戦略的モラトリアム【大学生活編】(22)
「あ、その机向こうに運んで」
「分かりました」
「ここを受け付けにするから、ちょっと待ってね」
「長机もう一脚必要ですね」
「業者の展示品の場所を廊下に作って」
「はい」
……まったく、ライブ会場を設営する日雇いバイトと同じかよ……
遡ること1週間前
自分はVintageにいた。
「大学生のうちにできることかぁ。」
自分がふと呟くと、マスターが
「どうしたの?」
言葉に詰まったが、「実は……」
これまでの経緯を話した。
「自分、不登校だったんですよ。高校も途中でやめているし、正直、学校にに対して良い印象なんて一つもありません。ですが、今回はその先公とその卵たち、そして学者が集まる会です。自分はそこまで教育に対して熱い思いなんてありません。さも教職者になろうとも思っていません。ですが、一方的に誘われてしまって、断り切れず……」
「でも、こうやって教職課程とってるじゃない。それは先生になりたいってことじゃないの?」
「いや、自分は今までの学校生活で毛嫌いしていた人たちがどういう勉強していたのか知りたくなっただけで……」
「でも、途中でやめないで、今年も履修しているんでしょ?」
「……はい。たしかにそうですが……」
「だったら、参加してみるべきだよ。どんな人たちが君を苦しめていたのかを知るいい機会だと思うよwww」
「なるほど……人間観察ですね。自分とは全く違う人種が集まる場所の見物……動物園でござるなwww」
「そうそう。そう思って参加してみればいいよ。大学のときしかできないことって人生においても貴重だよ」
「そう思うと、なんだか気分が楽になりますね。よしっ!いっちょ顔を出してみるか」
「気を付けてね。学者なんてのは海千山千の連中だから」
「……はい。分かりました」
そうやって、隣県の某女子大にやってきたわけだが、男子トイレの数は少ないわ、女子ばかりだわ……息が詰まることこの上ない。本当に研究会なんてくるもんじゃないね。ただの雑用だよ、学部生なんて。さっきから誰だか分からん有象無象に右へ左へ引っ張りだこ。もう研究会で肉体労働、いや、肉体ボランティアをするとは思わなんだ。
あちらこちらで爺と婆の座談会。上等なナリをして、おそらく学者か学校の先生だろうか。ここは老人ホームの座談会か?
「さ、あと30分で開場だよ。受付係の人は宜しくね。始まったら興味がある研究発表のところに聞きに行ってもいいよ」
年配の責任者とおぼしき女はそう言うと、そそくさと来賓室に消えていった。接待に忙しいのだろう。
受付に行って名簿に目を通すと、名立たる大学教授、名誉教授、大学院生、そして現職の教員……
自分からすれば仇敵のようなものだ。学校生活で教員なんてもののクソさは身に染みて分かっている。
10分も過ぎると、チラホラ人がわいてきた。さぁ、学校教育の権化どもがわさわさ来るぞ。自分のようなはぐれ者には何の権威もないただの「人」の群れ。
権威と自己顕示欲にあふれた虚栄心の塊の宴が今始まろうとしている。
特に興味はないが、人の話を聞くのも面白いかもしれない。開場後まもなく、自分はある教室へと入っていった。
福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》