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復興シンドローム【2015/03/11~】⑨

彼岸の季節だ。今月はやはり人の往来が激しい。3月11日があるのと、彼岸があるからだろう。11日は多くのメディアがこの街に訪れたと聞く。臨時の通行証も多く確認した。11日の午後には町内放送で黙祷のサイレンが鳴り響く。

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この数分だけは通行証チェックの作業を一時中断して、黙祷を捧げる。ちょうど通行証を確認作業中の車両運転手も「早く確認しろ!」とは言わず、黙って目を閉じていた。

誰もあの日あのときのことを思い出し、つかの間の静寂が確認作業中の喧騒を分断する。

耳鳴りがするほどの静寂の中にただただサイレンの音だけが延々と鳴り続けた。

「はい、すいませんでした。確認作業をします」

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黙祷を終えると、またいつもの業務に戻る。ドライバーも何事もなかったかのように免許証を提示する。あの時間のあの空間は切り取られたようにどこかに行ってしまった。

20日を過ぎ、彼岸が近くなると、通行証を持っていない車両が多くやって来る。お墓参りに来たのだろう。もともとここの住民で今は避難してどこかに住んでいる。そんな推測が容易に出来るくらい、彼らの容姿格好は特徴的であった。高級車に乗って現れたかと思うと、服はジャージかスウェット。サンダル履きで色眼鏡。通行証がないと入れない旨を伝えると、怒鳴る。警備員に八つ当たりする。「俺は被害者だぞ。こんなことをしてどうなるか分かってるのか」と凄む。
どうなろうとも、ここでは例外はない。帰還困難区域に入るためには通行証と身分証明が必要なのだ。

「もし、町民の方でしたら、役場ですぐに発行できますよ」

と伝えても納得されないことが多い。
「交通費支払え」「お前が行ってこい!」

はぁ。
ため息をつくと、何とか指示に応じていただけるよう説得を繰り返す。それでも納得されないときはここから役場に電話を入れる。もしくは危害を加えようとしたら、迷わず110番をするのがマニュアルになっている。

「俺さぁ、震災の時は福島の人に同情してたよ。可哀想だなぁって思うこともあった。でも、ここで働いていると、本当に福島の人が嫌いになる。東電から金貰って、国からも金貰って、それであの態度でしょ。【震災成金】って言われてる人たちはいったい何を考えているんだろうね。自分たちが一番可哀想とでも思っているのかね。自分は福島じゃないけど、あの震災で、仕事がなくなったよ。多かれ少なかれみんな被害を受けていることに変わりはないんだけどね」

と、一人の隊員が呟いた。

「お盆とか正月、彼岸になると本当にそう思うね。何たいした気になっているんだ。震災で被害を受けたのはお前だけじゃないぞって言いたい」

年配の隊員もそう呟く。

「俺は三重から来てるけど、ここで働くのは楽しいよ。いつも新しい車が見れるし。彼らは羽振りがいいから」

またもう一人の年輩の隊員が場を和ませた。痛烈な皮肉は混じっていたけれども。

そして、数日後
彼岸の日がやってきた。
午前10時に通行証確認作業場所は修羅場と化した……。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》