400字小説 「紅く色づくシャーデンフロイデ」
苛立つ思いで山中を急ぐ。
俺の住むど田舎のさらに山奥には、忘れ去られた相当に老朽化が進んだ橋がある。
それを渡った先の広場が誰にも邪魔されない俺のベストプレイス。
鮮やかに木々が色付くあの絶景でも見てむしゃくしゃした感情を落ち着けたい。
だがこの日は珍しく山中に人を見かけた。大きなカメラを持った女性だ。
「地元の方ですか?」
鬱陶しいことに話しかけてきた。
「この辺りで景色が綺麗な場所、ご存知ないですか?」
どうやら田舎の綺麗な風景を撮ってはSNSに上げるのが彼女の趣味らしい。
インスタグラマーね、下らない。
俺はその手合いが嫌いだ。
だが、あの紅葉のスポットが注目を浴びることになれば。
「取っておきの場所を教えますよ。少しわかり辛いけど場所も拡散して欲しいな。沢山の人にあの景色を見てもらいたいんです」
仮定に仮定を重ねて散り行く紅葉を思い浮かべ、久し振りに昂揚感を覚えながら俺は笑顔で応じた。