¬ PERFECT World 4話
3話
4話
さわやかな夕方の風。
相対して話すのは、懐かしさはなく、痛々しさだけが残っている記憶。
私は、10歳の時に両親と出かけた際に人さらいに遭ったんだ。
研究所に連れられた頃、当然の事ながらずっと家に帰りたいと思っていた。
そんな自分を、そして同じ境遇の子供たちを変えたのはヴィリエだった。
ヴィリエはパーフェクト実験の研究員の一人だけど、連れて来られた子供たちの心を一番に考えていたんだ。
私は・・・ヴィリエが、好きよ。
不安になったり寂しくなったりすると、いつもヴィリエの所へ行って話をしたんだ。
そうしている間にも、私が実験台になる日が近づいてきた。
本当に・・・怖かった。
あの頃は、パーフェクトの手術の成功は他の施設で数例だけで、私のいた研究所では成功した人はいなかったから・・・自分が死ぬのが、目に見えていた。
実際、仲が良くなった人たちの何人もが失敗して死んでいった。
だけど・・・ヴィリエが、麻酔が効くまでずっと手を握っていてくれて・・・手術を成功させてくれたから・・・私は、パーフェクトになって生きて戻ってこれた。
私の手術がきっかけで、徐々に手術の成功パターンが見えていったの
ポツリポツリと、噛みしめる様に話し出すルーシア。ケンは真剣な瞳でルーシアをじっと見ている。
「普通、そういう事があったならパーフェクトになった事に誇りを持てるんだろうけど。私はそうはなれなかった。最初は、最初こそは誇りもあったよ。大好きなヴィリエの役に立てたんだ」
微笑んだ顔が、悲しみに塗り替えられていく。
「パーフェクトになったばかりの頃は、自分は普通の人間と何も変わっていないと思っていた。
実験の日々と自分の能力の変化には確かに戸惑っていたけど、手術前と比べて褒めてもらえたし、ヴィリエのやり方に貢献出来たことで研究所でのヴィリエの立場が良くなっていく事に誇りも感じていたんだ。
空き時間は仲のいい子達と遊んでいたし、ヴィリエともたくさんいろんな話をしてた。」
だけど
「じゃーんけーん」
「「ぽん!」」
「あー!ルー姉また負けたー!」
「ルーちゃん、じゃんけん弱いよねー」
大きな託児所の様な部屋の中心に、6~15歳までの子供達が十数人程の輪を作っていた。その輪の中心には二人の子供がいる。
一人は金色の髪をした10歳前後の男の子、もう一人は13歳のルーシア。高い位置でくくったポニーテールが揺れている。
「でもさー。そんなルーシアちゃんと互角に戦う人がいるよねー」
そう言った女の子に調子を合わせるように、周りの皆は『ねー』と繰り返して言う。
ルーシアの顔が、みるみる内に赤くなっていく。
「いー加減告白したら?知らないのは本人だけよ?」
ルーシアは周りの雰囲気に押されながらも、精一杯反論する。
「だ、だって私まだ子供だし、ヴィリエは皆に平等なだけで・・・」
「何言ってんの!年なんか関係ないでしょう。あんたを好きでなけりゃ、話を聞いたりしないわよ!」
ハルに強く背中を叩かれ、ルーシアがむせる。周りの人に励まされ、次第に恥ずかしげな顔から明るい顔へと変わっていった。
そんな時だった。サイレンが鳴り響き、警戒レベルMAXを告げる放送が流れる。
「キイチ・・・」
一人の少女がつぶやく。皆の雰囲気が180度変わる。
このサイレンはパーフェクトへの変化が失敗し、狂ったパーフェクトが暴れ出した事を告げるもの。狂いだしたパーフェクトは、処分されるのみ。
銃声がどんどんこちらへ近づいてくる。ルーシアはいたたまれなくなり、廊下と部屋を隔てているガラス窓のスイッチを入れた。透明だったガラスが曇りガラスに変わる。
