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空き家再生ものがたり/『畑の家』@千葉

こちらは私たち家族の拠点の一つとなっている『畑の家』ができるまでのお話です。主に2002年頃から始まる私の母(2021年現在71歳)の無謀なるチャレンジの記録となっておりますので、ゆるゆるとお読みください。

母がひそかに温めていた想い@40代

この話を書くにあたり母に改めて話を聴いたところ、40代なかばくらいから『畑をやりたいと思っていた』とのこと。

熊本の田舎の出身で、野の花も含め植物が好きで、初めてオクラの種を鉢に蒔いたら花が咲いて身もなった事から野菜の魅力に目覚めたのがきっかけだったそう。

たしかに私が子供のころから『野の花辞典』みたいな分厚い本が家にあったし、高校生の頃『玄関のプランターにオクラの実がなった!!』とすごくうれしそうに報告してきた母の話を、当時のわたしは『ふーん、そう、よかったね。』みたいなテンションで聞いていたのを覚えています。

あのオクラのプランターがまさか、こんな暮らしのきっかけになるとは思ってもいませんでした。

病気がちな母の小さな一歩@50代

前の記事に書きましたが、当時の母は病気がちで度々入院や手術を繰り返していました。そんな中でも出来る事を少しずつ好きな事を暮らしに取り入れ、田舎ぐらしの本を買ったり、ホームセンターに通ったり。

その田舎暮らしの本に載っている物件情報を見ては『庭を畑にして野菜が作れるかな』等々、妄想を膨らませていたそうです。

その本には『プレゼントコーナー』もあり、千葉県内の農家さんが出している『無農薬野菜セット』が出ていました。いつもならスルーする懸賞に応募し、当選。

届いた無農薬野菜セットを送ってくれた農家さんに『お礼のハガキ』を送ったことから運命の歯車は回り始めます。

このハガキがきっかけで、千葉の農家さんとのコミュニケーションが生まれ、いつか畑をやりたいという話をし、農家さんが『地域の不動産情報』なども取っておいてくれるようになり、見に行くようにもなりました。

とはいえ、縁もゆかりもない土地で『畑をやりたい』という想いだけをもって、物件を探すのはなかなか難しいものです。

田舎の空物件の情報は内装の写真などがあれば良い方で、そのほとんどは立地情報と外観程度。地縁がないのでどの場所が良いかもわかりません。

はるばる遠くから物件を見にきては、『これじゃない』と断りただ帰る、という日々の繰り返し。

物件を見るために毎回遠方から熱心に足を運ぶ母の様子を長く見ていた地元の不動産業者さんが、

『あの、ぜんぜんお勧めできない物件ですが・・・一応見てみます?』

と恐る恐るこの物件を提案してくれたそうです。

東京の業者さんから委託を受けていたというこの物件がこちら。

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・・・家が見えません。

昭和48年築の元別荘。おそらく東京に住む裕福なご夫婦がゴルフなどを楽しむために所有していた家。ご夫婦が年齢を重ね使わなくなり、東京に住む娘さんたちも不便な場所なので来ることはなく、長年放置された空き家でした。

庭には観賞用の竹や木々が植えられていたようですが、それらが10年以上完全に放置され、家が木に埋もれている状況。

私だったら即NGですが、母の目にはすごく良い物件に見えたそうです。

家や庭がきれいな物件もあったけど、畑をやるには土が固くてダメ。この物件の庭は落ち葉のおかげで土がふかふかで、既に腐葉土ができていたのですごく良かった。

・・・そんな視点があるのですね。

とはいえ、家の中には家財が散乱し、井戸も枯れ、水すら出ない。さすがにこの状態では手が付けられないと、一度はあきらめたのでした。

地元不動産業者さんの活躍①井戸の復活

畑をやりたい母にとって、家は『汲み取りトイレさえあればOK』という感覚だったようですが、水が出なければ野菜を育てる事も難しい。

水を出すためには新しく井戸を掘る必要があり、そんなお金はもちろんないので見送ったものの、数日後に不動産業者さんから電話が来ます。

『水が出ました!!』

話を聴くと、この業者さんの家も井戸なので枯れた井戸に水を差せばどうにかなるかもしれないと思いついてくれました。

そしてわざわざポリタンクを持って試してみてくれたら、水が出たそうです。

断った物件のために動いてくれたことがとても嬉しく、水が出たのも縁だなと感じた母。

井戸の復活方法を知る不動産業者さんは殆どいないと思うので、この方が担当じゃなければ今は無いと思います。

地元不動産業者さんの活躍②売主さんとの交渉


この物件のもう一つの問題は『家の中にモノが散乱』していたこと。私も見ましたが、もう本当に『何が起きた!?』というくらいモノや衣類が大量に散乱し、普通だったらかなり引く状況。

一方、東京に住む売主さんの売却条件は『一切何もしない、このままの状態での引き渡し』でした。

自分で片づけるにはとても無理な量で、廃品回収業者さんの見積もりはかなりの金額。あきらめかけたところ、また不動産業者さんから連絡が入ります。

処分費用を半分ご負担いただける事になりました!

