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僕の父の部屋

僕が高校生の頃に新築を建て直したと昨日の記事で書いたが、もう一つエピソードがある。父はクワガタが好きで、昔から家でクワガタを飼っていた。休日になるとクワガタを捕まえに行くのが趣味で、まるで小学生みたいだった。家にはクワガタ専用の部屋があり、当時は何も思わなかったが、本当にクワガタ専用の部屋なのだ。今思えば凄いが、空調設備や湿度などもしっかり管理されており、4畳半ほどの広さにクワガタがびっしり並んでいる。そんな折、新築を建て直すことになったのだが、新しい家にはクワガタの部屋は作らないと父は言う。そして、クワガタは全て売却したと。あれだけ楽しんでいたのになんでだろう?と少し疑問に思ったが、まあ色んな事情があるのだろうと。そして父、母、僕、そして妹の部屋がそれぞれ完成し、生活し始めた頃、妹の部屋が狭いだの、僕の部屋が広いだの、母の部屋が西陽で暑いだの、色々あった。だが、父の部屋は鬱蒼としていて、光も当たらず常に暗いというイメージだ。部屋はなぜか細長く設計されており、そこにタンスや漫画を両脇に置くと、それはもう独房のようなところだった。部屋の先には唯一光が差し込める窓があり、その窓枠にそって一直線に人が一人通れる程度のものだ。当初は設計ミスだと思い、あえて口にしてこなかったが、大学生の頃に一度聞いてみたことがある。家族で晩御飯最中だった。なんで父さんの部屋だけあんなに細長いの?と、なんでゾウさんの鼻ってそんなに長いの?のテンションで聞いてみた。すると父は、一言、「クワガタの気持ちになりたかった」とぼそっと言った。一瞬ポカンとした。クワガタの気持ちになりたかった?なんだそれは?どれだけクワガタが好きなんだ?父曰く、クワガタの寝床をイメージして作ったらしいのだ。そんなの聞いたことない。だからあんだけ細長かったのか。それは設計ミスでもなんでもなく、父は新しい家にクワガタの部屋が作れなかったから、今度は自分の部屋をクワガタの部屋にしたのだ。クワガタの部屋が無くなったと思っていた僕は時を超えて面食らった。

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