「~~~~~~」
ルーシアの耳にヴィリエの声が微かに届く。ルーシアはパーフェクトの能力を最大限に引き出し、耳をそばだてる。
〘ヴィリエ!やめろ!〙
研究員がヴィリエを呼び止める声。
彼が危険に晒されているかもしれない。
そう思った時にはすでに、扉を開け走り出していた。
「!!」
角を曲がったルーシアの目の前に飛び込んできたものは、狂気のパーフェクトと対峙しているヴィリエの姿だった。
「type40!何しに来た!おとなしく部屋に」
「ヴィリエ!」
「ルーシア、来るな」
ヴィリエが顔を狂気のパーフェクトに向けたまま叫ぶ。
狂気のパーフェクトはルーシアを見ず、ヴィリエにいつ襲いかかろうか様子を伺っている。
「キイチ。お前は暴れるような子じゃなかったはずだろう?何も怖がる事はないんだ。さあ、僕の手を取って・・・」
ヴィリエが手を伸ばす。パーフェクトの狂気に満ちた瞳が揺らいだ。
が、それは一瞬の事。
再び狂気に支配された瞳に戻ると、暴れ出した。
「わぁぁぁぁ!」
悲鳴にも似た叫びを上げ、狂気のパーフェクトはヴィリエめがけて腕を上げた。
「ヴィリエ!」
ルーシアは咄嗟にヴィリエと狂気のパーフェクトの間に入る。
振り下ろされた左腕が強かにルーシアの右頬を打つ。
壁に吹っ飛ばされたルーシアはその衝撃をものともせずに立ち上がり、なおも暴れ続けているパーフェクトの腹めがけて拳を突き立てた。
気を失ったパーフェクトが倒れる。激しく肩を上下させているルーシアのこめかみから血が流れる。
「ルー、シア・・・」
呼ばれた声に振り返る。
血に染まった視界のなか見えたヴィリエの顔は、ルーシアを別人でも見るかの様な目をしていた。
充分に解りすぎる、恐怖にひきつった顔。
バシュ!!
銃声にルーシアが弾かれた様に倒れたパーフェクトを見た。彼の血が、彼を染めていく。
倒れたパーフェクトに向けて発砲した研究員の近くに、ルーシアを冷ややかな目で見ている男がいた。
「さすが、完成されたパーフェクトだな。一発で失敗作をのした。が・・・一人の研究員の為に動くのは感心しないな」
銃を撃った研究員に激励の言葉をかけ、冷ややかな目の中に何かを含ませている男がルーシアに近づいてくる。
「所長!私は・・・キイチを殺す為にやったわけじゃ・・・」
今にも泣きそうなルーシアが所長に詰め寄る。所長は、反応を楽しんでいるかの様な目でルーシアを見ていた。
「何を言う。失敗作には死あるのみだ。復帰させるなど無意味だよ。仲間意識などという考えは捨ててもらいたい。
君は完成されたパーフェクトなのだから。
ヴィリエ、君の考えは諸刃の剣であると私は再三注意してきただろう。type40に関してはたまたまうまくいっているが、研究対象にあまり情をかけすぎると私的利用を疑われかねない。代表はあくまでも兵器としてのパーフェクトをご所望だ。
・・・素性の知れない君の才能を買って招いたんだ。これ以上乱すなら、出て行ってもらう」
悔しそうにうつむいたヴィリエ。ルーシアはヴィリエの顔に触れようと手を伸ばす。
「type40」
所長の声に、ルーシアの伸びかけた腕が止まる。
所長が二人の間に割って入り、ルーシアの顔を上に向かせた。
「パーフェクトであろうと、女の顔に傷をつけるのは私の美意識には反するね。ヴィリエは、どんなにパーフェクトが傷を負っても自分を守って欲しいのかい?」
ルーシアは見開いた目を所長に向け、大きく振り上げた手を顔めがけてスライドさせた。
少しよろめいた所長は、いっそう冷ややかな瞳をルーシアに向ける。
