復興シンドローム【2016/08/01~】⑱
「やめやめ!もうやめた!」
そう言って、自分は電話を切った。制服はほかの隊員さんに預け、自分はこの仕事を辞めた。自分が嫌になったから。
どんどん福島を嫌いになっていく。
どんどん地元民を嫌いになっていく。
そして、口汚く地元民を罵る度に、心の端っこから大切な何かが壊死していくような気分に襲われた。
いつの間にか出稼ぎの彼らと同じようにボクの怒りは福島に向いていた。
時間を遡ること1週間
先週、自分の警備会社の顧問に警察のOBがついた。
「帰還困難区域の仕事をとるために雇ったんだよ」
そう、とある隊員さんが言った。
帰還困難区域と居住制限区域はどんどん減っていく。そうなると、僕らの仕事もどんどん減っていく。安全区画が変われば、勤務体系も変わる。多くなることはない。どちらかといえば減っていくのが自然な流れである。
しかし、新しい仕事も舞い込んできた。
作業員の宿舎警備である。
無断外出や生活管理、深夜徘徊の犯罪防止だそうだ。自分は他の仕事も兼業しているから、そんな業務はできないが、だんだんと仕事の内容も変わってきていた。
「今日は隊員さん一人ずつ顧問から面接するから」
隊長がそう言った。
「そろそろ潮時かな」
自分がそう言うと、
「そうかもね」
と彼は言った。
最近の自分が口汚くなり、性格も荒っぽくなったことは周りも気が付いていた。それは突然ではなく、次第にそうなっていった。
生活が不規則になったことも理由の一つであるが、どんどん擦れていったんだ。心が、そして自分自身が。
震災によって、この仕事にありついていることが、まるで当たり前のように。そして、被災した人々に対してのイメージが自分の中で悪魔のようなものから、乞食のように見下した言葉がボクの口から、次から次へと流れ出た。数年前に起こったことなど、まるでなかったかのように振舞った。そして、自分のストレートな気持ちはオブラートに包まずにこの世界へと流れ出ていく。
お金という魔物のせい?それともこの仕事のせい?
とにかく自分の生活がどんどん荒んでいくことにようやく自分自身が気付いたんだ。
もう、これ以上復興関係に関わるのはやめた方がいいかもしれない。
そう考えだしたとき、ボクの心はさらに荒んでいった。
「次は沖縄にでも営業に行くか。基地反対運動も盛り上がっているしな」
何気ない社長の一言がボクの心をひと押しした。
「辞めます」
そう言って、この仕事を辞めた。
これ以上人を嫌いになりたくないから。
これ以上生まれ育った町を嫌いになりたくないから。
そして、これ以上自分自身を嫌いになりたくなかったから。
あっという間に自分はこの復興関係の仕事から身を引いたのだ。
それは小さな小さな自分の最後の意地であった。
福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》