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聞こえない予言(AI作成奇妙な話)

聡太は幼い頃から音の世界に憧れていた。ピアノを習ったわけでもなく、楽器の演奏が得意なわけでもない。ただ耳を澄ますと、日常にあふれる雑多な音たちがひとつのハーモニーを形作っているように感じられるのだ。大学では音響工学を専攻し、将来は自分なりの音響機器を開発してみたいと思っていた。
そんな彼がある晩、自宅の狭い机で実験をしていた。安価なスピーカーと圧電素子などを組み合わせ、超音波の送受信を行う装置を組み立てていたのだ。ところが配線を誤ったのか、小さな火花が飛び散り、装置がバチッと音を立てる。慌てて電源を落とした瞬間、耳に鋭い痛みが走った。それはただの耳鳴りとは違う、頭の中を刃で削られるような感覚だった。
翌朝、痛みは引いたように思えたが、外に出てみると様子がおかしい。駅前の広場に、見慣れない集団が立っている。男女混合の十数人ほどで、まるで合唱団のように整列していた。しかしその口は動いているのに、声がまったく聞こえないのだ。けれど聡太の頭の中には低いハミング音のようなものが押し寄せ、まるで“ダイレクトに声が響いてくる”ような不気味な感覚を覚える。
「何なんだ、あれ……」
呟いた聡太は周囲の人に目をやるが、誰も彼らに注目していない。むしろ存在自体に気づいていないらしい。奇妙に思いつつも大学へ向かったが、その日は講義中も頭がぼんやりして集中できなかった。休み時間に先輩の奈保子に相談すると、意外にも真面目に話を聞いてくれた。
「超音波関連の実験をしてたんでしょ? もしかしたら耳じゃなくて骨伝導とか、別の経路で特殊周波数を捉えちゃってるのかも」
そう言われてもピンとこないが、確かにここ数日の体験は常識では説明がつかない。帰り道、再び駅前を通ると合唱団は消えていた。ホッとする一方で、どこか胸騒ぎが収まらない。
翌日、大学の実習を終えた聡太は帰りに商店街を通る。すると通りの端に昨日の合唱団が立っているのを見つけた。やはり彼らは無音で歌っている。ところが、聡太の頭にははっきりと歌詞のようなものが流れ込んでくる。
「明日の朝、旧市街の橋が崩れる……」
そんな不吉な言葉をうわ言のように繰り返しているのだ。鳥肌が立つ思いで聡太は急いで家へ帰る。気のせいだと思いたかったが、翌朝のニュースで本当に旧市街の古い橋が部分的に崩落して通行止めになったことを知り、愕然とする。
奈保子に事の顛末を伝えると、彼女の目が一層輝き始める。
「それって一種の予言? もしかして、何かの信号が聡太の脳に直接働きかけてるんじゃない?」
話を聞いた教授は半信半疑ながらも、奈保子たちの研究室で協力してくれることになった。少なくとも聡太が“普通の人には聞こえない音”をキャッチしているのは確かだ。特定の周波数の超音波が脳波を変調させ、聴覚ではない形で“声”として認識しているのかもしれない——そんな仮説だった。
実験を兼ねて、聡太は街を歩き回り、合唱団を探し続けた。夕方の公園、夜のビル街、早朝の駅前……彼らはどこにでも現れる。しかも、その歌の内容は少しずつ変化していく。
「日曜の昼、河川敷で爆発事故が起こる」
「大通りの看板が倒れて、大怪我をする人が出る」
そしてそれらは、ほどなく現実のニュースとなっていった。街では、小さな不運や事故がなぜか相次ぎ始め、聡太は次第に怯えるようになる。
「まるで、これから起こることを歌っているみたいだ……」
何とかして防げないのかと警察や市役所に通報しようとも考えたが、取り合ってはもらえないだろう。聡太はひとりで焦燥感を募らせるばかり。奈保子はできるだけデータを集めて合理的に説明しようとするが、確証は得られない。
ある夜、聡太が自室でうとうとしていると、窓の外からあの合唱が聞こえてくる気がした。ベランダに出てみると、暗い路地の向こうに浮かび上がるように合唱団の姿があった。彼らは無表情に口を開き閉じしており、その度に聡太の頭に無数のフレーズが流れ込む。その内容は今まで以上に深刻で、
「この街が近いうちに壊滅する」
「大地が揺れ、人々が溶ける闇に飲まれる」
まるで黙示録のようだった。
翌日、奈保子と研究室で周波数分析を試みると、聡太がその“歌”を聞いたタイミングにだけ、謎の超音波が検出されることがわかった。しかも収束点は聡太自身であり、まるで彼が発信源のようにも見えるという。これには相談し、少し興味を持っていた教授も首をかしげ
「これじゃあ君が予言してるようだ」と冗談混じりに言うほどだった。
日を追うごとに、街では不可解な事故が増え、住民たちは何となく不穏な空気を察しているようだった。聡太は責任を感じ始め、どうにかして合唱団に直接問いかけようと思い立つ。なぜそんな予言をするのか、この街に何をもたらそうとしているのか。だが、彼らは声なき声を歌うだけで、会話は成立しない。
ついにある晩、聡太は街の中心部のビル屋上に佇む合唱団を見つける。ビルの壁に張り付くように立ち並び、音のない歌声を夜空に向けて届けていた。意を決して駆け寄ると、彼らの輪がすうっと割れ、中へ招き入れるように隙間ができる。恐る恐る進む聡太の脳内には、ひときわ大きな声がこだまする。そこには確かに言葉があった。
「すべてはもう決まっている。何も変えることはできない」
そのとき遠くでサイレンの音が響き、地面がかすかに揺れた気がした。ビルの上から見下ろす街は、無数の光でキラキラしているが、その一部が突然暗くなっていく。停電かもしれない。聡太は怖くなり、足がすくむ。合唱団はビルの縁に立ち、まるで夜空へ溶けていくかのように薄く消え始める。最後に薄れゆく姿が振り返ったとき、確かにこう告げたように感じられた。
「この街は、もうすぐ音も光も失う。あなたは私たちの仲間なのだから、よく聞きなさい」
聡太が気づくと、ビルの屋上には誰もいない。風が吹き抜けるだけで、遠くのネオンだけが瞬いている。翌朝、大学に行くと、奈保子が青ざめた顔でニュースを見ていた。市内で大規模な断水と停電が発生し、原因不明の通信障害も同時多発的に起きているという。まるで街が徐々に機能を失っているかのようだ。
その夜、外を歩く聡太の耳にはもうはっきりと合唱団の声が響いていた。いや、声というよりはノイズ。雑音のように頭を叩く。どうしても止めることができない。そしてふと見上げると、街の夜空を背景に幻のように浮かぶ合唱団のシルエットがあった。誰もそれに気づかないが、聡太だけは確かに感じる。彼らの音のない歌は、世界の終焉を暗示しているのだろうか、それとも新しい何かの始まりを知らせているのだろうか。
一瞬、途方もない恐怖に包まれるが、不思議と同時に安堵のような感情が芽生える。終末を知りながらそれを静かに受け入れるような心境。まるで自分が合唱団の一員になり、街の行く末を見送る役目を負っているかのようだった。最後まで、聡太の耳には“声なき予言”が止むことはなかった。


こちらに収録されている話の1つです。是非他の話も読んでみてください。
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