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平熱日記2024_お盆とGroove

8月某日
先週ネットで石田月美のエッセイを読み、軽い気持ちでエッセイ集「まだ、うまく眠れない」を、少し早めの妻への誕生プレゼントとして贈った。初めて名前を聞く作家だったが、なかなか面白そうだったのだ。
しかし速読派の彼女にしては珍しく読了するのに時間がかかってるなと思っていたのだ。1週間ほどでようやく読み終わったので、交代で先週から読み始めたのだが、これが重い。「わたしは美人、でもろくなことはなかった」「わたしはむちゃくちゃもてた、が、そんなことに意味はなかった」というネットで読んださわりの感じで、世の中舐めまくってかっ飛ばしていくような内容だろうと思ったのだが、いやいや。とんでもなかった。
幼児期の性加害、父親のDV、毒親的母、家庭内ヒエラルキーと経済犯になった弟、鬱、摂食障害などなど、難儀な人生なのである。よくもまあ雨あられのごとく、という感じできつめの状況が内外から襲ってくる。
何とか逃れようと、結婚をして不妊治療の結果二子に恵まれたのだが、悩み・葛藤は終わらない。なにをやってもどこにいても生きづらい。結婚をしても子供をかわいがっても守ろうとしても自責からは逃れられず、不安感が止まらない。無間地獄?
自分は正直こんなこと考えたこともなかったのだ。とても共感をすることはできないが、中途でやめることはできなかった。読了には1週間ほどかかる、やはり。

8月某日
松浦理恵子を読み直そうと考えている。「最愛の子ども」「裏ヴァージョン」「ポケットフェティッシュ」「おぼれる人生相談」をネットで注文した。「最愛~」は2017年刊行か。その次が「ヒカリの文集」という作品らしい。残り3作は20年ほど前に読んだのだが、たぶん十分理解していなかったかと思う。「非性器性愛」とか、自分の追求するテーマではないが、だからこそ読みたい。読んでも読んでも遠ざかるような気もしているのだが。

色川武大「百」
家族を題材にとった私小説もので、愛読者にとっては懐かしい父親、弟たちが登場する。ここでの父親は最晩年で、かなり意識がぼやけている。表題作の最後は、「庭に熊がいる」という父の言葉に子供たちが腰を上げ庭へ出向く、という結末。
「連笑」の弟の救いのなさと、その先に何もないような明るさが良かった。

色川武大「狂人日記」
私小説ではなく、創作の態を取っている。最晩年の作品で、そのようにしたい理由があったのではないか。連綿と描いている私小説とは一線を画したかったのではないか、と思う。けじめ、というか。結局主人公は誰かと(世界と)とつながることができたのか。当然答えは用意されていない。

川上弘美「溺レル」
この作家がいまひとつわからない。「川上弘美読本」では、田辺聖子が絶賛しているのだが、よくわからない。ある短編からものすごい情報量を引き出している。私の読み込みが足りないのだろうか。男女の愛欲・情欲に機微に疎いのか。先のない道行のような小説集である。

川上弘美「神様」
夢の話なのだろうか。これをたわいもないと言ってしまうと、ファンの人からものすごく攻撃されそうであるが。単に「かわいい」と評価すべき小説集なのだろうか。クマと散歩して、クマは故郷へ帰っていく。もうわからない。

8月某月
夏休みに入るが直前にFree Soulシリーズを4タイトル買って聴いてよがりまくっている。特に”Visions”というタイトルが素晴らしい。若干ブラジルっぽい曲が多いのかな。Gregg Perry,Jon Lucien,Lonnie Liston Smith,James Masonなどなど、今まで知らなかったミュージシャンを知る喜び。

グルーブがじわじわとくる。

また、Buddy Milesのメローな曲に驚き、思わず名前を2度見する。間違いなく、かのBand of Gupsiesのバディーマイルスなのだ!こんな凄い作曲家、シンガーだったのか。

8月某日
松浦理恵子再訪。「ポケットフェティッシュ」に続き「溺れる人生相談」を読んでいる。しかしアートとは縁遠い生活を送っているよなあと、およそ3
0年前の著作をたどりつつ考える。生活というものはかくも重かった。

8月某日
お盆休み中であるが、連日35度以上の高温が続く。もう、どうなっておるのか。朝7時ごろにウオーキングに出て、1時間ほどでもう限界、ほうほうのていで帰宅というありさまである。
休み前には、あそことあそこに妻と出かけようとか考えていたのだが、もう「なし」である。エアコンのきいたリビングで、とことん無為に過ごそう。
ただ2つだけやってみようと思ったのが、
1.Famme Fataleの弾き語り
2.Venus(The Roosterz)の1st.ギターソロのコピー
1は何とかできそうだが、いかんせん長年のブランクのせいか歌詞が口から出てこない(なんと!)。2は、まあばっちり音が取れた。
それにつけてもグレッチを買っておいてよかったと弾きながら思う。リビングにレスポールカスタム3PUと並べて、悦に入る。実に素晴らしい。
この流れでリビングでVU&Nicoを聴いたのだが、なんと最高なのだった。嫁も気持ちよいとのこと。そう、このディストーションギターに混沌とした音、我々世代には聴きなれた友達の話し声のようなものなのだった。

*追記
1はまずまず。歌詞も頭に入り、発音も当初よりかなりスムーズになった。
2も及第点。だがやはり一部の音を間違っている気もしている。

うちの器量よしである。

8月某日
5日ほど昼夜飲み続け生活の代償で、不眠になった。12時ごろもう目が冴えて眠れないので、筒井の日記「偽文士日碌」や全集から「家族八景」を朝まで読み続ける。「家族八景」、やはり傑作だった。起床してから読了。そのまま筒井全集から短編を拾い読む。飽き足らずAmazonで全集を3冊注文する(含:俗物図鑑、大いなる助走、富豪刑事)。モードが松浦から筒井に転換してしまった。これもまたよし。たかが趣味の読書である。

朝、Kからメールが来ていることに気づく。食料系商社に転職して営業をやっているらしい。60過ぎで営業は楽ではなかろうに。名古屋にての再開を期す。

8月某日
何気に筒井の「創作の極意と掟」を読み返していると、「色気」の項に山川方夫の「 軍国歌謡集」が例に引かれていた。青空文庫で閲覧可能だったので、読んでみた。
久々にボディーに重たいのを一発もらった感じでよろめく。人生の本質に迫りつつ、小説技巧も凝らした一編だった。
多くの人に知ってほしい作家なので、青空文庫のURLを貼っておく。(著作権消滅作品です)

大型台風が関東に接近しており、東海道新幹線東京ー名古屋間は終日運休である。こちらも断続的に強い雨が降る。本棚の整理、筒井全集他諸作の拾い読み、TVで高校野球の観戦など、さすがに刺激が足りないので、散歩を強行するが雨風がきつくなり日和って帰宅。

8月某日
筒井全集から拾い読み。「心狸学・社怪学」さすがに道具立てには時代を感じさせられる。1970年当時の筒井はマスコミ、TV、社会現象、群集心理などを小説化した先鋭であったのだ。ドタバタ仕立てでどこまでもエスカレートしていく作風である。

近所のホームセンターでゴム製の制振材を4つ買い、CDプレーヤーの足に敷く。重心が落ち、落ち着いた音になる。低音もやや豊かになったか。久々のオーディオイジリである。

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