世界の結婚と家族のカタチ Vol.6:「世界のジェンダー・ギャップ指数ランキング」6位ながら、現地在住の日本人女性の目に映る実像は意外と保守的?――ドイツ
注目の国々の結婚、ひいては家族のカタチについて、現地の事情に詳しい方々へのインタビューなどを通して紹介する「世界の結婚と家族のカタチ」。VOL.6では世界経済フォーラムの「世界のジェンダー・ギャップ指数ランキング」で6位に位置する、ドイツ連邦共和国(以下、ドイツ)の実情を、日本で生まれ、複数の国での居住経験を経て、今はご家族と共にドイツの片田舎で暮らすSachiko Scheuing(ショイイング・サチコ)さんにインタビューした。
■いくつもの国境を超えて、ドイツの“赤ずきんちゃんの故郷”へ
――日本以外に6カ国に住まわれた経験をお持ちだそうですね?
ショイイング:幼い頃にはマレーシアに住んでいたのですが、いったん帰国した後、高校3年生の時に、父の転勤に伴いインドネシアのジャカルタに引っ越しました。私は現地のインターナショナル・スクールに入ったのですが、そこで「外国はこんなに面白いのか!」と世界に開眼することになり、米国の大学に進みました。以降、イギリス、オランダへと移り住み、現在はドイツに住んでいます。
大学時代、イギリスでの就職を決めた後、最後の夏休みにトルコに行ったのですが、そこで現在の夫と出会いました。まずはイスタンブールでトルコ語を習った上で、トルコ料理を習おうと思っていたところ、その語学学校にドイツ人の夫が来ていたのです。夫は当時、海外で仕事をすることを視野に入れていたのですが、私の就職先がイギリスで決まっていたことから、一緒にイギリスで働くことになりました。
その後、夫に薦められてイギリスで大学院に行きました。当時は夫の勤務先の関係で郊外に住んでいたのですが、博士号を取得した後、お互いが働きやすい環境を求めて、オランダに移住することになりました。夫はエンジニアとして勤務する一方、私は今でもお世話になっているIT分野のグローバル企業に就職したのです。
その後、夫が夫婦どちらかの母国で子供を育てようと言い出し、彼は日本語が話せないので、ドイツに移住することになりました。現在、住んでいるのは“赤ずきんちゃんの故郷”の異名を持つアルスフェルド市にある小さな村で、フランクフルトの空港からは車で45分ほどかかります。中でも私の家は村外れの森の近くにあることから、隣家とは500mぐらい離れているのですが、村民たちとの交流は活発で、引っ越し後、隣家に挨拶に行ったところ、いきなりその翌晩に村人の家で行われるお誕生日パーティに顔見せ方々参加しないかと誘われてびっくりしました。
――ご家族の構成は?
ショイイング:現在、夫婦と子供2人の4人でこの村に住んでいます。夫とは結婚してもうかれこれ30年ほど。子供は長男が大学2年生で、長女は高校2年生(ドイツの高校は5年制)です。
■2017年10月にそれまでのパートナーシップ制度に替えて同性婚を法制化
――ドイツの結婚制度は、どのようになっていますか?
ショイイング:結婚年齢は男女ともに18歳以上で、重婚は禁止されています。2001年からは同性カップルの登録生涯パートナーシップが設けられていましたが、その後、2017年10月からは同性婚が認められたのに伴い、それまでの登録生涯パートナーシップが従来の結婚制度に集約されていったそうです。
――結婚後の姓にはいくつかの選択肢があるそうですね?
ショイイング:別姓のままでも良ければ、共通の姓を決める、あるいは自分の姓に相手の姓を加える複合姓を名乗ったりすることもできます。
――婚姻数、および離婚数の推移を教えていただけますか?
ショイイング:ドイツ連邦統計局の発表によると、それぞれ図表1、2の通りです。婚姻率は減少傾向にあり、また平均初婚年齢は上昇傾向にあります。
図表1 婚姻数の推移
図表2 離婚数の推移
――離婚は、別居して1年が経過しないと認められないことに加え、裁判に持ち込まねばならないなど、日本に比べるとハードルが高いようですね。
ショイイング:そうですね。そこには、一時的な喧嘩ではなく本心から別れたいのかを確認することと、気持ちにしっかりと区切りをつけることの2つの意味があると思います。最近、私の周囲では離婚する夫婦が増えているのですが、中には1年待って離婚が成立すると、シャンペンを開けて「やっとあの地獄のような妻(夫)から解放された!」と、パーティを開催した友人もいます。<笑>
――ドイツでは同棲カップルも多いそうですね。
ショイイング:日本に比べると多いですが、以前に住んでいたオランダに比べると少ないというのが私の実感です。オランダで働いていた時は100人ぐらいの従業員のうち結婚している人は2割ぐらいと少なく、多くの人々は同棲しながら子供をもうけていました。
■キリスト教国だけに、市役所と教会の双方で挙式するカップルも
――結婚に至るプロセスはどんな感じですか?
