年始とともに考える年賀状の歴史。
史料に初見される新年の挨拶は、平安時代の貴族、藤原明衡の文例集「庭訓往来」の中にある正月の文例「春始御悦向貴方先祝申候訖」である。一例ではあるものの、こういった習慣がすでにあったことがわかる。
日本に暦が伝わったのは、欽明天皇14年(553年)とされており、ヤマト政権が朝鮮半島から暦に詳しい僧を招いて独自の暦作りを始め、日本で初めての暦が完成したのが推古12年(604年)の飛鳥期である。
飛鳥期は、律令制を取り入れるなど、中国、朝鮮に向けて国家というものを作ろうとした時代である。簡単に言えば、決まり事や作法を作り、人を統制した。
朝廷や貴族と一般庶民の身分を差別化するには、作法や服装によって上下をつけるのが手っ取り早く、無意味とも思われる理解のし難い儀式が多いのもこのためである。
年始の挨拶も平安期以前より、暦の完成と律令制の中から始まったものではないか?史料がないのでわからないが、中国、朝鮮を真似て、朝廷に新年の挨拶をする儀式を始め、それが貴族から庶民へと広がったと想像される。
平安期からは、親族の家々を回る「年始回り」というものが始まる。年末年始の帰省はこの名残りである。
江戸期になると書状による新年の挨拶が一般化され始める。飛脚は大忙しであり、現代の郵便配達員が早朝から年賀状を配るように、多くの飛脚が町を走り回った。中には、年始だけ雇われる飛脚もあったことだろう。
明治になって郵便制度が始まり、年賀状が作られた。21世紀に入り、年賀状からメールで新年の挨拶を行う人が増え、携帯の普及によるメールが一般化されると、たちまち年賀はがきから、メールに以降する人が増えた。
さらに、スマホの発明と普及によって人類の生活が根底が変化するが、チャット方式によるコミュニケーションツールである「LINE」の出現で、ついに文字によって行われていた年始の挨拶が終わりを迎える。
LINEスタンプの発明である。これによって文章がアイコン化されるが、年始の挨拶も例外ではない。個人でのやり取り、グループLINE、画面には様々なおめでとうスタンプが溢れる。
スタンプをタップするだけで年始の挨拶を済ませることが、どこか人と人との交流に希薄さを感じなくもないが、筆不精で年賀状を送らなかった人もLINEスタンプであれば年始の挨拶をするようになったケースもあることを思えば、むしろ紙とペンしかなかった前世紀よりも人との付き合いは濃密なのかもしれない。
朝から、ポストには年賀状が数枚にも関わらず、通知が止まないスマホの画面に表示される様々なおめでとうのLINEスタンプを見ながら、そんなことを考える2024年の始まりである。
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