「見事に反抗的なパーフェクトをつくってくれたもんだな、ヴィリエ。もっとも、お前には・・・お前だけには従順な様だが?ナイトに守ってもらって満足かい?オヒメサマ」
ヴィリエの反応を見もせず、所長は研究室へと戻っていく。ルーシアは泣きそうになるのを堪え、所長に向かって罵声を浴びせていた。
もう自分でも何を言っているのか分からなくなっていたルーシアは、何も動かないヴィリエが心配になって顔を覗き込んだ。
「ヴィリエ、あいつに言われたことなんて心配しないで。私は、あなたとだったらどこへでも逃げるわ。あなたと一緒に逃げる為なら何でもする」
ヴィリエの肩が、体中が、震えだす。
「type40、もう、いいんだ」
ヴィリエがいつもと変わらない優しい声をかけた。
「ヴィリエ?」
しかし、重大なところが違う。
「type40、医務室へ行こう。傷の手当てをしなくちゃ」
「なんで!なんでよ!ヴィリエ、嘘でしょう?ちょっとあいつに言われたからって、どうしてナンバーで呼ぶの!」
ヴィリエはルーシアと目を合わせようとしない。ルーシアはヴィリエにすがりつく。
その瞳はヴィリエに詰め寄る口調とは裏腹に、悲しみで溢れている。
ヴィリエがまだ血の流れているルーシアの右目横の傷へと手を伸ばす。
そのまま頬へと触れたその手は、ルーシアをヴィリエの胸へと引き寄せた。
「ご・・・めん」
ぐっ、と、詰まったヴィリエの言葉。
「僕のせいだ。僕が、君をこんなにしてしまった」
「泣いてるの?・・・ヴィリエ。私が、助けたかったからそうしたの。ヴィリエのせいなんかじゃないよ」
ルーシアがまだ幼いその腕を、ヴィリエの背中に回す。抱き合ったのはほんの一瞬。すぐにヴィリエはルーシアを離した。
ヴィリエの目に、涙はない。
「僕が、皆を名前で呼ばなければ。皆と親しくしていなければ。type40、君みたいな反抗的な子と目をつけられなくて済む」
「何、言ってるのよ。ヴィリエ!ねえ!」
ルーシアはヴィリエの両腕をつかみ、揺さぶる。
必死に、最後の砦を守る様に必死に、ヴィリエの両腕を掴んでいた。その力には、まだ13歳の幼さが残っている。
「type40・・・恐いんだ・・・君の狂気の可能性を見てしまった」
「誰に、何を言われても平気よ。だけど、ヴィリエには・・・」
ルーシアの声が震えている。いつも冷静なルーシアが目に涙をため、いつ取り乱すかもわからない様子でいた。
「今も、まだこの傷は癒えていない。たぶん一生、消える事はないわ」
ルーシアは涙を拭いて立ち上がった。
「そのあと、有名な“研究所襲撃”が私のいた所でも起きたわ。・・・その時に、ヴィリエは死んでしまった。私をナンバーで呼んだままで」
ケンに顔を見せないようにする。
涙が止まらないなんて、もう二度と経験しない事だと思っていた。
ケンは逃げずに、立ち上がってルーシアの肩に手をかけ、顔を覗き込んだ。自分はちゃんと聞いているんだという、主張。
「・・・そしてその時から、私の逃亡生活も始まった。・・・びっくりした?逃げているのよ、私。」
少し涙が落ち着いた頃、再びルーシアが話し出す。
「私のいた研究所の所長ね、いた頃は知らなかったんだけど、パーフェクト研究第一人者のA氏の息子なんだって。・・・つまり第一帝国の国家元首。・・・そんなヤツに、目つけられちゃったみたいでさ。しつこく追いかけられてるの。ハルはそれが心配で、私に発信器を持たせているの。私があいつに捕まったら、王子様ヨロシク助けにくるんだって。」
ふふっと、少し笑顔を見せたルーシア。
ハルの事をどんなに信頼しているかが分かる。