ショイイング:ドイツでは恋愛結婚が中心なので、付き合っている段階で両親に紹介し、家族ぐるみで食事をしたり、一緒にバカンスに行ったりしています。ですから、両親は事前に結婚相手を知っていて、自然な流れの中で結婚に至るのではないでしょうか。結婚前に同棲するカップルも少なくありません。
――トラブルに備えて婚前に契約を結ぶカップルは多いのでしょうか?
ショイイング:ドイツの法律で、結婚後に得た資産は半々になるということでしたので、私たちはそれで良いと思い、特段の契約はしませんでした。
――結婚式はどのように行われますか?
ショイイング:市役所で正式な届け出をした後にパーティを開催し、それで終わりというカップルもいれば、その後、教会でウェディングドレスを着て改めて挙式するカップルもいます。キリスト教国とは言え、最近では宗教離れが進んでいるので、市役所で結婚式を挙げて終わりというカップルが増えているようですが、私が住んでいるような郊外には宗教心が強い住人も多く、教会でも結婚式を挙げるカップルが多いですね。
――市役所に結婚式場が併設されているのでしょうか?
ショイイング:はい。アルスフェルドの役場にはかわいらしい式場が併設されていますし、お城での結婚式も人気ですね。あとは一般の式場とかレストランとか、ケータリングを利用して自宅でパーティを開催するケースもあります。最近では、それぞれを別個に行うのではなく、同じ日の午前、午後に分けて、1日のうちに双方を終えるカップルも増えているようです。
■ジェンダー・ギャップが少ないとされるこの国でも家事の主役は女性!
――家計はどのように管理されていますか?
ショイイング:夫と妻が通帳を分けている家庭もあるようですが、我が家は2人の氏名が冠された共用口座で管理しています。
――家事の分担や子供のケアについてはいかがですか?
ショイイング:ドイツでは男女での家事の分担が進んでいると言われますが、実際のところ、イギリスやフランスに比べると妻の負担が大きいと思います。男性が庭の手入れや日曜大工などの力仕事を担い、女性が料理や洗濯、掃除を担うというのが一般的でしょうか。
また、昔から地域のコミュニティ活動が活発で、私が住んでいる村では、時々、150~200人が村の公民館のような場所で一堂に会し、食事をしながらおしゃべりをする機会があるのですが、そうした時には女性は料理を、男性は会場設営を担当します。そこにはパン焼き釜があり、日本で言うところの婦人会や青年部に所属する村人たちがパンや郷土料理のザルツクーヘンを焼いたりもするんですよ。
――まさに童話のような暮らしぶりですが、そこから通勤もされているのですか?
ショイイング:私はオランダ在住のころから在宅勤務の契約なので、たまにオフィスにも行きますが、それよりもロンドンやブリュッセルに出張することの方が多いぐらいですね。夫は会社を経営していたのですが、今年の初めに売却し、アーリー・リタイアメントしています。ですので、一般の家庭とは少し異なりますが、夫が買い物や洗濯、子供の送り迎えを担ってくれています。
――都市部においても家事は女性が担っているのでしょうか?
ショイイング:コロナ禍でレストランがクローズしたのを機に、料理に興味を持つ男性が増加したことから、男性が料理を担うケースも増えていますが、その他の家事は女性が担うことが多いですね。これに文句を言っている女性は少なくありません。
――育児についても女性が中心的に担っているのでしょうか?
ショイイング:はい。男女ともに育児休暇が取れるようにはなっていますが、やはり女性が中心的に担うケースが多いですね。
――保育園などのサービスは充実しているのでしょうか?
ショイイング:保育園は公立、民間ともにありますが、午後1時に終わってしまう“使えない保育園”が多いことに加え、評価が高いところにはなかなか入れません。何年か前に「ターゲスムター(Tagesmutter)」という個人託児所が認可されたことで、これに助けられている人も多いのではないでしょうか。私自身は、勤め先に時間も場所も自由な働き方を認めてもらっており、日中は子供のケアをして、夜に働くような生活をしてきました。ドイツでは中小企業であっても、こうした働き方を許容しているところが多いと思います。
――お年寄りはどのように生活されていますか?
ショイイング:この村は元々、農家が多く、家が大きかったので、これを3世帯住宅にリフォームしているお宅が多いですね。両親や祖父母と同居するケースが多いのはこの村の良いところだと思います。一方、子供夫婦がともに働きに出ていて、両親が倒れたとなったら、介護サービスや介護施設に頼るしかありませんが、これらは不足しているのが実状です。
――都市部では状況が異なるのでしょうか?
