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リゾバ人間観察記②
2024年5月〜10月まで、山奥で住み込みアルバイトをした時の人間観察日記。
誰か通訳お願いします…
彼はとても優しい人だった。年齢的には、私の両親の世代だ。多分、あんまり耳が良くなかったんじゃないかな。
彼は不思議な人だった。会話に脈絡がないというか、突然話が始まって、突然終わる、みたいな具合だ。だから2人で話す時は緊張した。
いったいどんな変化球が飛んでくるのだろうか?それを受け止めきれるだろうか…?いつも彼と従食でご飯のタイミングが被ると、そんなハラハラ感があった。
びっくりしたのは、自分の雇用形態を理解していなかったことだ。「今月末までの契約だと思っていたのに、来月までって言われちゃったよ〜。せっかく昨日パッキングまでしたのになぁ」なんて、拍子抜けしちゃうような事を平気で言ってしまう。
従食で世間話をしている時も、自分がした質問と全く違う話で返されるため、返答に困ったことは何度もある…。ふむふむ、この方の取扱説明書を入手したいと何度思ったことか。
そんな訳で、料理長からの指示をしっかり理解して行動に移すことができない彼は、何度かとんでもないミスを侵している。自分よりも一回りか二回り歳下の料理長に、叱られる度に、全身から力が抜け落ちたような、悲しみに浸ってしまう彼が、なんとなく気の毒に思った。別に彼もミスをしたくてしている訳ではないから、そこに怒りや悲しみの感情が生まれるのは、なんだかとても悲しい。
そんな彼は、下山をするたびに、美味しいお土産をみんなのために買ってきてくれた。きっと孫くらいの歳の同僚たちが喜ぶようにと、とびっきり美味しいシュークリームを大量に買ってきてくれるのだ。他の人が「美味しい、美味しい」と言って頬張るのを見て、いつも優しい笑顔をこちらに向けてくれる。
おじいちゃんとの関係が薄かった私にとって、彼は「もしおじいちゃんがいたら」という想像を掻き立ててくれるような人だった。新鮮で、でもどこか懐かしくて。
彼が新しい地で、幸せに暮らしている事を願って。
フッ軽という言葉がピッタリなママ
彼女は、子育てを終えた主婦だった。お子さんの年齢が私よりも上か同じくらいだったが、年齢的には両親よりも若かったから、きっと早くにお子さんを授かって、若いうちから子育てに奮闘してきたのだろう。
ご主人に了承を得て、住み込みで働くことにしたらしい。扶養の関係もあって時期は3ヶ月ちょっとと決めていたらしい。
彼女はとにかくフットワークが軽かった。
休みの日には、鮮やかな青いワンピースと麦わら帽子を身に着けて、ルンルンお散歩にいく。彼女の若々しい姿に、私は歳を重ねてもいつも活動的で少女の様な心を持った女性になりたい。と心に留めた。
ある日、Netflix作品の撮影が、勤務しているホテルの目の前で行われた。来ていた俳優は、あの小栗旬だった。
その日シフトが入っていた私は、その女性に小栗旬が来るらしいということ、お休みの時間に撮影現場を偵察してきて欲しい、ということを彼女に伝えた。
すると彼女はルンルンで代わりに見に行ってくれた。池の前で、水切りを何度か試していたようで、「少年のようで可愛らしかったよ。」と、撮ってきた写真を見せながら、教えてくれた。
彼女は『今』を大切にする人だった。
よく私に話をしてくれたのは、「今できることは、その時にやっておくべきなのよ!」だった。
結婚したら、
子どもが産まれたら、
子どもが受験生になったら、
子どもが巣立ったら、
〇〇をする時間が減るんだろうな。〇〇できなくなるんだろうな。
だったら、今のうちにやってしまおう!