「だから、ここに1ヶ月もいるもんだからびっくりして来たのよ。何があったんだろうって。・・・一応、この村は第一国家とは関係ないでしょう?」
「ああ。・・・いや、第一国家とは違うけど、昔村の水源が枯渇しかかった時になにか・・・」
ケンのその言葉に、ルーシアが眉をひそめた。
「そうか、だから村長は」
「え?」
「いや、何でもない。さ、この話は終わり。ありがとう、聞いてくれて。忘れてしまっても構わないよ。・・・本当にありがとう。私、ずっと誰かに聞いて欲しかったのね。自分でもびっくりしちゃった」
もう日が完全に落ちかけている。今丘の上に登れば、いい夕景が見られるかもしれない。めずらしくも、そんなロマンチックな気分に浸りながらケンと共に歩き出した。
「イヤァーーーッ!!」
女の子の叫び声が池の向こう、小規模な雑木林の中から聞こえた。顔を見合わせた二人は、駆け出す。
「ナユリ!」
先に着いたのはパーフェクトの能力を使ったルーシア。
座り込んでいるナユリを見つけた。
「あ・・・ああ・・・」
ナユリの口から出るのは言葉にならない声ばかり。
その様子がおかしい原因は、辺りに漂う匂いでわかっていた。辺りを見回す。
もう暗い雑木林の中で、それは不気味に際立っていた。
「ナユリ、私だ。ルーシアだ。分かるか?……抱き上げるよ?」
「いや!いやぁ!」
側にいるのが誰かも理解出来ない程混乱している。
暴れるナユリを抱き上げ、雑木林の外まで運んだ。
「ナユリ!?一体何が」
駆けつけたケンがナユリを抱きしめる。暴れるのをやめたナユリだったが、混乱しているのは変わらないようだった。
「ケン、ナユリを頼む」
「ルーシア、ナユリは何を見たんだ」
言いながらケンにも、次第に周りに流れ出す異臭が分かりはじめていた。
ルーシアが首にかけていた小さな石の様なモノを引きちぎり、それをつぶした。
ケンにだけに聞こえる様に、ケンの背後に回り込む。
「今ハルを呼んだ。ケン、ハルの手を借りてナユリを家まで運んで。そして、人を呼んできてほしい。できれば・・・凄惨な状況に対応できる人たちでお願い」
「ルーシア。そこに一体何があるって言うんだ」
知るのも怖いが、知らないままここを離れるのも怖い。
「・・・遺体、だよ。むごい殺され方をした、ね」
それだけ言って黙ってしまったルーシアに、それ以上何も聞けなくなったケンだった。ナユリは今までの反動か、気絶してケンの腕の中にいる。
「ルーシア!!発信器が突然壊れたけどどうしたの!!・・・っっ!!」
風の様に駆けつけたハルも、今や辺り一面に漂う血の匂いに絶句した。
「ハル、ナユリを家まで運んで、ケンと一緒に人を呼んでくれ。私はここを動かずにいるから」
「・・・わかった」
それだけ答えると、ナユリを起こさない様に抱き上げケンと共に歩き出すハル。ケンは心配しながらも、ルーシアに任せるしかなかった。
雑木林の中へと再び入る。ぞんざいに捨て置かれている人形の様な女の子。
関節が外され、または無理な方向に捻じ曲げられていた。
元々白かった顔だが、白さを増した顔は恐怖のために歪められていた。
「シオン・・・」
ケンの通報を受け、村人が雑木林に集まってきた。ケンに状況を詳しく伝えられなかった為、状況の惨さに堪えきれなくなった人たちも多数出てしまった。
自分でシオンを整えてやれたらよかったのだが・・・今までの旅の経験で、こういう現場をむやみに荒らしてはいけないのは分かっていた。
「では、ルーシアさんが来た時にはもう・・・」
「ああ、シオンはあそこに・・・」
