ピアノとわたし
私は、3歳からピアノを習っている。
中学3年生のときに教室を辞めたが、その後も自由に弾き続け、10年前にレッスンを再開した。
大人になってピアノを再開して続けているというと、
「よほど子どもの頃から好きだったんだな」
と思われることが多い。
しかし実際、
私はピアノの練習があまり好きではなかった。
漫画を読んだりぼーっと空を見上げる方が好きだった。ピアノのレッスンの月曜日が一週間で最も憂鬱だった。
そんな私がピアノに魅せられたのは、小学四年生のときのクラスメイトの女の子(以下、Yちゃん)との出会いがきっかけだった。
音楽の授業中、先生が「ピアノを習っている子は弾いてみて」と提案した。私は青ざめた。人前で弾くような曲もない。練習してないから。
当時、ピアノは習いごとの定番で、ピアノの周りにすぐに数人が集まった。私は、その様子をなるべく遠くから見ていた。順番に曲を弾く様子を見て「はいはい、はやく終われ…」と心の中で祈る中、Yちゃんの演奏が始まった。
一音目を聴いたとき、私は息をのんだ。歌うような右手、軽やかに踊るような左手。それでいて、合わさると力強さもある。私は、Yちゃんの演奏にくぎづけになった。
演奏してくれたのは、ソナチネアルバム1に収録されている1番目の曲だった(クーラウ ソナチネ Op20,No.1)。初めて聴く曲。私は、その演奏に心を奪われ、音楽の授業が終わった後も、抜け殻のように頭がぼんやりとしていた。
あの日、私はピアノを通して、音楽の持つ力、すばらしさを知った。そして、私もあんな風に弾けるようになりたいと思った。
その後、私は一人でジブリの曲や「エリーゼのために」などを練習するようになった。
大人になった今もピアノを続けているのは、あの日の感動が忘れられないからだ。あのときYちゃんのピアノ演奏を聴かなかったら、私はきっとピアノをやめていただろう。
小学4年生の終わりに私が引っ越したあと、Yちゃんも引っ越してしまった。今、どこにいるかも分からないけど、会えたら伝えたいな。
「すてきな演奏をありがとう。あなたのおかげで、私はピアノが好きになったよ」と。
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