聞けば、『普通だったら絶対に選ばないような物件を、50代の女性がひとりで買ってどうにか片付けようとしている』『何か援助してはもらえないか』と交渉してくれたとのこと。

既に断った物件に対してこのように動いてくださるなんて、本当にありがたいです。

こうして『落ち葉が積もった土』に魅せられた母は、この物件を手に入れる事になりますが、当然ここからが大変でした。

開墾、開墾、開墾、種まき、開墾

この鬱蒼とした庭を畑に。この辺りから私も参画し始めました。

行くたびに、ひたすら木を伐り疲れはてて帰る日々。生まれて初めてチェーンソーを握る事にもなりました。

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↑母です。

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↑ようやく見えてきた家

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↑ようやく見えてきた土

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↑伐った木は焚火して炭にして肥料にしたり。

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↑空いたところから種を植え

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↑徐々に畑が広がりました。

あっという間に見えますが、母が物件を探し始めてから5年ほどの時間が経っていました。

2009年、リノベーション開始

家の中も地道に片づけ、ホームセンターで買える素材を用いて最低限の修繕をして、ようやく泊まれるようになった『畑の家』。当初はこんな感じの『昭和の家』でした。

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素人なりのDIYを重ねてどうにか使えるようにはしたものの、やはり長年廃屋に近い状態で放置された家は屋根や床、サッシなどの重要な部分に問題を抱えているのは、私達の目にも明らかでした。

当初は『この家がもつ間だけでも楽しめればよい』と考えていましたが、『畑の家』は既に母にとって無くてはならないものになっていました。

この頃には、数年間尋常じゃない作業量で身体を動かしたおかげで母の体調はどんどん良くなり、車でも2時間半運転してこられるようになっていました。

近所を散策する事も増え、ある日素敵なログハウスの喫茶店を発見。

店内にはとても素敵な家の写真が沢山あり、オーナーに聞いてみると、息子さんがリノベーション事業をやられているとのこと。

このご縁で出会ったオーナーの息子さんは、今でも仲良くさせて頂いている大事な友人であり、この家を再生させてくれた恩人でもあります。

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↑当初の間取り

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↑現在の間取り

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↑広くなる玄関

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↑ダイニングキッチン(この画よりだいぶ広いです)

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↑トイレのシンクも素敵

ほぼイメージ図通りに仕上がった様子はインスタにも載せていきたいと思います。

そして着工

工事の最中も、隙間を見つけては種を植え野菜を育てました。

家の状況はなかなか厳しく屋根や床下も全て手直しする大掛かりなリノベーションとなりましたが、この時に決断していなければ、おそらく震災や台風で倒壊していたかも知れません。

本当にベストなタイミングでのリノベーションだったと思います。

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こうして多くの人のご縁に助けられ、畑の家は生まれ変わりました。

新生『畑の家』@千葉


快適な家と程よい広さの畑には、多くの友人が遊びに来てくれるようになりました。

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やさい

同時に、私達家族にとっても『ただいま』が言える大切な場所として存在しています。

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↑0歳から通う娘

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↑井戸水の冷たさを知る

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↑何かを見つけた息子

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↑夏はのびのび水遊び

都会暮らしではできない体験ばかりです。

『利回り』ではない投資価値

不動産投資といえば、重要なのは資産価値。利便性が高い場所であることは基本中の基本です。

私も長く不動産デベロッパーにいましたので、収益不動産については理解している方ですし、利回り重視の考え方もとてもよくわかります。

一方この物件はどうかというと、最寄り駅から車で20分ほど。利便性とは程遠い立地です。


リノベーションもプロの手を借りたのでそれなりにお金がかかり、開墾や修繕作業もなかなか大変でした。

でもそのおかげで生まれたこの物件には『お金ではない価値』がギッシリ詰まっています

まずは、日に日に筋肉がつき、沢山飲んでいた薬も不要になった母の健康かかりつけの先生は『信じられない』と驚愕したそうです。

開始当初50代だった母はもう70歳を超えましたが、以前よりも若々しくて本当に元気。私の友人たちからも愛される『みんなのお母さん』として毎日楽しそうに暮らしています。

コロナ禍では外出もままならず健康を害する高齢者の方も少なくない中、人に会う事もない『畑の家』には通常通りせっせと通う事ができ、運動がてら畑仕事を楽しんでいます。

そしてこの『お金ではない価値』を大切な人たちにもシェアし、多くの友人の笑顔を生み出すこともできました。

何よりおいしい旬の採れたて野菜たちは私達のお腹も心も満たしてくれています。

都会っこの子供たちが自然にふれられるという価値も、はかりしれません。

当初、老後のお金をすべて使ってしまった母を心配する私に『老後食べていくために、食べ物を作れる場所を買った』と言い切った母にこの景色が見えていたのかはわかりませんが、結果としてすごく良い投資だったと今は思っていますし、母を心から尊敬する気持ちも、私の大切な財産です。

『畑の家』のこれから

この『畑の家』を、これから更にどう楽しむか。母や家族、友人達と未来を一緒に考えています

その記録はこちらに残していきますので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。

長々とご覧頂きありがとうございました。これからもどうぞ宜しくお願い致します。


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