ヨーロッパEUを揺るがす農業の環境問題対策 VS 所得補償課題

以前の投稿でヨーロッパ諸国で起こる農業者によるデモについて取り扱ったが、今回も関連事項を調べてみた。
ヨーロッパではEUの共通農業政策における環境問題対策を進展させようとしたところ所得補償などの変更に伴う反感を買い農業者による大規模デモが何度も各国で起こっているようだ。

EUの共通農業政策における改革事項は詳細は下記のPDFファイルを見て頂きたいが、簡単にいうとこれまで払われていた所得補償について規定の環境対応をしたら払われる方式に大幅に変わるということのようだ。https://www.eu.emb-japan.go.jp/files/100560288.pdf

書籍「世界の食はどうなるか」に記載ある内容として、「2050年に世界人口が100億人と予想される中で食糧生産を倍増させねばならないため技術等も活用した構造的な変革が必要」である。だが、世界16か国37名の一流科学者がまとめたEATランセットレポート(2019年)には食品は人間の健康と地球環境の持続可能性を最適化するための単一で最も強力なレバーである。しかし食品は現在人類と地球のいずれをも脅かしつつある。」と述べているように、「農業を効率的に進めようとする投資に必要な資金は規模拡大を通じてしか得られないが、そうなると避けがたく聞こうと生態系にさらなる負荷をもたらしてしまう。窒素排出量が増加する」のだ。だからこそ農業の生産性向上を支援するとともに環境対応を進めることは理に適っている。

だがEUの共通農業政策は一部のエリートが進める理想論と取られている節がある。地球環境問題でこれだけ世界中で影響が起き始めているにも関わらず、その問題と自分たちの所得が減る問題は異なる、ということだろう。

さて、上に紹介したPDFレポートは欧州連合日本政府代表部が作成したものだが、3頁目に予算について記載がある。「CAP予算がEU予算全体に占める割合は、1990年代前半まで6割以上と高水準であったが、CAP改革やEUの直 面する課題が多様化する中、EU予算に占める他のEU政策の割合の増加(移民政策、防衛協力等)により、近年その割 合は3割以下まで減少。【EU総支出2,280億ユーロのうち、CAP予算は554億ユーロ(全体の24%、2021年)】」と記載がある。これを一見すると移民か!!武器か!!などと捉えるかもしれないが、2019年~21年のEU予算に占めるCAP(共通農業政策)予算の割合の減幅が大きいことに気付く。これって、ブレグジット(イギリスのEU離脱)が影響して予算がかけられないようになっているのではないか?

調べてみると、「2016年の英国の EU 予算に対する拠出割合は、ドイツ、フランスに次いで3番目 に多く、全体の13.45%を拠出している。額にして131億ポンド(約1.9兆円)2 であ る。逆に共通農業政策(CAP)や研究開発予算等の EU から英国への受取額は45億ポンド(約6,525億円)で、差し引き約86億ポンド(約1.25兆円)の実質負担と なっている。」とのことだ。

http://reposit.sun.ac.jp/dspace/bitstream/10561/1302/1/v51n3p59_aoki.pdf

ただし、JETROのレポート内にある「CAPにおける項目別支出額の推移」のグラフでもわかるように、環境対応に応じて払われる補助金は今回が初めての導入ではないようだし、そもそも2004年~2006年頃から直接支払される割合が減っているようだ。これはEUの東方拡大に応じて加盟国が増えたために構造が変わったのではないかと推測する。

EUはヨーロッパの戦争の歴史に対する反省を元に国家と国家主義に対する強い不信があったこともあり進んだ構想だ。まず争いごとの原因となる資源、石炭・鉄鋼を共同で管理することにすることで始まった。特に「仏独の産業資源を共通化することで戦争を完全に不可能とするという考え方に基づいた徹頭徹尾政治的な判断」として、当時は「加盟国は最高機関が有するその超国家的性格と両立しないいかなる行為もこれを行うことを控える」という一文が条約に入ったほどだった。(この一文は欧州経済共同体(EEC)では削除された。)(児玉昌己「EU・ヨーロッパ統合の政治史」NHK出版2011年) 当時はECSCとして石炭と鉄鋼の生産と共同市場の監督のほか、共同市場としての同一条件での製品の供給、共通対外輸出政策の発展、石炭・鉄鋼部門での労働条件の改善などを任務として担っていた。
また、欧州防衛共同体の構想はフランス下院での承認否決に遭遇して水泡に帰し、欧州政治共同体構想も自動的に消滅したが、北米に追い越されてしまった危機感などから経済面での構想は進み、1957年3月のローマ条約により欧州経済共同体(EEC)と欧州原子力共同体(Euratom/EAEC)が創設される。この条約の中でEEC側は153頁ある基礎文書の中で農業についてはわずかに9頁が割かれたのみであったようだ。工業製品に対する関税同盟の構築により域内での貿易を活性化し工業国ドイツなどを潤したが、農業国フランスなどは当然域内国への輸出を期待する。しかし各国ごとに農産品の輸出入の規制が異なる状況にあればフランスの農産品の価格は割高になる危険もあり、国益も守れない。1958年当時農業者は全人口の約2割あり、加盟国政府もこの権益を無視しては統合を推進できなかったようだ。安全な食料供給は経済的な繁栄の不可欠な基礎である。コモンウエルスとして食糧供給を海外の旧植民地に依存できるイギリスとは違い、ドイツフランスなどの設立6か国全体としては零細農家が多い。そのため生産者保護のための価格補償を核とする共通農業政策が形成された。*以上、上記のNHK出版の児玉氏の記述内容より抜粋

ここまで調べてみて、このような流れがある中での2019年のブレグジットによる逆行がいまになってEUの共通農業政策を揺るがしている、しいてはEUそのものを揺るがしているということではないかと考えるに至った。だが、様々な出来事の繋がりは多くの人にとって分かりづらい。いずれにせよ直接的には環境問題対策がEU共通農業政策に対する反感に繋がっているのだろう。

個人的な考えでは、大きくは「格差課題の解消」→環境など地球環境問題への対策、説明の順でないと多くの人は納得できないということだ。(勿論平行して進めていくことは必要) 格差課題を放置しているように思われては今回のEUの逆行危機のように、地球規模の課題に対する対応が逆行しかねない危機があるように感じる。ただ、特に食料はなくては人は生きられない重要資源なのだから、積極的に大規模農家の支援を行い食糧生産の規模を人口分確保していくことは政策としては必要不可欠なんじゃないか。
これらの問題はまだまだ奥が深そうなので引き続き調べていくことにしたいと思う。

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