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戦略的モラトリアム⑭

ここに時間の概念はない。  舞台:主人公の脳内。強いて言えばステム
         天気:ここはいつも曇り

 ここでさ、ちょっと僕の頭を覗いてみたくなったって人もいるんじゃないかな?まあ、僕はいたっていつも普通のことをしてるつもりだけど、どうやらそれが地球ではうまく噛み合ってないみたいだ。そんなときはいつもここでいろんな人と話し合って、これからのことを決めるようにしているのさ。まあ、それもうまくいったためしはないんだけどね。
 ここまで読んで僕にある種の嫌悪感を持っちゃった人は飛ばし読みするか、または本を閉じて会社や学校に向かう電車に乗っちゃったほうがいいよ。だって、ここは僕の濃縮液がたくさんあって、普段はそれを薄めて外に発信してるんだからね。当然、過激な考えがいくつもあって、みんなの気分を害しちゃったりするかもしれないんだ。僕はそんなことになるのが一番嫌なんだ。だからみんなのしたいようにすればいいし、何なら逆さに読んだってかまわないって思うんだ。

 はっきり言って、僕は周りにものすごい気を使う。なんでかって?それはね、できるだけみんなと同化しなきゃならないって、昔々親に教えられたし、学校でもそうしなきゃ生き抜けない状況がいくつもあったんだ。そんな経験から僕はこういう生き方を理屈抜きに体得したのさ。今となっては誇らしいことでもないけどね。でもみんなもそうしてた。だからこの考えは正しいっていつも感じてたんだよ。少なくとも一四才ぐらいまではね。
ちょっと待って!深くかんぐらないでね。別に一四才のときに何か事件があって、僕の意識は変わったなんて思わないで。そんなことはなかったって思うし、僕が変わったのかどうか分からないけど、今のような考えになったのは決して急に変わったのではないんだ。日常の澱みに気づき始めたのが一四才だったってことにでもしておいてね。僕はこの時代のことを詳しく話すことはしないし、するつもりもないんだ。だって、きっかけなんて重要じゃないし、「考えるべきはいつも今。」って僕は思ってるんだ。だから、話してくれなくて気に入らないって思ってくれるならそれはそれでかまわないよ。僕は今を語りたいんだ。僕は今読んでくれている君の気持ちでさえ、気を使っちゃうからさ。本当に気分が悪くなったり、むかついちゃったりしたら、ここで本屋を出たり、本を閉じちゃったりしてもいっこうにかまわないよ。それは君にとって、とっても大事なことだからさ。
ここで読み終わる君。じゃあね。

まだ、知りたって人いるんだ?ここまで読んでるってことはそういうことだよね。物好きって言うか、なんと言うか……。でも、そんな君たちの動機も僕は否定しないよ。じゃあ、もうちょっとだけ僕の考えを話そうか。
僕はね、将来やりたいことがないってのはちょっと自分自身に嘘ついてるところもあるんだ。ホントはね、やりたいことがいっぱいあってさ、ひとつに絞れないんだよ。例えば、大学に行って学者にだってなりたいって思うけど、一方じゃロックスターにでもなってがっぽり稼いで世界中回りたいなんて思ったりもするんだ。そしてひとつに大学って言っても、いくつも学部があるわけで、その中からひとつに絞るなんてことは僕にできないよ。
だってさ、人って生まれて死ぬまでひとつのことしかやれないって、とっても残酷なことだと思わない?僕はとっても残酷なことだと思うんだ。だから、僕は興味ある将来の選択肢を自ら狭めるようなことはしたくないし、やっちゃいけないことだって思うんだ。ホントは文系や理系で分けるってこともあまり好きじゃないし、高校入試の時だってあまり気乗りしてなかったことは覚えてる。
で、それが不登校と、どう結びついたかっていうとね。実はそんなに関係ないんだ。っていうか、常に自己と他者の葛藤状態にあったのかもしれない。僕は僕で考えってのがあったし、ほかの人にも考えってのがあったのかもしれない。でもさ、そこで最大公約数的な意見や行動をしないとね、周りから注目の的になったりするんだ。例えば、休憩中にあからさまに参考書を引っ張り出して、勉強してたりしたら、そりゃあ周りから「自分だけいいかっこすんな。」みたいなバッシングや、やっかみを受けたりする。それって変じゃない?僕はそんなことを幾度となく受けたことがあるんだけど、相手にしたくなくても、気になっちゃうんだよね。そこで、「周りと同化しなきゃならないっていう過去の教えを守らなくっちゃ。」っていう最悪の決断をしてしまうことだって少なくなかったんだ。僕はそうやってなんとなく年をとりたくなかったし、自分に関することには正直に生きたかったんだ。だから、不登校になったっていうことができるのかもしれない。ずいぶん曖昧な言い方だけど、僕は前に複合的な要因って言ったよね。そう、今説明したことは不登校になったことの一要因であったことは間違いなんだ。じゃあ、他の要因は何だって?残念!いっぱいあって言いたくないよ。

じゃあ、何で僕が大学に行く気になったのかっていうとね。そりゃあ、たくさん理由があるんだけど、一番の理由はさ、やっぱり僕の信念に基づいてるって要素があると思う。だってね。大学でたら、サラリーマンにだってなれるし、大学院に進学だってできる。はたまた教職課程をとって、教員にだってなれるかもしれないんだよ。他にもたくさんの分かれ道があってさ、僕はそこで一番向いてるなって道を選べるんだよ。もちろん二つの道を同時並行的に進んでいくことだってできる。高校でて就職、または専門学校に行くよりちょっとだけ残酷ではない人生がそこにあるって思ったんだ。
でもさ、どうしてもそこに行くまで、いろんな道を捨てなくっちゃならなかったり、もしくは諦めなくちゃならなかったりするから困る。だから、ここはいつも曇りなんだ。
僕が「右に倣え。」みたいな考えが一番嫌いだってのは、みんなもここまで読んで分かってくれたと思う。それに賛成するか、反対するかってのは別としてね。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》