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平熱日記2025_冬、ジプシー達の楽団と

1月某日

新年である。

年賀状は旧友や退職者から7枚ほど届くが、こちらからは送らなかった。年賀状仕舞いということである。理由はまずショートメールなど代替の手段がいくらもあり、特に85円という安くない値段を出して賀状を送る必要性を感じないということに尽きる。風情がないといえばないんだが、年賀状は役割を終えたように思う。

家族で子の神社に初詣に行き、11時前から酒盛りを始める。去年は体調が十分ではなかったので、娘は酒は控えていたのだが、今年は全員で飲みかつ食べる。おせちらしい黒豆、田作り、数の子などもあるが、市場で買った刺身が美味である。ビール、シャンパン、ワイン、日本酒と進む。

今年は東京転勤30周年なのだ。30年前は私が34歳、妻が36歳、息子が5歳、娘が2歳だったのだから、隔世の感がある。

娘はメンタル不調を克服したようだ。息子は克服の途上であろうが、酒は飲んでいる。転職活動が気にはなるが、ここは見守ろう。

英樹ちゃんにそのことをメールで伝えるついでに、現況を聴いたのだが再雇用で、70歳まで再雇用希望とのことだった。趣味のテニスの遠征費を稼ぐのが目的らしい。こんな話をしていると、元気が出る。俺もチャンスがあれば頑張ろう。

1月某日

40年近く愛用していたアナログ式のギターチューナーが、とうとう大往生となった。チューニングが合ったときに点滅するライトが常時点滅しっぱなしになってしまったのだ。もうこの手のチューナーはもう生産中止になっているのではないだろうか。いや、間違いなくなっている。当然今はデジタル式しか店頭にはないはずである。

早速ネット通販で一番安価なデジタル式のチューナーを注文して、使ってみることに。

数日後に到着。思いのほかの小ささにまず驚く。適当な例えが浮かばないのだが、コガネムシ並みの小ささなのだ。これをヘッドに装着し、6弦を鳴らすと「E」と表示され、チューニングが合うに従いデジタル式のメーターが中央に近づいていく、という方式。なかなかよくできている。これが600円ほどなのだ。中国製ではあるが、文句はないのではないか。グレッチ、ギブソンとチューニングを行う。実に簡単。バイブレーションに反応するので、ギターのボリュームはいじらなくてよい。

問題は小さすぎて行方不明になりやすいところだが、それは使い手の問題だろう。

ギターは、最近はDoors「Light my fire」「People are strange」や浅川マキヴァージョンの「Old raincoat won't let you down」などの歌物を適当に弾き語っているが。「People~」が一番難しい。とりあえずコードを弾くのがやっとで、ターンアラウンドなどはタイミングよくできない。ロビー・クリューガーはうまいギタリストだ。なんでももともとフラメンコをやっていたそうで、柔らかな音と摩訶不思議なブルース色の薄いフレーズの秘密はそこだったのか。

1月某日

年末に録画したNHK BSドラマ「団地のふたり」に見事にはまる。正月になっても見続けて飽きることがない。

まず場面となっている滝山団地が自転車で行ける距離で過去何度か訪れており、親しみがわく。多分日本最古の団地であり、ぜいたくに土地を使ってゆとりのある設計をしているので、非常に広々とした気持ちよい空間である。

小泉今日子と小林聡美のダブル主演なのだが、55歳(という設定)の日常が実にリアルに演じられていて、共感するところ大(実際には小泉は58歳、小林は59歳)。ほぼ私と同年代といっていいのだがなんとも「わかる」演技なのだ。
私の不勉強なのか、自分と同年代のドラマなど最近見たことがない。大学時代の「ふぞろいの林檎たち」などはまさに我々世代にドンピシャだったのだが、60歳になった彼らのドラマがリメイクされるなどということはない。視聴率が取れないからだろうか。60歳前後の俳優が主役を張ることもほとんどないだろう。そういう意味で主役の55歳という年齢設定は殆ど快挙なのだ。びんびんに共感の針が振れる。

また、劇中なにか劇的な出来事が起こるわけではない。せいぜい当たりくじと思っていたLOTOを資源ごみの日に捨ててしまい、住人たちが大騒ぎして取り戻すことくらい。親との微妙な関係や、友人同士の何気ない行き違いなどのささやかな感情の揺れ、新たな住民との出会いなどのみ。「行動」を見せるドラマではないのだから当たり前だが、特に劇的な何かが出来するわけでもない、自分たちのなにげない日常を描くような時間の流れが実に心地よいのだ。

ここで描かれる世界が気に入ったので、原作を取り寄せて読む。やはり心地よい。

去年は色川武大、カフカを中心に読んだのだが、今年はエンタメを中心に読んでみようか。若い作家を読んでみようか、と思うのだが、原作者の藤野千夜は私と同学年なのだった。若い作家とはちょっと言えないか。「じじ散歩」も購入して、こちらも楽しみ。

