その時は突然に
その時は突然だった。私の前に現れた天使は尋ねた。
「お前は雪が好きか」
と。この天使は、羽もなければ、天使の輪もない。名乗られなければ天使だとわからない。そんな見た目をしていた。
「ええ。雪は好きです。」
そう答えると、この天使は髪に隠れていない右目と口で微かな笑みを浮かべた。
「そうか」
と言うと、天使はどこかへ行ってしまった。すると、空から白く小さなものが落ちてきた。
それは雪だった。
ひとつひとつが輝く、今まで見たなかで1番美しいと感じるものだ。1粒手に取ると、綺麗な形をした結晶がキラキラとしていた。
「どうだ」
戻ってきた天使がいう。
「美しいか」
と問う。
「ええ。とっても美しいです。」
と言うと、今度は少し満足そうな笑みを浮かべた。
つぎは
「では、雨は好きか」
と尋ねてきた。
「いえ、雪は好きですが、雨は好きではありません。」
と言うと、天使は少し不思議そうな顔をするので説明をすることにした。
「雪は濡れませんが、雨は濡れてしまいます。だから、好きではないのです。」
と言うと、天使は納得したような顔をした。
すると
「では、冬は好きか」
と尋ねてきた。
「ええ。冬は雪が降るので好きです。」
と答えた。天使は、私の返答を聞いてまたもやどこかへ行ってしまった。しばらくすると、体感温度が下がった。この感覚はおそらく、冬だろう。私はこの気温がちょうど良いと感じる。
「冬は感じたか」
と戻ってきた天使は問う。
「ええ。とても感じました。」
と答えると、天使は少し嬉しそうな笑みを浮かべた。
あまりにも質問されるので、今度は私が質問をすることにした。
「あなたは、冬が好きですか?」
そう聞くと、天使は少し困ったような顔をして
「わからない」
と答えた。抽象的すぎたのかと思ったので、私は
「では、雪は好きですか?」
と聞いた。天使は、またもや少し困ったような顔をして
「わからない」
と答えた。なぜわからないのか、疑問に思った。
そこで
「どうしてですか?」
と聞いてみた。天使は、少し悩むような素振りをして
「天使は、人間のころに好きだったものを忘れる」
と言った。つまり、天使は答えたくても答えられないのだとわかった。自分を見失ってしまったのだとわかった。
天使は、少し気まずそうな顔をして
「1番好きなものはなにか」
と聞いてきた。私は
「わかりません」
と答えた。1番というものはとても難しかった。
天使は、少し寂しそうな顔をした。そして、天使は尋ねてきた。
「お前は雪が好きか」
と。私は
「わかりません」
と言った。
天使は悲しそうな顔をした。
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