は単調につづき、頂点の訪れを告げていた。
「イヤン、イヤイヤ、ああん、ああん、ダメ、変になっちゃう、狂っちゃうううう!」
ルカは髪をかきむしり、のぼりつめようとしている。
「ん……」
老人は低くうなり声をこぼすと、動きを止める。
「あ!」
ルカが大きく口を開け、眼球が飛び出さんばかりに目をむく。
ルカの内部に老人のエキスがそそがれていく。熱く、濃く、多量の精液が注入される。
ルカの膣内を何億、何兆の精虫が泳ぎ、うごめく。その1匹1匹が血液に混じり、体液となって駆け巡る。
ルカの膣口から、あまった液がしぶきとなってふきあがった。
ルカは、そのまま意識を失う。
老人は身動きひとつしなくなったルカを見届けると、ゆっくりと抜き取った。スルスルとちぢんで一物は姿を消し、老人はもとの姿に戻る。
「ホー、ホー」
ふたたび男たちのだれかが、あの声を出した。それと同時に、見守っていただけの男たちが我先にとルカにむらがっていく。
覚醒おぼつかない視線に光が戻り、牝鹿を襲う野獣のように爛々とした輝きを放っている。
男たちはルカをかかえあげ、群衆の中におろす。
飯田は、何かしなければいけない焦燥に駆られた。しかし、この群衆を目の前にして、ルカを助け出す勇気はない。単身飛び込んでみても、徒手空拳では勝ち目がない。
飯田はなすすべもなく、くりひろげられる光景を見つめる。
男たちは競ってルカを犯しはじめた。
女陰はもちろん、口、アヌスにいたるまで挿入を試みようとする。
髪の毛を股間に巻きつけてよろこぶものがいる。乳房にはさんで、こすりあげるものがいる。
手で握らせるもの、乳房しゃぶりついて自分でしごくもの。
数十本の手がルカの肉体をまさぐり、嬲りものにする。黒くうごめく波の中で、真綿のような肉体が浮き沈みする。
ルカはうっすらとひとみを開けているが、抵抗することなくされるがままになっている。
やがて、男たちの爪がルカの素肌に傷をつけはじめた。
ミミズバレが浮き出る。鮮血がにじむ。
口に、股に、乳房に尻に、まき散らされる精液。ルカの全身が白濁に染まる。多量の粘液の中に、ルカの裸身が沈んでいく。
鼻をつくすえたにおいと糸引く粘液の中で、男たちはあきることなく、限界も忘れてルカをむさぼった。
入れかわり立ちかわり貫く怒張を受け入れ、ルカは終わりの見えない饗宴の中で、身を躍らせるのだった。
「朝ですよ、起きてください」
小山の声に飯田は目をさます。
「ここは?」
「やだなぁ、きのうのムラですよ。さ、起きてください」
延々と続く饗宴に、嘔吐と目まいをおぼえた飯田は、その場に昏倒した。
それからあとのことは知らない。
「ルカ、ルカは」
飯田はあわててルカを探す。
「顔を洗いに出てますよ。井戸があるんです。案内しましょう」
小山は、きのうの不安もどこへやら、はずんだ声でいった。
飯田はふらつく足取りで外へ出た。ムラの人間は、何事もなかったかのように生活を送っている。
長老はムラのすみに腰をおろし、人形のようにうずくまっていた。
「おはようございます」
そのとき、ひろがる青空のように爽やかなルカの声が、飯田の耳に飛び込んできた。
「どうしたんですか? すごくお疲れのようす」
飯田はルカを見る。長い髪を一つに束ねた素顔のルカは、いつもどおり明るく可憐な笑みを浮かべていた。
「夢か……」
あんなことが、あのようないままわしい出来事が事実なら、とてもこんな笑顔を見せることなど不可能だ。
そう考えた飯田は、やはり幻覚であったと苦笑し、井戸の場所をたずねた。
「あそこですよ、ほら、あの小屋の向こう」
その瞬間、飯田の目にルカのうなじが飛び込んだ。
「あ……」
「え?」
飯田は驚愕する。
「る、ルカちゃん、その傷……」
「え? あ、ヤだ。あら、こんなとこにも引っかき傷」
うなじ、わき、乳房の谷間に爪の跡が残っている。
「大丈夫かしら、ファンデーションで隠せますよね」
ルカはいう。飯田は、何もいうことができない。
「あれは……」
飯田は思わず長老を見た。しかし、老猿のような長老は、黙して何かを語ろうとする素振りすら見せなかった。
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