戦略的モラトリアム㉘*完結
合格発表の日、僕は掲示板を見に、大学に向かった。受験番号と掲示板の睨めっこになれてない僕はドキドキと慟哭を刻みながら、早足で歩いていたと思う。
大学に着くと、すぐに掲示板の場所が分かるように立て札が立っていた。僕は夕方に行ったためか、誰もいなかった。閑散としたキャンパスは耳鳴りがするぐらい静か、とても静かだった。胸の高鳴りは……不思議となかった。いや、全くなかったといえば嘘になる。いくらかの不安感と期待は持ちあわせていた。しかし、これから新生活が始まるという根拠のない稚拙な自信は僕の血中を駆け巡っていた。
受験番号は……
あった!
僕はとっさに北西の空に向かって、敬礼!
じゃあね!そこからすぐに走り去った僕は合格通知が届くようになっていた実家に向かった。寮では郵便物は玄関に並べられる。防犯上、放置したくなかったので、苦肉の策で実家を送り先にしたのである。さぞ驚くであろうが(笑)
……。
数ヵ月後……。
僕のモラトリアムは少なくとも、あと四年延長されることが決まった。これから僕はどんなモラトリアム人生を刻むか、まだ分からない。ただ、きっといろんな色を手に、僕はいつかドアを蹴り上げ、出て行くことになる。今はその時のために、息を潜めて準備してるんだ、楽しみながらね。
振り子が揺れるのを僕は今、楽しみながら毎日眺めている。でもそれはゆっくりとではあるが、確実に少しずつ振幅は小さくなっていく。そしていつかはピタッとその動きが止まる。そのとき僕はどんな生き方をしてるんだろう。今から楽しみでたまらない。
帰りの電車の中、東京都のとある駅で停車中の車内にて、ふと窓に目をやった。窓に映る、地球から切り取った断片を僕は大切に胸にしまいこんだ僕は、あと何度……。いや、何も言うまい。
大学入学式当日。春の景色は大学校内により誇張され、凝縮されていた。人為的な春の装いは何処となく、人間の所業の愚かさを宣伝しているようで、僕はその一部になった。大講堂での入学式。期待にむせ返る講堂の空気が僕にとっては、まるでままごとを見るかのように……。大衆に同化した僕はこれからの不確定要素に期待をしていた。
「祝辞!」
司会の声は僕の耳を通り過ぎる。
何千人もの人間の中で何かを企んでいる生き物は誰にも分からないように密かに頬にしわをよせていた。
福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》