『コーリング・カード』 ロリー・ギャラガー
ロリー・ギャラガーはアイルランド生まれである。U2が世界的に有名になる前、アイルランド・アーティストといったら、ヴァン・モリソンかロリー、バンドならシン・リジィだった。
ロリーは60年代後半にテイストという3ピースバンドで活躍し、1970年のワイト島ロックフェスティバルでジミ・ヘンドリクスと共にメインアーティストとして扱われた。テイストは、クリーム解散後ポストクリームと絶賛されていたが、あっさり解散し、ロリーはソロ活動を行うようになる。
ブルースを基調としたロリーのシンプルなロックは、ツェッペリンやディープ・パープル全盛の70年代中期までは手放しで受け入れられていた。そしてアイルランドのヒーローだった。しかし、70年代も後半になると音楽の多様化や大物バンドが音楽性の転向を行う中、ロリーの頑固さが裏目に出たこともあったようだ。頑固さはアイルランド人の気質でもあるが、その頑固さに人気の秘密があるのだろう。一本気な人なんだと思う。
いつもヨレヨレのダンガリーシャツにジーパン。他のモデルに浮気せず、古いストラトキャスターをずーっと使い続ける頑固親父である。
普通だったらロリーのアルバム紹介は名盤『ライヴ・イン・ヨーロッパ』(1974)なのだろうが、今回はあえて『コーリング・カード』(1976)を紹介したい。
ロジャー・グローヴァーのプロデュースによる通算8作目のこのアルバムは、ライヴで本領を発揮するロリーのスタジオ録音盤としては、『タトゥー』(1973)と並ぶ初期の代表作である。
『タトゥー』の方がセールス的には成功しているが、ハードな味付けになっている『コーリング・カード』の方が僕の好みだ。ま、どちらもスタジオ録音とはいえ、ほとんど一発録音に近い作り方である。エフェクターを使わず、シンボルマークの1961年製の塗装が剥れたストラトキャスターを操る妙技を生の迫力で聴くことができる。硬派な楽曲と生演奏の魅力がタイトにまとめられており、そこにロリーの自信と余裕を感じとることができる。
1曲目の「Do you read me?」からグイグイ引っ張っていく。シンプルなドラムソロから始まり、枯れたストラトのサウンドが絡まる。それまでの楽曲であまり融合することの無かったハモンドオルガンが多用されているところがこのアルバムの特徴だが、プロデューサーがロジャー・グローヴァーだからちょっとパープルっぽいか。
タイトル曲の「Calling card」はロリーらしいブルース・バラード。「Moonchild」「Edged In Blue」はよくライヴでも取り上げられているエモーショナルな作品だ。
1994年ちょっと太ってしまったロリーを川崎クラブチッタで観たが、それまでビデオで見てきたとおりの潔い演奏だった。3ピースバンドのロリーの演奏を目の当たりにして、本当のギタリストとはこういうものだ、と開眼した記憶がある。ノンエフェクター、ボリュームのみで曲の強弱をつけ、自由自在にギターを操る。本当にギターが彼の体の一部になっている感覚にとらわれた。そして、ブルースもしくはブルース・ロック一辺倒と思っていた音楽は、実はアイリッシュらしいトラッドフォークの味付けがなされ、ジャンゴ・ラインハルトから影響を受けたジャズ奏法や、ボトルネックを多用したラグタイムなど、レコードだけでは聞き取れない音がロリーのアドリブから感じ取ることができた。
そして、とにかく観客をノセることが上手く、心底楽しむことができたライヴだった。
オリジナル・アルバムとしては、『フレッシュ・エヴィデンス』(1990)が遺作となった。
1995年に肝臓の移植手術による合併症のため、惜しまれながらこの世を去っている(享年47歳)。僕が観たライヴはきっと最後の最後までロックしていたロリーの頑固さから来る生き様だったのだろう。
2005年7月29日
花形