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あんこを食べると思い出す


創業七〇周年記念エッセイ集『御座候ふぅど記』

御座候創業七〇周年記念エッセイ集編集委員会[編] 御座候 2020


ところ変われば呼び名が異なる食べものといえば
みなさまは何を思い浮かべますか?

 
自分の信じていた呼び名が通じない戸惑い、そして驚きを
少なからず経験したことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
特に関東と関西では明らかに異なる呼び名が多く、
「今川焼き」もそのひとつ。

 関東では「今川焼き」
 関西では「回転焼き」「大判焼き」
 
と呼ばれるのが一般的なようですが、諸説あるようです。1)

縁あって東西どちらにも住んだことがある私は、関西で絶大な人気を誇る「回転焼き」を知ったのです。
その名も兵庫県・姫路生まれの「御座候(ござそうろう)」(商品名)

『御座候ふぅど記』はこの「御座候」を愛してきた方々の温かな「まあるい思い出」2)が詰まった1冊です。
 
御座候を知り、同時に愛してしまった私は、店頭では飽き足らず、
姫路城そっちのけで、御座候が手がけた「あずきミュージアム」へ足を運びました。
そこで出会ったのが『御座候ふぅど記』でした。
現在は御座候の公式サイトにて閲覧することができますし、
オンラインショップでは本としても販売されております。
 
変わらない「まあるい思い出」2)が時には世代を超え、国籍を超え、昭和から令和までつながっている。

「ありがたく御座候」という感謝の気持ちが
この本を読むたびにあふれてきます。
 




『まるまるの毬(いが)』

西條奈加[著] 講談社 2017 講談社文庫  


「食べかけの御座候や...」
御座候に出会ってしばらくたったころ、書店にて食欲全開で手にした1冊「南星屋(なんぼしや)」と私の出会いでした。

「南星屋」とは、親子三代で商う和菓子屋のことです。
本書の連作の『亥子ころころ』(西條奈加[著]講談社 2022 講談社文庫) 、『うさぎ玉ほろほろ』(西條奈加[著] 講談社 2022)は、南星屋と菓子、
そこに集う人々との人情が丁寧に描かれている物語です。

南星屋の特徴として、職人であり南星屋の主、治兵衛(じへえ)が渡り職人として各地を旅していたこともあり、店先には季節や天気、仕入れの具合によってさまざまな菓子が並びます。

各話のタイトルが菓子の名前になっており、時には菓子が心の中に閉じ込めていた感情を呼び起こしたり、疑惑を生むきっかけになったり、家族をつなげてくれたり…
 
登場した「キースイーツ」を文字だけで堪能できることも魅力ですが、それ以上に、私は読後に人間のままならぬ感情を感じました。

人間は、ままならぬ感情を抱きながら自分に都合よく言い訳をして、それでも生きている。
しかし、生きていれば「そんな自分を認めてもいいか」と思わせてくれるつながりができる。

 
そんなことばが、じわりと私の心に残りました。

なお、読後に和菓子屋に行きたくなる衝動にかられるのは必須です。
近所の菓子屋と出会うことができる特典つきですが。

西條奈加(さいじょう・なか)さんといえば、2021年に『心淋し川(うらさびしがわ)』(集英社 2020)で第164回直木賞を受賞されたことでご存じの方も多いかもしれません。
本書『まるまるの毬』では、2015年に第36回吉川英治文学新人賞を受賞されております。幅広いジャンルでご活躍されている作家さんでもありますので、本書に限らず好きなジャンルから読んでみるという読み方もおすすめです。
 
ところで、本書を読むきっかけとなったカバー装画についてですが、彦坂木版工房さんという木版工房が担当しているそうです。

本書のような装画や広告のほかに、『パン どうぞ』(講談社 2014)や
『おもち』(福音館書店 2021)などの絵本も手がけてらっしゃいます。3)

一足先に、ぷっくりと膨れたおもちを食べちゃおうかしら。




『ようかん』

虎屋文庫[著] 新潮社 2019


『まるまるの毬』を読んでからというもの、以前よりもコーヒーのおともに「和菓子」を選ぶことが多くなった私は、片手でも食べられる煉ようかんを見て思ったのです。

 ようかんっていったい何かしら?

このあんこの塊を人はいつから食べているのだろうか
という思いに至りました。

そんな時に出会ったのが『ようかん』という1冊。

本書は老舗の和菓子屋として多くの方々に知られる虎屋さんが本気で本づくりに取り組んだ1冊です。
ちなみに、著者の「虎屋文庫」とは

和菓子文化の伝承と創造の一翼を担うことを目的として設立された、
和菓子の資料室

とらやについて/菓子資料室 虎屋文庫


その創設は昭和48年(1973)であり、機関誌である『和菓子』という学術雑誌も年1回発行されております。

虎屋さんの歴史はすなわち日本のようかんの歴史
といっても過言ではないと思える読み応えのある1冊。

ようかん全史はもちろん、原材料である小豆・砂糖・寒天について
「ようかん愛」を語る方々のことば、この本を読まなければ一生知ることはなかったであろう、ようかんをきれいに切るための方法(角度込み!)
さらには全国のようかん案内まで…

なお「Ⅰ ようかんって素敵だ!」(本書pp..2-7)や「Ⅱ 菓子見本帳」(本書pp..8-11)などには、虎屋さんの四季折々のようかんや貴重な資料がカラー写真で掲載されています。

ようかんの奥深さが凝縮しており、もう片手でぺりっと煉ようかんを食べていたことには戻れなくなってしまいました。

「ようかんって素敵!」


最後までお読みいただきありがとうございます。
私の本とのつながりから、あなただけのつながりが見つかりますように。


ジト目の小豆の小ばなし


御座候は3個以上購入すると箱入りに
さらにお会計の方が包装紙に包んでくれる
その速さに驚くよ!



参考文献・サイト


 1)『あんこの本』姜尚美(かん・さんみ) 文藝春秋 2018 文春文庫
 2) 御座候/心あたたまるあずきのお話/まあるい思い出
 3)彦坂木版工房/彦坂木版工房について


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