普通という概念が外れた4日間
これは小娘が小学5年生の時に体験したお話だ。
小娘は物心ついた頃から、両親に連れられ、スキーに親しんでいた。
小娘がやっていたのは基礎スキー。
みなさんがよく知っている、
アルペンスキーでもなければ、フリースタイルスキー(モーグル)でもなければ、クロスカントリーでもない。スキージャンプでもない。
『基礎スキー』だ。
え?基礎スキーって何?と思った人もいるだろう。小娘もよくわからない😂。小娘が考える基礎スキーは、『美しさ』や『滑りの正確さ』を追及する競技だと思っている。
そこで小学生の頃から、年に二度(冬と春)、親元を離れての宿泊スキーキャンプに参加していた。そのスキーキャンプはお値段的には結構いい値段をするのだろう。参加者は都内在住の有名私立大学附属の小学校に通う、ハイスタンダードな小学生ばかりだ。そんな中、埼玉県の公立小学校に通う小娘。場違い感が否めないが、でも自分の知らない世界に飛び込んだようで、個人的にはとても面白かった。
スタートしたのは小学2年生だった。
毎年行きつけのスキー場を訪れ、3日目には実技検定試験を受けて、合否にドキドキする。合格すればこの上ない喜びに満ちて、不合格であれば、どん底に沈む。
小学5年生の冬、いつものようにスキーキャンプに申し込み、スキー場を訪れた。しかし、今回はなんだかいつものスキーキャンプと雰囲気が異なる。とても国際色豊かなのである。もともとハイスタンダードなご家庭のお子さんが参加している印象は子どもながらにあったが、今回は更にそれの上をいく。
食事を取ったり、一緒にゲレンデでレッスンを受けている時に、日本語ではない言語が飛び交っている。彼らの第一言語は英語だったのである。
彼らはインターナショナルスクール(これよりインターと呼ぶ)に通っており、名前も日本人の名前ではなかった。そして彼らと過ごす中で、自分の価値観の違いが垣間見えて、とても衝撃を受けた。
お小遣いはいくら?
4日間親元を離れて自分で身の回りのことをしなければならないため、子どもたちはそれぞれお小遣いをもたせてもらっていた。
小娘も例外なく、飲み物やお土産や非常事態用のお金を持たせてもらっていた。よく覚えていないが、おそらく3万円程お小遣いをもらっていた気がする。
小娘にとって3万円はとても大金であり、いつも大事にお財布を持っており、飲み物やちょっとしたお菓子を売店で買うぐらいで、ほとんどお金には手をつけなかった。
その後、生活していく中で、インターに通う彼らのお財布事情を知った時に、小娘は驚きを隠せなかった。インターに通う3人は兄妹だったのだが、3人ともにお小遣いをもらっていた。他にもインターに通う子もいたが、同じような価値観なのだろう。その額1人10万円。3人にして30万円。
そんな大金どこで使う場面があるのだろうかと子どもながらに必死に考えた記憶がある。
当時そのスキー場は、レストラン、プール、カラオケ、温泉、ゲームセンター等、なんでも完備されていた。
小学生の私たちがいくところはもちろん、ゲームセンター。しかし、小娘はゲームセンターで遊んだことがほぼなく、お金を使うことへの罪悪感が大きく、友達たちがお金を投じて遊んでいるのをただ見ているだけだった。
そこでの彼らの豪遊っぷりに開いた口が塞がらない。次から次へとお金を投入していく。「お金はまだまだあるから!」と、コインがチャリンと入る音だけが繰り返されていく。
お金持ちはこんなにもゲームセンターに投資をするのかと学んだ出来事だった。
どこに住んでいる?
こんなにもお金に執着心がないのだ。とても素晴らしいところに住んでいるに違いない。その小娘の期待を裏切らない答えが悠々に返ってきた。
小娘は地域の公立小学校に通い、何の変哲もない集合住宅に住み、駅までは徒歩で10分くらい。今はなくなってしまったが、町内会の行事もあり、地域の人たちとお祭りをしたり、餅つき大会をしたり、どこにでもあるような平和な地域にいる。
しかしインターに通う一家は違った。
彼らは六本木のアパートに住んでいると言った。当時の小娘が想像するアパートはボロボロでエレベーターがない、2階建ての共同住宅をイメージしていた。英語が堪能な彼らにとってアパートとは、我々のイメージする集合住宅(マンション)のことだったのかと気づいたのは、それからだいぶ後だ。
六本木のアパートはすごい。
部屋は13部屋あると言っていた。それは何LDKに当たるのかと、真剣に考えた記憶がある。そして、アパートにプールが完備されているのだとか。
13部屋もある家の家事をするために、家にはお手伝いさんがおり、自分の家族+お手伝いさんという家族構成なんだそう。
おとっさんは?
4日間のお小遣いのために合計30万円を出せるお父さんはいったい何をしている人なのだろうか?
「〇〇はお小遣いたくさんもらっているけど、おとっさんはいったい何者なの?」
「私のおとっさんはね、しゃちょーさんなんだよ。」
「しゃちょーさんなんだ!何の会社の社長さんなの?」
「〇〇(大手宅配ピザ)のしゃちょーやってるの!」
「えー!?うちは△△のピザをいつもとってるよ。今度〇〇も試してみるね〜。」
なんて会話をした。誰もが知るあの宅配ピザの社長さんなら、確かにお金はたくさんあるだろうなと思った。
そんな彼らと過ごした4日間も終わり、また来年もこのキャンプで会えるといいねぇ〜なんて話をした。小娘は幸せなことに、毎年参加させてもらえたので、彼らが参加すれば会うことはできる。そして1年後の冬、また小娘は参加した。
しかし、彼らの姿はなかった。
その年は深刻な雪不足で、ゲレンデに雪が積もるまでとても時間がかかり、オープンもやっとだった。スキーのコーチに確認をすると、「この雪不足で、今年は代わりにカナダに行ったみたいだよ。」と呟いた。なんともあの一家らしいなぁと、彼らを思い浮かべるとふふふと笑ってしまう自分がいた。
自分と価値観が異なる人の話を聞くのはとても興味深い。自分が普通だと思っていることも、他人から見たら普通でなかったり、逆も然りである。
きっと今も私の知らない世界で、まだ見たことのない景色を彼らは見ているんだろうと思うと、なんだかワクワクしてきた。
写真は大学の校舎で撮った冬の訪れ📷
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