魔女っ娘ハルカ⑤(小説)
いっぱいお菓子とか買ってもらっちゃった。
手も繋いだりなんかして…
守るからとか言われたし…
私に殺されかけたのに…
まぁ、最初から殺そうだなんて思ってないけど。
どうしよう…
大丈夫かな、この人で。
まだ、何日も一緒に過ごしたわけじゃないけど、私…気持ちが惹かれてる気がする。
この人を最初に見た時、あの海岸で女の人とイチャついてた。
なんだ、このチャラ男は?
ちょっと脅かしてやろうかなって思った。
でも、その次の日にチャラ男が一人で来た時、ボッーと海を眺めながら何か言ってたんだよね。
後ろから石でも投げてやろうと近づいたら…
「何してんだろう…俺は…」
って、聞こえたんだ。
近づいて顔覗き込んだら薄っすら泣いてた。
どうせ、昨日の女の子に振られたんだろうと思っていたんだけど。
ちょくちょく海岸に来ては、何もせずにボッーと海を眺めてんだよね。
なんかそれ見てて、この人寂しいのかなって思った。
あんなに女の子の前では明るくしてるのに、
ここではずっと悲しそうな顔してる。
私と同じように寂しいのかなって…
だから、ずっと忘れられなかったんだよね、
チャラ男のことが。
二十年ぶりに、海岸で見つけて驚いたもの、
思わず声掛けちゃった。
でも、なんて声かけていいのか分からないから「こんにちは〜」とか「はじめまして〜」って言おうとしたんだけど、一応オバケだし怖がらせたほうが良いかと思って、あんな感じになっちゃったけど…
結局、ナンパされかけたよね。
オバケでも見境ないなって笑いそうになっちゃったよ。
本当は寂しがり屋のくせに…
勢い余って自宅まで付いてきちゃったけど、何日も食べてないからお腹減っちゃって、栄養不足でだんだん身体が黒くなってきて、「ヤバい!このままじゃ死ぬ(死んでる)」って思って、寝てるところ申し訳ないけど起きてもらったら、おにぎりとかお茶とか出してくれて優しかったな。
チョコまでくれたし…
ん〜…よし!決めた!
お願いしてみよう。
私にはやらなければならないことがある。
そのために、私は成仏も出来ずにここまで耐えてきた。
絶対に成し得なければならない約束を、私は必ずやり遂げる。
そのために…
少し、彼の力を借りようかな。
「スムージー飲みながら、なに考え事してるの?」
「えっ?あっ…コーラ味美味しいなって!」
「今度、ソーダ味も買ってみようか。」
「うん。そーだ!ヒロって次のお休みはいつなの?」
「一応、定休日は水曜日だけど。明後日か」
「あのね…ちょっと行ってみたい所があるんだけど…」
「え?どこ?」
「富山…」
「富山?また、なんで?」
「田舎の綺麗な空気が吸いたいな〜って…」
「まぁ、確かに田舎だと思うけど。」
「あとね、川遊びとかしてみたいんだ!海ばかり見てきたから、純水が流れる清流に憧れるの〜!」
「ふ〜ん。そうか、じゃあ遠出になるけど行ってみるか」
「やった〜!ありがとう!」
俺達は休みの日帰り旅行の準備を進めた。
明後日は、早起きして出ないとな。
………………………………………………………………………………
「おい……起きろ……」
「はっ?!もう朝か?」
「まだ、丑三つ時だよ〜笑」
「もう少し寝かせてくれよ〜」
「だって、富山まで結構かかるんでしょ?」
「そうだけど…もう出たいの?」
「うん、なるべく昼前に会いたいの。」
「会いたい?」
「あ…ううん。遊びたいの〜」
「ん〜…じゃあ、行く?」
「イクっ!イクぅ〜〜〜!」
「バカ…笑」
俺は顔を洗い、長距離運転前の気合いを入れて車に乗り込んだ。
「さて、行くぞ〜!」
「レッツゴー〜!」
車はICから高速に乗り富山まで直走った。
〜6時間後〜
「お〜い、もうすぐ着くぞ〜」
「ふにゃ…?もう、富山…?」
ずっと寝てやがったな、このブラウス女。
「高速降りたら、スグだよ。」
「あっ、酒屋に寄って欲しいの」
「え?真っ昼間から酒飲むの?」
「違うよ、贈答用に」
「贈答用?」
「まぁ、いいから。」
「誰に渡す気なんだよ…」
俺達は途中のリカーショップに寄り、少し高めの日本酒を購入した。
「ありがと〜!ちゃんと後ではらうからね」
「はらうって…お金持ってるの?」
「カ・ラ・ダ…で。」
「身体でって……まあ…その、なんだ…。川はあっちかな〜!急ごうか!」
俺は車を走らせ、川への入口を探した。
「あっ、そこ降りたとこ」
「ここか〜狭いけど入れるかな…」
車道から外れ、獣道のような細道をゆっくりと下っていく。
「着いた〜!」
Googleマップで、ここに目的地を定めてようやく辿り着いた。
ハルカが来たかった場所、そこは…
[神通川]
日本の高度経済成長期に上流の工場からカドミウムが流れ、汚染された川から生活用水を得ていた人々は謎の病に侵された。
身体中が痛みに襲われ、骨折しやすくなり、終いには起き上がれない程の苦しみの中で「イタイ…イタイ…」と衰弱して死んでゆく、最も辛い公害病の一つ[イタイイタイ病]を生み出した清流だ。
「いるかな…?」
「なぁ、ハルカ。川遊びが目的じゃないでしょ?いったい誰に会いに来たの?」
「………妖怪」
「は?……よ?妖怪…?」
「うん、ちょっとあそこの釣りしてる人に聞いてみる」
「ちょっ…待てよ!」
ハルカは川釣りしている半透明なオジサンに話しかけに行く。
「あっ……あの…えと……す、すいません…」
「………ん?」
「こ……この、川で…か、かっ……」
「なんじゃ?」
驚くほど緊張しているハルカ。
人(霊)見知りもここまで来ると清々しい。
「かっ…ぱ…かっぱ……いますか?」
「なんじゃ、河童さん見たくてきたんかの?」
「は…い!はい、そう…です…」
「連中はその向かいの山に籠もってるけ、脅かさないように静かに行けば会えるかも知れんよ」
「あ…あっ…ありがとー…ございます!」
挙動不審なブラウス女霊が、釣りオヤジ霊から、しどろもどろで情報を聞き出した。
「あっち!あっちだって!」
「あっちって…河童に会いに来たの?」
「そうだよ、言ってなかったっけ?」
「初耳だよ!いきなりそんなこと……」
「え?怖いの?」
「は?!別に怖いとかそんなんじゃ…」
「私で見慣れてるから平気でしょ。さっきのオジサンも普通に見えたでしょ?」
「はぁ…そういえば君も妖怪みたいなものか…甘いモノばかり食べるし」
「誰が妖怪じゃい!そっちこそ、いつも私の着替えとか覗いてるくせに…この、妖怪ドスケベ!」
「お前…俺は人間だ!」
「うるさい!いいから行くぞ、ドスケベ」
俺達は口喧嘩しながら浅瀬の川を渡った。
木々が鬱蒼とした山に入っていく。
まさか、この後に俺が本物の妖怪を目の当たりにするとは夢にも思っていなかった。
続く。。
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