その後滝山団地を自転車で訪問したが、ただそこにあるだけであったのは言うまでもない。


1月某日

なにか気分が晴れず、どんよりしている。いつものように「鬱か」と、まずは疑うのだが、これだけ朝から歩いたり走ったりする、活動的な鬱病患者はいないのではないか。とすると、更年期障害というのが浮上してくる。不眠、性欲減退、何となく不安など、ネットで見つけたチェックリストの設問のほとんどが該当する。なるほどこれに違いない、と納得する。

調べると受診先は泌尿器科であるという。近所の泌尿器科を調べると、徒歩5分ほどのところにあるようだ。

連休最終日、完全に不眠に陥る。深夜体が火照るので、1枚シャツを脱ぐ。真冬だというのに。どうやら更年期障害で間違いないようだ。

朝簡単な弁当を作り、外出。軽くストレッチをして、公園の芝生の上を5周ほど走る。冬は古傷を痛めるのが心配でほとんどウォーキングなのだが、今日は走ってみた。帰宅して風呂に入り、気分がかなり改善し、爽快といってもよいほどであるのを知る。
そこで思うに、原因は年末年始の連続大量飲酒であろうということになった。

連日の大量の飲酒は鬱的な気分を引き出すのかもしれないと改めて思い、これには有酸素運動が効果的なようだ、という結論に達する。あほくさ。

1月某日

最近はジミヘンばかり聴いている。具体的にはLive in Winterland Complete CD6枚組とBand of Gypsies Complete 5枚組。

Winterlandは1990年代に未発表ライブとしてCDが発売され、その次にライコからアナログ2枚組が出ているのを知り、買い替えた。そのうち完全版CDが出ていることを知り買い求めた。
BOGは、長年人形ジャケットの日本版、米盤オリジナルと聞いてきて、全曲別バージョンCD2枚組が出て、さらに次にアナログ3枚組を買い求め、最終的にCD5枚組完全版を入手するに至った。

このリリース回数の尋常じゃない多さだけでもこれらの評価の高さがうかがい知れることと思う。とんでもないパフォーマンスである。ベストワンは全曲別バージョンのアナログか。音の分厚さがただ事ではない。

オリジナルイシュー盤は長尺名が並ぶA面がどうにも理解できず、コンパクトなB面ばかり聴いていた。特にMessage to Loveがファンキーでかっこよかった。ただ、ここではバンドの黒さに焦点を当てていたのではないか。また、ジミの「一番ミスがないものを選曲した」という発言があったようにも思う。あるいは「何か所かミスがある」だったか。昔ピーターグリーンがダイアストレイツ゚を聴いて「なんでこのギタリストはこんなにっみストーンが多いんだ」といったという。多分天才ならではの異次元の耳の持ち主だったのだろう。しびれる。

「Winterland」はロック色の濃いExperienceの頂点であろう。Fire、Killing Floorは鳥肌ものだし、ライブコンピレーションに収録されていた完全盤のAre you experiencedなどはあのスタジオ盤すらも超越しているのではないか。人とギターが完全に一体になったパフォーマンスは他に類を見ない。

しかし毎夜、ジミヘンを聴きながら寝落ちをしている。70年代育ちの子守歌か?

1月某日

「老人小説」というジャンルはあるのだろうか。おもいつくままざっと上げると「老人と海」(いきなり)「瘋癲老人日記」、「鍵」(いずれも谷崎。変態系)「恍惚の人」(有吉ベストセラー)「私のグランパ」「敵」(筒井。後者は大傑作)などなど。

それというのも「団地のふたり」が原作小説もよかったので、藤野千夜の「じい散歩」「じい散歩~妻の反乱」を面白く読み、なるほどこの路線があったか、と。

そして前から気になっていた内館牧子の「老害の人」を面白く読んだ。内館はさすが脚本家出身だけに、ストーリーテラーぶりがさえている。最初は何やらテンプレ系だなと思ったが、中盤から急に面白くなり、最後は泣き笑いの大団円という感じで、実に面白かった。

特に老後の趣味だとか押し付けて老人を隔離しようとしているという考えには共感できた。終活なんかも、ほんと大きなお世話なんだよな、と強く共鳴した。

今年は老人小説を読書の中心においてみようか。昨年は色川とカフカで幕を開けたのだった。途中から松浦理恵子や音楽関係のインタビュー本(「ルースターズの時代」など)へ拡散していったのだ。

今は取り寄せていた「また団地のふたり」を読んでいるが、次は注文している「終わった人」に行ってみよう。やれ高齢化社会だのと騒いでいるのだから、新たなターゲットとした小説がもっとあっていいだろう。しかし初内館牧子だったが、やるもんだ。

このテーマで何か書くのも面白そうだ。

1月某日

奥歯2本を抜く。詰め物が取れたので、軽い気持ちで嵌めなおしてもらおうと思ったのだが、ひどい虫歯になっていて再装着不可との診断。選択肢は保険適用の入れ歯、保険適用外の入れ歯およそ18万円、インプラントおそらく百万円?検討の結果保険適用の入れ歯を作ることに。

音を立てて迫りくる老後に、一瞬ショックで酒に逃げた。つまり休肝日にもかかわらず飲んだのだ。「飲ませてくれよ~」とか言って。

翌日我に返る。

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