『セブーンス・ソジャーン』 ムーディーブルース
6月は梅雨の季節。じめじめとしたうっとおしい季節。そんな時期に聞きたくなるムーディーブルース。
洋楽。それもロックに目覚めた中学1年の頃、わたしの頭の中では、フリーのポール・ロジャースが何を歌っているのか、が興味の中心だった。
そして、同じ様な音楽(ロック)に興味を持ち始め、それは最終的にレッド・ツェッペリンの「独自性」「個々の実力」と「見栄え」に興味は移り、彼等は私の中のロックバンドのアイコンとなった。
ブルース、ロックンロール、ケルト、プログレ、レゲエなど多様な音楽性を打ち出す彼等をアイコンにした事は、後になってあながち間違いではなかったと気づくが、当時はパンクムーブメント花盛りの1977年。友人たちとの会話では、ツェッペリンは前時代的な遺物と称され、ビートルズに至っては化石と評され、相手にされなかった。涙。
では、私は当時流行りの音楽に傾倒したか、というと確かにパンクは分かりやすく、時代を彩る表現でニュース性もある。しかし、音楽性が今一つ「単調」で、長く聴いていられない。「飽きる」。
ニューヨーク地方のそれは「歌詞が面白く」盛り上がったが、ロンドン地方のそれは「不満の捌け口が中心」で、イギリスはビートルズやツェッペリンを輩出した国ではあるが、生活は大変な国なんだなぁなどと盛り下がった。
聞くところによるとロンドンはいつもぐずぐずと雨が降っているというし・・・。暗い。
そんな事もあり、フリーやツェッペリンの音楽性とは別の新たな世界を模索していた
時に1970年初頭に出版されたロバート・プラントだかジミー・ペイジだかのインタビュー記事を目にした。
「今のロック・ミュージックで本当の意味でオリジナルといえるのはピンク・フロイドとムーディーブルースだけだ。レッド・ツェッペリンはロックのある一面を表現しているに過ぎない」と。私のアイコンであるツェッペリンが発する言葉である。神の言葉である。ピンク・フロイドとムーディーブルース?
ピンク・フロイドは『原子心母』(1970)、『狂気』(1973)等の世界的大ヒットアルバムを発表していたので1977年当時でもメジャーなバンドであったが、もう一つのムーディーブルースとはいかなるバンドか。
私はすぐにレコード屋に走り、「M」の欄を必死に探したが1枚も見当たらなかった。2件目のレコード屋でもかすりもせず、意地で探し回った挙句、中古専門店ハンターで見つけたアルバムが『セブーンス・ソジャーン』(1972)であった。800円。
レコードに針を落とす。予想外の厳かな音の調和。オーケストレイションやチェンバリンを多様した世界。「プログレの先駆けとなったバンド」と解説には記載されていたが、当時私が思い描いていたプログレはキング・クリムゾンやイエス、ピンク・フロイドのようにハードな音色に変拍子やギリシャ哲学のような歌詞の応酬という印象が強く、このムーディーブルースの音楽が果たしてプログレなのかという印象が先に立った。そしていろいろ調べていくうちに「メロトロンをビートルズと同時期から使い始めた」とか「もともとは1964年にR&Bのバンドとしてデビューし、ギターには後にウィングスの核となるデニー・レインも在籍していた」とかある。ビートルズと近しい関係なのかしら、などと勝手に思い、何故か妙な親近感を起こさせるバンドとなったが、日本では知名度が低くヒット曲といえば1967年発表の「サテンの夜」となるようだ。
「サテンの夜」は発売当初は大したヒットを記録しなかったが、5年後の1972年頃からラジオ局から火がつき始め、最終的に全英9位・全米2位・カナダ1位の大ヒットを記録し、彼らの代表曲となった。そして収録アルバム『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』(1967)も1972年にはアメリカで最高位3位を記録する大ヒットとなる。
そういえば私はこの頃エレクトーンを習っており「サテンの夜」はエレクトーンの教科書に載っていて、弾いた記憶がある。エレクトーン向きの情感溢れる歌。ロックというよりムード歌謡かカンツォーネか・・・。
しかしそれ以降、ムーディーブルースは日本では目立つ存在ではなかった。あのシンフォニックロックというか、仰々しさというか。特にシングルヒットを好んでいた日本の音楽界はコンセプトアルバムという存在の理解が低く、ムーディーブルースのようにアルバム毎にコンセプトを打ち出す作り方をされてもピンとこなかったのではないだろうか。ラジオでも使い辛いし。
ま、かくいう私も1977年当時『セブーンス・ソジャーン』を聴いてもピンとこなかったし。なんだか温いお湯につかっているような気分になり、トロリトロトロ眠くなったものだ。
が、しかーし、最近久しぶりに針を落としてみたところ、なんだかしっくりきたのだよね。
いろいろな音楽を聴いてきてそれが上手い具合に調和し、聴く耳が育ったというのか・・・。
コーヒーじゃないけど、深みが増すというか。「Isn’t Life Strange?(神秘な世界へ)」なんて、ドラマチックな展開満載でありましてリピートしてしまいます。
で、作詞作曲のベーシストのジョン・ロッジはこのアルバム制作時27歳。ヴォーカルのジャスティン・ヘイワードは24歳だから、老成しているというか才能が溢れているというか。ザ・バンドみたいな枯れ方よね。
昔、あまり聞かなかったアルバムを聴きなおすと妙な発見があるね。
なんだか得した気分になる。
でもって未だに現役というからザ・ローリング・ストーンズやザ・フーと並び称される長寿バンドでありますな。オリジナルアルバムは2003年まで発表しているようだ。
ムーディーブルースは、プログレの祖ですか・・・。
プログレの概念が今の時代だと良くわからなくなってしまうのだけれど、ムーディーブルースはプログレというよりソフトロックにカテゴライズされる気がするね。ま、いいんだけど・・・。
あと、プログレのファンの人って物凄く拘りの強い人が多いから、このブログみても怒らないでね。私は音楽評論家のようにサンプル盤聴いて御託並べているわけでなく、しかるべきお金を自分で払って無償で感想を書いているだけなので。あしからず。
2018年6月1日
花形