金銭を要求される前に~国際詐欺?顛末 (3)
最初のEメール(前の投稿参照)では、スロバキア人を名乗るアダムが、ニュージーランド人の故ハリス氏が残した金地金13,753,563.62ユーロ分を銀行から持ち出したものの、どういうわけだかそれをスロバキア国内では売ったり移動したりはできないという話だった。もちろん、私が日本語チューターとして送った日本語学習についての話は一言も出ず、一切、無視されている。
詐欺の最終的な目的は、個人情報と金銭だろう。しかし最初のEメールの時点では、Diplomatic Courier(外交クーリエ便)を使って金地金を私の住所地に届けるので受取人になってほしい、ついては互いにIDを送り合おうという提案だけで、むしろ私には金銭的な負担はないから手伝ってほしいという内容だった。
数々のレッドフラッグが上がりつつも、まだ金銭の要求はない。私は、日本語チューターとしての話は無しにして、それならばビジネスコンサルティングとして受け付けるスタンスにした。そして、いくつかの質問とともに、コンサルティング料(市場調査費)として 2,000USDの事前払いをこちらから要求した。
Ing. は、技師につける呼称。
あなたの経歴と背景に感銘を受けた。
誠に失礼ながら、いくつか質問がある。何故なら、あなたがこのようなことをよく知らない人(私)に依頼してくるというのは、奇妙なことだから。
私の質問は、ビジネスパーソンなら誰でもわかることなので、あなたが本当にその経歴と背景をお持ちの方だとしたら、私が質問することも理解できるはず。
Mr. ではなく Ing. を使ったのは、最初のEメールでアダム自身がそれを使っていたので、それを尊重する姿勢を示すためだ。そして、最初のEメールからアダムが詳しい自己開示をしてきたことに対して、私は自己開示で返すつもりはまったくないので、とりあえず冒頭で経歴を褒めることにした。
心を開いてくれた相手に対して、自分も心を開いて接しようというのは、自然なことだ。詐欺師はこれを利用してターゲットの個人的な情報を聞き出す。しかし、詐欺師が示す「心を開いて語ったようにみえる内容」は作り話なのだ。いや、すべてが作り話なら分かりやすいが、実際にはところどころに本当のことが織り交ぜられているから惑わされる。
私はとにかく、こちらの情報を与えないように注意した。既に語学プラットフォームに載せたプロフィールで、名前やだいたいの年齢、外見などは知られてしまっている。これ以上は知られてはいけない。
意図的に返報性の原理を避け、以下の内容の質問と要求をした。
金地金は、24Kのインゴッド(延べ棒)か。
全部で何kgあるか。
インゴットは何本あるか。
今、どのように保管しているのか。
金地金の写真を送ってくれ。
輸送は何回で行うのか。
金地金を送ると言って、もし違法薬物や武器などを送ってきたら、受取人の私が逮捕されてしまう。どうやって配送品が金地金であることを保証するのか。
マネーロンダリングのようにみえる。リスクがあるので事前に調査をする必要がある。
調査費用として、2,000USDを事前に送金してくれ。
合意できるなら、私の会社の銀行口座情報とインボイスを送る。
金地金を日本に輸入するには、税関申告をする必要がある。そちらが輸出に際して「外交クーリエ便」を使って申告や納税を避けるのは勝手だが、こちらは日本での手続きはきちんとやる。そのために貿易取引の契約書を作れるか。
アダムは「お互いにIDを送り合おう」と言っていた。それに対して私は、「2,000USDを先に払うなら、会社の口座情報を教える」と答えた。そして末尾に、「あなたが私のようによく知らない人物を信用して取引するリスクを取ったのは、あなたの勝手だ。私があなたのようによく知らない人物と取引をするリスクを取るかどうかは、あなたの回答次第だ。あなたとあなたの話が現実に存在するというなら、すべての質問項目について明確に回答してほしい」と付け足して返信した。
これでどうせ、連絡がこなくなるだろう。
ところが、4時間後、スロバキア時間では深夜1時ごろに、長い回答が届いた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?