そういって彼女は、今のうちにやろう精神で、1年に数ヶ月間だけ住み込みで働き、主婦でも色んな場所に足を運び、感性を磨いてきた。結局、お子さんからは、「お母さん、〇〇ができなくなるからって言って、結局ずっと何年もそれ続けているじゃん!」と言われているんだそう。
彼女のポジティブでマイペースなところを見習おうと心底思った。
山好きの仲間見つけた
このホテルに住み込みで働きにきている人たちの目的は、それぞれだ。美しい景色を見に、山籠りの経験をしに、登山をしに、温泉に入りに。
私はせっかくなので山に登りたい派の人間だった。彼女も同じだ。彼女は40代。双子の息子さんたちを育て、もう2人とも巣立っているという。私の現在の年齢の時には、反抗期が始まりそうな子どもたちと立ち向かっていたのかと思うと、本当にすごい。反抗期真っ盛りの高校男児たちの相手というのは、メンタルに来るものがある。教員生活で経験済みだ。
それを終えた彼女は、常にたくましかった。母としての包容力もあるが、いつもドシっと構えて、仕事をササっと終わらす。素敵な人だ。
彼女とはいつも、次にどこの山を登るか、情報共有をしていた。彼女はソロ登山派だというのを知っていたから、こちらから無理に誘ったりもせずに、お互い写真を見せ合ってはルートを共有した。
彼女は、常に挑戦をしている女性だった。
以前、ここに働きに来る前は、自分でパン屋さんを構えていたらしい。だから、いつもホテルで出すパンは、イマイチだと言っていた。ホテルで出すパンでさえ、美味しいと言っていた私は、彼女の手作りのパンを食べたくて仕方がなかった。どうやら、そのパン屋は店終いをしているらしく、もう彼女のパンを食べることはできないらしい。
残念だなぁと思っていたときに、
リゾバでよくある「ここの後はどうするんですか?」の質問に、「旦那のところに戻って、今度はドーナツ屋を開こうと思っているの」と言っていた。
フッ軽くママにせよ、彼女にせよ、
子育てを終えてもなお、パワフルに生きる二人の姿は、世の女性のロールモデルだ。私も彼女たちの年齢に達した時に、若者から素敵な女性だなと思われる様な生き方をしたい。
新しいことに常に挑戦を続ける彼女の後ろ姿は、いつも輝かしく、キラキラとしていた。
き、キンパツだ…
彼女もまたフッ軽ママや、挑戦し続けるママのように、自分のスタイルを持っている女性だ。
彼女は唯一のキンパツだったから、本当に目立っていた。昔やんちゃでもしてたのかなとか思っていたけど、全くだった。
彼女は見た目によらず、文化を重んじる人だ。どうやら普段は、着付けを生業としているらしい。着付けはもちろん、一人で着ることもできるという。あんなにキンパツでイケイケな感じだけど、どこか奥ゆかしさを兼ね備えた彼女だからか、着物姿を想像するとピンと来た。
加えて、彼女はお茶もやっているという。
様々な流派があるらしい(表千家や裏千家、武者小路千家)が、彼女はその中でも、裏千家の流派だった。彼女は何度も、裏千家ではなくて、表千家の方がいいよと言っていた。なぜなのかを熱弁してくれたが、知識のない私にはちんぷんかんぷんだった。
「都内に戻った後は何をするんですか?」の質問に対して、彼女は「また着物の世界に戻るわ。」と答えたのだった。
世渡り上手なお姉さん
彼女は、年齢層の高い厨房組の中でも、唯一の若者だった。と言っても、私よりも歳上で30代くらいなのかなと勝手に思っていた。ところがどっこい、なんと私もよりも歳下ではあるまいか。
彼女が老けていると言っているのではなく、彼女の妙な落ち着き具合や、年配の方々ともわだかまりなく上手くやっていくことができる、世渡り上手な女の子だった。
そんな彼女の可愛いエピソードで締めくくる。
落ち着きがあり、誰とでも仲良くできる彼女は、よく下界に行っていた。山暮らしの我々の間では、「麓」のことを「下界」と言っていた。
ある日彼女のお休みの日、またいつも通り、下界へと下った彼女。私たちの仕事場から、下界へ行くとなると、山岳バスと、鉄道を乗り継いで2時間ほどかかる。そして滞在時間はなんと5時間。終電は15:00代だから、貴重な5時間で色々とする必要がある。
彼女は麓でお気に入りのパン屋さんへ行ったそうだ。そこでパンを爆買いしてきたという。たくさんの手提げにパンを詰め込み、鉄道とバスを利用して戻ってきた。
5時間遊び尽くし、鉄道やバスの中でうとうとしていた彼女。寮に着いた時に、彼女は自分が手提げ袋を持っていないことに気がついた。
バスの中に置いてきてしまったらしい。「せっかく買ったパンが!」彼女はそう叫んでいた。
後日彼女はバスの運営会社に問い合わせをして、パンの入った手提げ袋の忘れ物がないかを確認。すると、運営事務所で預かってくれているというではないか。慌てて中抜けの時間にバスターミナルへ向かった。寮に戻ってきた時には、パンがたくさん詰まった手提げ袋を抱えて、ニコニコで帰ってきた。そんな可愛らしいお姉さんの失態が、寮内に噂されると、みんな下山して買い物後、バスの中では、手に手提げ袋を通して眠りにつくようになったのだ。
写真は上高地の河童橋と穂高連峰。
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