震災クロニクル3/18(31)

18日の朝

福島第一原発の現状を伝えるニュースが1日の放送の大部分を占めていた。朝になり、まずは栃木県警に電話。

「……」

なかなか話がかみ合わない。

「もういいです」

こちらの方から電話を切った。結局は警察も手一杯らしく、個別の対応はしていないようだ。無理もない。これほどまでの災害は経験したことがない。乗り捨ててきた車の安否を気にするよりも自分たちには明日の心配をする必要がある。

振り返ると、同僚が何やら深刻な顔で電話をしている。

「□〇※……」

何やら揉めているようだ。しばらくしてから聞いてみよう。僕らはまず今後の事を考える時間と余裕が欲しい。

働きに出るか……。

カプセルホテルで仲良くなった人たちの中に仕事を紹介してくれる人がいた。優しいお言葉に甘えて、面接に行くことにした。

しかし世の中はそんなに甘くない。自分は住所がカプセルホテルであるため、いろいろ問題があるようだ。確かに住所不定で働くには何かと面倒なことがあるのは素人である自分にも分かる。

結局話はこじれにこじれた。自分にはアパートを借りる余裕もない。あたたかい厚意は断るしかなかった。カプセルホテルに戻り、申し訳ないと謝罪をし、自分の寝室に戻った。

さて、ここに居続けるために収入を確保しなければ。


「すいません」

外から同僚の声がした。

「どうした?」

寝室から出ようとしたら、同省が目の前にいた。自分に話があるらしい。

「山形に行くことになりました。父がそこにアパートを借りて、皆でそこに避難することが決まったみたいです。自分も明日、山形に向かいます」

「そうか。よかったな。とりあえずはここでお別れになるわけか」

自分は快く送り出そうと努めた。明日からは自分ひとりの生き残りをかけた闘いになる。覚悟しなければ。

「必ず生きてまた会いましょうね」

「そうだな、生きていたらまた会おう」

握手をしてその日はお互い早めに就寝した。表情は普通だったが自分は不安に押しつぶされそうになっていた。明日からは自分の考えですべての避難生活が決まる。ここにいるのも去るのも自由だ。それは先行きのない不安と相まって自分を情緒不安定にした。

とりあえず自分がやるべきことは……

1.体調の安定を維持する。

2.避難生活にある程度の見通しを立てる。

3.情報収集を怠りなくする。

どれも大切な項目だ。しかし、どれも手立てが見当たらない。

どうしよう……

しばらく寝つけない。深夜になって、同僚は完ぺきに寝ている。自分はとりあえずロビーをウロウロしていた。

「どうした?寝れないのか」

宇田川さんが声をかけてきた。

「実は……」

正直に話した。

「そうか。家族がそっちに行ってるのでは仕方がないな。君はどうするんだ?」

「実は何も考えていないんです。親戚はいることがいるのですが……疎遠でして」

「そうか。人それぞれ事情はあるもんだ。いざとなったらそこに頼ることにして、しばらくは色々やってみたらどうだ」

不思議と気が楽になった。

「ここに腰を落ち着けるもよし、避難所に行くもよし。ただし福島には戻らない方がいいぞ。それはやってはだめだ」

宇田川さんの目は本気だった。本当に危険な場所になってしまったのか。寂しくもあったが、自分を思いやるこのおっさんの優しさがやけに目に染みた。

とりあえず明日の予定は……

病院に行って花粉症の薬をもらうこと。

1.体調の安定を維持する。

これに決めた。



福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》