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性格の悪いあの子が好き。

「まやちゃん本当は性格悪いでしょ?」と聞くと
目をキラキラさせてこう言った。

「あ!わかる?!
あー!良かった!
私って自分で言うのもなんだけど
性格悪く見えないでしょ?
性格はそうゆう所真面目だから
良い子って思われちゃうと、
その期待に答えようとしちゃうのー
でも見破ってくれたからいい子でいなくて
良いから楽だなー!!」
とかなんとか言ってた。


銀座の中央通りのカフェで、綺麗な肌と
雰囲気にピッタリな栗色の髪の毛は
フワフワにカールさせたヘアセット。
その優しい雰囲気に合ったシフォンっぽい
柔らかい素材のベビーピンクのドレスを着て、
性格の悪いまやちゃんは
小さい手でマグカップを両手で持って
天使のような笑顔でニコニコしていた。

恐るべし。まやちゃん。

同じ店でにホステスとして在籍していた。
あいさつや席が一緒になった時だけ話す
距離がある関係だったけど
ある月の、月に1度あるミーティングの終わりに
私が1人でお茶をするために店を出ようと
エレベーターを待ってると突然お茶に誘われた。
それがあまりにも自然でいつもの私なら
買い物があるからとか何んとか理由をつけて
反射的に断るのだがあの天使のほほ笑みに
飲まれた。完全に。

初めてお茶した日、私は見破った。
耳心地のいい京都などにある高級な
鈴の音色のような声で話すまやちゃん。
でも言葉の端々に見える負けず嫌い感。
言葉の端々見える人への怒り。
言葉の端々に見える他者へのマウント感。


どんな言葉も受け入れてくれそうな雰囲気に
便乗して私も直球に聞いた。
「まやちゃん本当は性格悪いでしょ?」
あんなにすんなり天使のような笑顔で
肯定してくるのは完全に予想外だったけど。

ちなみにお客様から頂いたお花はいつも帰り際に
私の母がお花が大好きなのを知ると
必ず「これママに」と私に渡してきた。
銀座のお客様がくれる花束は本当に
豪華でとても新鮮な良いお花なのに、
なぜ持って帰らないの?と聞くと
理由は「私、お花いらないんだよね。
嬉しくないし。私、お花貰っても家の近くの
コンビニのゴミ箱に捨てちゃうもん。
最低でしょ?でも本当にいらないの」と
あの高級な鈴の音のような声で話してた。

恐るべし。まやちゃん。

でも私はまやちゃんが大好きだった。

なぜなら性格は悪いけれど
まやちゃんはとても現実的で正直な人プラス
日常から小さな幸せと小さな笑いを
たくさんみつけられる人だった。

平気だとは思ってはいたけど毎日、
嘘や虚像や上辺の世界にいて
色んな事に無駄に敏感な私の気持ちは
日々削られていた。
日々削られていたとしても普通の同じ年代の
会社員の人が貰えない給料を
もらっているのだからという事で
やり過ごさなくてはと思っていた。
どんなに辛くても、
しんどくてもそれ以上の対価が
支払われているのだからと。

ホステスが自分の天職だというまやちゃんに
対して私がホステスをしている理由は
家を支えるためだった。
母が明日にでも再婚して私が経済的な柱から
抜けられるのであれば明日にでも
この仕事を辞めるのにと思っていた。

性格は悪くとも、
常に正直で小さな幸せを見つけて来る
まやちゃんは私にとって
冷え冷えした過酷な状況の中にある
陽だまりのような存在だった。
合わない仕事を家のためといえども、
相当の対価が支払われてるとはいえども、
辛いものは辛い。
たくさんの高級なもの、
たくさんの刺激的なもの、
たくさんの新しいもの
どれも素敵だけど、やっぱりなんか違う。
でももう何が違うのかをどんな風に
探せばいいかもわからなかった。

そんな毎日のなかで、性格の悪いまやちゃんは
「ねーねー聞いて!」と、道であったクスッと
笑える話、自分の小さな失敗からの
リカバリーの話、誰かにしてあげられた
小さな幸せな話や小さな笑い話を
よくする人だった。

やっぱり自分のそばにいる人は
いつも愚痴を言ったり
ネガティブな話をしている人よりも、
自分自身で小さな幸せを集められて
小さな笑いを見つけられて
それを自然にシェアしてくれる人を
選んだほうがいい。
それはジワジワと伝染してくる。
誰かのせいにしてるわけでも
誰かに全てを委ねているわけではなくて
人間の心は機械ではないので
一緒にいる人の纏ってる空気感に
左右される事がある。
どうせ左右されるのなら幸せな空気感に
飲み込まれたい。

こうしてまやちゃんの事を書いてると
まやちゃんは性格悪くないんじゃない?と
よぎったりもするけれど。
花束、コンビニのごみ箱に捨てるんだからね。
(この頃はコンビニの入り口の外にゴミ箱が
あるのが普通だった。)

でもやっぱり私はまやちゃんが好き。

彼女は今日も高級な鈴の音のような声と
陽だまりのような柔らかさで誰かに
幸せを伝染させてるはず。


#言葉の庭
#エッセイ





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