ショイイング:不動産価格が高いこともあり核家族化していますが、介護サービスや介護施設が不足していることに変わりはありません。ただ最近、若い頃は都市部に出て働いていても、リタイアするとともに田舎にUターンする人も出てきていますね。
■多様性の包摂が進むドイツにおける家族の多様化は?
――ドイツでは家族の多様化はかなり進んでいるのでしょうか?
ショイイング:テレビではそうした番組が放映されているし、ベルリンなど都会に行けば、同性カップルが腕を組んで歩いているのは昔から珍しくないですが、この村に住んでいる限り、あまり多様化している印象はもたないですね。例えば、勉強ができる子供は都会に出て行って銀行員になり、田舎に残った兄弟姉妹は結婚して農家を継ぎ、両親や叔父・叔母などに子育てを手伝ってもらうとか・・・。結果的にどちらが幸せかはわからないですね。
最近では、トランスジェンダーの子供が多いと言われていますが、ドイツでは多様性に関する意識が強調され過ぎ、バランスに欠けるところがあるのではないかと思います。多様性を包摂することは大切ですが、その方法論に問題がある。政府には、部分ではなく全体を見据えた、より長期的な視野に立った制度を作っていってほしいですね。ドイツでも少子化が進み、人口構成が逆ピラミッドになっていることを考えると、現状のままでは国の将来が危ぶまれるのではないでしょうか。
――家族のグローバル化についてはいかがですか?
ショイイング:EU内は移動はしやすいですが、言葉の壁があります。ドイツ、オーストリア、リヒテンシュタイン、スイスといったドイツ語圏は昔から行き来が盛んでしたので、そこで家族をもうけることはあったと思います。また、EUになってから、ポーランドからの移民も多く来ていますね。とは言え、家族のグローバル化がそれほど進んでいるとは思いません。
――シングルマザーも多いと聞きますが?
ショイイング:シングルマザーは皆、大変そうですね。税制の優遇はあるようですが、まだまだ補助が足りないと思います。周りを見ている限りは、離婚後に子供を引き取るのは女性の側で、月に1回、父親に会わせるというケースが多いですね。中には半々で子供のケアをしているカップルもいますが、シングルファーザーは少ないですね。
■大きいのは国による違いよりも、田舎と都会の違い!?
――村での暮らしをどのように評価されていますか?
ショイイング:ここでは何かあったら周りが助けてくれる一方、陰で何を言われているかわからないようなところはあります。私自身がさまざまな国に住んだり、国際結婚をしたりと、グローバル社会の中で生きてきたので、その視点から見ると、逆に大家族で暮らすこの村の住民が羨ましいです。そこにはお金で買えない何かがあります。都会で働いていても、孤独な人は多いじゃないですか。仕事に行って、家に帰ってきたら一人。でも、田舎では帰ってきてからも、「おばあちゃんの洗濯物は取り込んだ?」とか「鶏に餌はあげた?」とかうるさいんですよ。<笑>
――日本の結婚制度や家族については、どのような印象をお持ちですか?
ショイイング:私は日本とドイツの違いよりも、むしろ田舎と都会の違いの方が大きいのではないかと思います。日本社会は総じてうまく営まれていると思います。日本人には相手に譲るところがありますが、ヨーロッパは良い意味でも悪い意味でも個人主義的で、「自分が、自分が!」という気持ちが強く、相手に譲ることはまずありません。例えば、電車を待つ時にはきちんと並ぶとか、ゴミを辺りに散らかさないとか、そういうちょっとしたことが社会を幸せに導くのだと思います。
また先日、日本に帰国した時に高校の友達と会ったのですが、皆、住んでいるところはバラバラでも、未だに繋がっていたりするんですよね。80歳を超えた私の父も、未だに同窓会に行ったりしています。ドイツの人に話すと、もうびっくりしますよ。そういう繋がりを大事にするのも日本の特長だと思います。
――本日はありがとうございました。
(取材・原稿執筆 西村道子)
【インタビューを終えて】
今回のインタビュー対象者は、私が仕事でお世話になったことがあるグローバル企業で要職を担う女性。日本で生まれ、海外6カ国での居住経験をおもちと聞いていたので、さぞかし“トンガッタ”話をお伺いすることになるのかと思っていたら、意外や意外。お仕事でお忙しい中でも、ドイツの片田舎の村のコミュニティに溶け込んだその暮らしぶりは、事前に思い描いていたものとは大きく異なっていました。
「世界のジェンダー・ギャップ指数ランキング」で6位(日本は125位)のこの国で、ショイイングさんは改めて社会の全体最適を考えておられるご様子。加えてグローバル化に伴い世界の大都市が似たような表情を醸し出す傍らで、都会暮らしと田舎暮らしの違いも意識されているようでした。最近は日本でも田舎暮らしに注目が集まっていますが、ドイツでもリタイア後にUターンする人々が目立つとか。結婚や家族を超えて、ウェルビーイングについて改めて考えさせられる今回のインタビューでした。
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