降水確率0%の通り雨2《君の雷鳴 僕の過敏性体質》7
「君のことは何と呼べばいい?」
あいすが尋ねる。
「門脇だ」
「だから、名前」
「名をかどわき、という」
「そ、了解。じゃ、僕たちの仕事について、大体のことは聞いたけど、君にも確認したい」
「たけるの子守」
「おい」
「それは、わかってる。僕たちを呼んだ本当の理由。君なら知っているんだろう?」
「聡いね。そう、表向きは皇子の、たけるの遊び相手。実際はたけるが襲われた際の身代わり、人身御供」
「ま、そんなとこだろうね。僕らが狂言で言ってたことが、真実だったてことだ」
「あいす!あきらも!私は決してそんなことにはさせない!」
「もちろん、黙ってやられるなんてありえない、ね、あきら」
「当然、たけるに手を出したこと後悔させてやる」
「ふたりとも!」
「いいじゃないか、たける。こいつら相当腕に覚えがあるんだろう」
「フフッ、そうだね、君よりはね門脇。ところで、たけるが襲われた時の詳細がわかる備忘録なんてある?」
「どうするつもりだ」
「見たい」
「わかった、こっちだ、ついてこい」
「あきらはたけるについていて」
「了解」
あいすは門脇について部屋を出ていった。
「おい、あいすはなにを、あきら?」
あきらは、床に寝っ転がり、ずっとそばにいたみけさんのお腹をなでていた。
「おなかおなかおなか~おなかをなでると~」
「なんだその歌は」
たけるも床に寝そべり、聞いてきた。
「ふふ、身体が元気になる歌」
「効くのか?」
「効くんじゃない?」
「寂しい時にも、、いや何でもない」
向こうを向いてしまう。
「効くよ」
返事がない
「僕が歌えば、ね」
「そうか」
そして、部屋は沈黙した。
「これで全部?」
「書類に残ってないものもいくつかあるが、それはもう思い出しようがない」
「そう、ありがとう」
あいすは真剣に書類を繰っている。
「これが、3歳のとき・・」
「なあ、あいす」
「なに」
「俺は、将来の陰陽師候補として、陰陽寮の方々とかなり顔見知りなんだ」
どくん
「へーそうなんだ」
「お宅にお邪魔したこともある」
ぐっ
「なぜ、お前たちのことを知らなかったんだろうな」
すう、一つ息をする。
「それは、僕たちが異形として隠されて育ったから、」
「おい!」
「なんて言ってもごまかされないよね、門脇は、そうだよ大嘘だからだ」
門脇があいすをじっとみる。
「ごまかさないのは褒めてやる、しかし、だからといって、このまま」
「このまま、たけるのそばにいるよ、僕がじゃない、あきらがたけるには必要なんだ」
なにか、言おうとして、それでも門脇は他のことを聞いた。
「たけるのためか」
「僕たちはそのつもりだけど?実際その人のためになったかどうかなんて、当人にしか判断できない、そうだろう?」
「お前たちが得することは何だ」
「平和な世界、って言ったら信じる?」
くすくす、あいすが嗤う。
「君たちにとっても悪くないと思うんだけどな」
どう?
「・・・納得したわけではない。だが、どうしても嘘をついているとも思えない。荒唐無稽だがな、、たけるは私の大事な主君だ、彼を守るのに私の力は役に立たないか?」
「素直に言うと、とても助かる」
「まだ何か隠していることはわかっているが、今は聞かないよ。いつか話してくれ、一応、その、友達として?」
門脇が真っ赤になっている。彼もこのような会話が苦手なのだろう。
「くっ、あはっ、そうだよ、門脇はナイスな友達だよ」
「ないす、、」
宜しくね、門脇、笑いながら手を差し出すと、まだ赤い顔をしながら門脇も手を握ってきた。
僕とあいすの寝床はたけるの部屋の外の廊下の一角にしつらえてあった。二人で交互に起きながら、寝ずの番をする。夜間の魑魅魍魎や不審者に対応することも仕事の一つだからだ。まあ参内して一ケ月、今のところ動きはない。まあこっちは副業のようなもの。本当の仕事はー。
「あ、みけさん起きてきたんだ」
さっきまであいすの足元で寝ていたみけさんがこちらにやって来た。
「おいで、なでてあげる」
夜中に一人で起きていることにも慣れてきたが、やはり仲間がいるとホッとする。
「おなかおなかおなか~」
僕は静かに歌う。静かな時間だ、歌が闇に溶けていく。
ねえ、みけさん、君は、僕が本物の魑魅魍魎でもそばにいてくれる?
こんなことを想うのも、月夜を雲が隠すせい。
なんだか、たまらくなって、ぼくはみけさんをぎゅっと抱きしめた。
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