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タイの遺跡で、チャップリン『犬の生活』のわんちゃんになる

 3月末、タイのスコータイとその周辺の、世界遺産となっている3つの遺跡を巡った。

 遺跡は公園として手入れされ、敷地は広々としており、観光客はまばらで、混雑とは無縁である。出会えるのは、遊行仏のような、日本で見るのとは一味違う仏様たち。道沿いには、木々には名前も知らない熱帯の花が、今を盛りと咲いている。こんな中を散策していると心が広々として来るのだけれど、問題は野良犬の多さである。 
 こちらは入場料を払っているのだが、彼らからすれば、弱っちくて妙なのが自分たちのテリトリーに入って来た、ということらしく、吠えるのだ。しかも、何匹か一緒に吠えて来たりするのだから、かなわない。なるべく犬から遠ざかるようにし、こちらに向かって来そうなら、すぐに近くの木によじ登る覚悟で、遺跡を見て回った。

 いろいろな木の花が咲いていて、気分よく写真を撮っていると、知らないうちに一匹のわんちゃんのテリトリーに入ったらしく、吠えながら追いかけられる。慌てて、たまたま近くにあったミュージアムに駆け込み、しばらく息を潜める。チャップリンの『犬の生活』(1918)では、他の野良犬にいじめられる犬をチャップリン演ずる浮浪者が助けるが、その犬になった気分である。

 野良犬に追いかけられた翌日、別の遺跡公園に出かける。暑いけれど、木立ちに囲まれて、いい気分である。これまで行った遺跡は丘の上にあるものもあったが、この日訪れた遺跡公園は坂がなく平坦である。国際基督教大学の構内みたいだ、さしずめ熱帯のICUだな、などとバカなことを考えながら歩いていると、前の日同様、複数の犬がどこからか吠える。ぼんやり歩いているうちに、彼らのテリトリーに入ったらしい。
 
 声の方角からはなるべく離れるようにして歩く。今度は、遺跡の建物に一匹の犬が陣取って、ワンワン吠えている。そういう遺跡は遠くから眺めるだけにする。ここの遺跡は原型をとどめていないものも多いし。

 とまあ、こんな調子で、この旅で一番怖かったのは人間ではなく、犬であった。行く前は、2007年にスコータイ遺跡で日本人女性が殺された事件があったので、人間が怖いと思っていたのだが。
 しかも、犬の、相手が自分より弱そうだと見てとると、吠えてくる、という根性がせこい気がして、犬という生き物が一気に嫌いになってしまったのであった。


 みなさんは、旅行していて、映画のワンシーンが思い出された、ということはありますか?

 


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