著書「マインドセット」を読んで
能力は生まれつきかどうか?
トレーナーとしても経営者としても「人」に関わる仕事をしている以上、
「人間の能力は生まれつき?それとも努力で伸びるのか?」
というテーマが常にあります。
もちろん「ある程度のレベル」までは努力でいけるイメージはあります。
けれども人が驚くような才能や、誰も成し遂げたことがない偉業を見ると、
「生まれつきの才能はある」
「努力で到達できるレベルには限界がある」
とも感じてしまいます。
私は9,000回以上シュートを外し、300試合に敗れた。決勝シュートを任されて26回も外した。人生で何度も何度も失敗してきた。だから私は成功したんだ。-マイケル・ジョーダン
「4000のヒットを打つには、僕の数字で言うと、8000回以上は悔しい思いをしてきているんですよね。それと常に、自分なりに向き合ってきたことの事実はあるので、誇れるとしたらそこじゃないかと思いますね」-イチロー
偉業を成し遂げたスターが「努力の重要性」「あきらめない大切さ」をどれだけ述べても、
心のどこかで「特別な人達」というカテゴリー分けをしてしまいます。
2つのマインドセット
そんな気持ちを覆してくれるような一冊に最近出会いました。
「マインドセット〜「やればできる!」の研究」
(キャロル・S・ドゥエック著 今西康子 訳 草思社 出版)
「マインドセット=心のあり方」
人間には「2つのマインドセット」があると筆者は述べてます。
硬直マインドセット=「能力は遺伝的資質で先天的に決まっている」と考えるマインドセット
しなやかマインドセット「能力は学習や経験で後天的に伸ばせる」と考えるマインドセット
学者や専門家でも意見は2つに分かれるそうで、
どちらが正しいかという科学的根拠もまだ出ていないそうです。
ただし、
「真実はわからないが、どちらを信じるかで、その後の人生は大きく変わる」
と本書では述べてます。
「他人からの評価」か「自分自身の成長」か
もう少しこの2つのマインドセットの違いを説明していきます。
「硬直マインドセット」
・能力は努力ではどうにもならない
・能力は変わらないからこそ「できること」「うまくいくこと」だけやりたい
・欠点は隠したい、自分でも認めたくない
・「自分は有能だ」ということを繰り返し示したい
・脳波が反応する時は「正解したとき」「順調なとき」「人から称賛を浴びたとき」
「しなやかマインドセット」
・能力は「環境」「体験」「教育」「学習方法」を重ねることで大きく伸びる
・能力は伸びるからこそ「難しい課題」「新しいチャレンジ」をしたい
・欠点は克服したい、だからこそ向き合う
・「自分を向上させること」に一番の関心を向ける
・脳波が反応する時は「努力して新しいことを習得したとき」「できなかったことができたとき」「全力で取り組んでいるとき」
わかりやすくカテゴリーすれば、
「チャレンジする人、しない人」
「自分自身の成長か、他人からの評価か」
とも言えます。
そしてこのマインドセットの違いは、物事が「順調なとき」には大きな差はなく、
「失敗したとき」「大きな課題にぶつかったとき」に大きな差となる、と説明されています。
同じ出来事でも、捉え方が全く違う
例えばテストの点数が悪かった時、
「なんて自分はダメな人間なんだ」「努力しても無駄だ」「次のテストも絶対にダメだ」
と感じる生徒と、
「もっと勉強に時間を使おう」「間違えた問題をもう一度復習しよう」「次はもっと良い点数をとろう」
と感じる生徒がいる、と調査の結果わかったそうです。
同じ出来事なのに、硬直マインドセットとしなやかマインドセットの生徒では捉え方が全く違います。
そしてその次のテストの結果も当然「しなやかマインドセット」の生徒の方が平均的に上だったそうです。
さらに面白いのが、
「自分の能力を正当に評価する=自己洞察力」
という能力が、しなやかマインドセットの生徒の方が圧倒的に上だったそうで、硬直マインドセットの生徒は「自分の能力を過剰評価、もしくは過小評価しすぎる」というデータも出ています。
これは当然のことで、
「しなやかマインドセット」は能力を伸ばすことができると信じているので、
現時点での能力をありのまま受け入れられることができます。それが例え不本意な現状だとしても。
ここで問題なのは、しなやかマインドセットと硬直マインドセットが同じグループにいたり、パートナーになるケースです。
「落ち込みやすい」もしくは「現状を受け入れられない」硬直マインドセットの仲間を、
しなやかマインドセットの人間が励ましたり前向きにさせる役割をになうことになります。
当然このような関係性のグループやパートナーは長続きしません。
だからこそポジティブな人はポジティブな人といる空間を好み、ネガテイブな人はネガティヴな人といるのを好みます。
つまり「類は友を呼ぶ」の根拠はこういったところにあります。
どうして2つのマインドセットは生まれるのか
「そもそも人間は本来しなやかマインドセットである」
と、赤ちゃんが新しいことを次々覚えていくことを例に挙げながら、筆者は述べてます。
転んだりつまずいたりしながらも少しずつ歩行を覚えていくさまは、まさにしなやかマインドセットです。
けれども、
・自分の価値を確認する
・自分の賢さや才能を証明する
という経験を積んでいくと、小学生でも「硬直マインドセット」に変わっていくそうです。
つまり親や教育者が「成果」や「結果」を称賛しすぎると、
「成功しないと褒められない」
「失敗したところを見せられない」
と子供は敏感に感じとり、無意識に「硬直マインドセット」に変わっていくそうです。
子供がなにか成果をあげたときに「すごいね!」と僕自身も無意識に使っていましたが、これは注意ですね。
「成果」「結果」ではなく「努力」「成長」にフォーカスする教育であるべき、と筆者は述べています。
これはスポーツにも通じることですね、
特に今は少年スポーツが「結果至上主義」になっているので、
・失敗することが怖い
・新しいことにチャレンジしたくない
・己を成長させることより、指導者の評価が気になる
という子供たちをつくってしまう要因にもなりかねます。
さらに、子供たちに「自分がかしこいと感じるときは?」という質問をした実験では、
「硬直マインドセットの子供」
・間違えずにやれたとき
・人にはできないことが簡単にできたとき
・何かを素早く完璧にこなしたとき
「しなやかマインドセットの子供」
・難しくても本気で取り組み、以前にはできなかったことができたとき
・ずっと考えていた問題の解き方が、ようやくわかり始めたとき
というように、ここでも回答に大きな差があったそうです。
まとめ
才能や能力が生まれつきかどうかに関しては、まだはっきりとしたデータも出ておらず、
ここに関しては専門家や学者に任せておけば良いと思ってます。
それよりも大事なことは、
「能力は努力次第で伸びる」
「環境、体験、教育、学習方法で能力は変化する」
と考えることが大切で、そう考えることで普段の取り組みも変わり、自ずと結果も変わってくるはずです。
「やればできる」
と信じれるかどうかですね。
現代は周りの意見や目線が気になる、気にしてなくても耳に入りやすい時代ですが、
「しなやかマインドセット」になることで、周りではなく己に関心が向いてくることも、今の時代では有益なことだと思ってます。
最後はこの著書にも載っているアメリカの政治学者、ベンジャミン・バーバーの言葉をご紹介します。
「私は人間を弱者と強者、成功者と失敗者には分けない。学ぶ人と学ばない人に分ける」-ベンジャミン・バーバー