現場で事情聴取となり、ルーシアは村長始め重役達に囲まれている。ハルと、男女二人のパーフェクトも別の場所で話を聞かれているらしい。
「しかし、あれはあまりにも・・・」
「だが村長の息子が嘘をつくとは・・・」
何やら揉めているようだが、ルーシアが何を言っても参考にしてくれないだろう。
実際ルーシアの事情聴取は、村人たちがケンから聞いた情報に「yes」というだけの確認作業だった。
こういう事件になると、村人より旅人が真っ先に疑われるのが普通である。
ましてや、あんな殺し方はパーフェクトにしか出来ない。
おそらく一番最後に首の骨を一折り。
シオンの顔からは、犯人がしばしの間恐怖に引き攣る様子を楽しんでいた事が窺える。
ルーシアは犯人に心当たりがあった。あるが、姿は分からない。この凄惨で陰惨な犯行。狂気に満ちた殺戮なのに、人間としての行動が成立している。
研究所を襲ったパーフェクト、Atype24
研究所で暮らしていたパーフェクト達が、本来は実験対象へのナンバリングだった右腕に刻まれたナンバーを積極的に名乗るのは、彼の襲撃を恐れての行動でもあった。
研究所・研究員を破壊するだけではなく、他のパーフェクトを圧倒する暴力で次々と殺戮していく。
自分たちも襲撃の対象なのだと、恐れ逃げている者も少なくない。
「すみません、ルーシアさん。言いにくいんですが、今日は別の所に泊まって頂けますか?ハルさんと、ミルーさん、ナリユキさんもそちらで一緒になります」
村長が本当にすまなさそうに結論を口に出した。
ルーシアは黙って頷き、先導してくれる村長の後ろ姿を見ながら歩く。
村の会議場へと連れて行かれる様だった。
ルーシアは道中の人ごみの中、殺気をこちらに向けて放っている何者かの気配を感じていた。
「冗談じゃないわ!!なんで一緒くたに閉じ込められなきゃいけないのよ!」
十数人が入れそうな会議室の中、4人は会った。
イライラした様子を隠せないミルー。腕を組んで目を瞑っているナリユキ。
ハルとルーシアは互いの目と目で無事を確認していた。
「熱い砂漠の上を歩きたくないんだろう。自分に非がないのならおとなしくしておいた方が身のためだぞ」
ルーシアが感情のない目でミルーを見た。
ミルーがその眼に気圧されておとなしく引き下がる。
「・・・で?私らにどうしろっていうの?協力して犯人捜す気なんてないわよ・・・やけどしようがなんだろうが、この村から出て行くわ」
ミルーが髪をかきあげながら言う。
ナリユキも賛成だと頷く。
「今逃げれば犯人扱いだぞ。しばらくこの地方では商売はできないな。・・・村長は証拠もなしに人を疑う人じゃない。わざわざ自分の行動に不利になるような行動を取らなくてもいいと思うけどな」
「だからここにじっとしてろって言うの?嫌よ!こんな狭い所!やっと・・・研究所から出られたっていうのに・・・」
徐々に息が荒くなっていくミルー。
胸を掴んで、苦しそうに座り込んだ。
「ミルー、大丈夫だ。ここには俺達4人しかいない。外からいきなり研究者が入ってくる訳じゃない。俺達は、ここを出ようと思えば出られるんだ」
ナリユキに抱きしめられて、ミルーは徐々に落ち着きを取り戻していく。
「つらいのは解るけど・・・一晩だけ、待っていれば出してくれると思うわ。・・・ここから飛び出した旅人を、犯人に仕立て上げるのが村長の真意らしいからね」
眉をひそめ、男女二人の前にしゃがみ込むハル。
ルーシアが訝しげにハルを見る。
「ごめんね。先に、あなたたちのナンバーを見せてくれる?」
そう言ってハルは自分の右腕をまくり上げた。
Ttype43とナンバリングされた腕。
ナリユキがいち早く合点がいき、右腕をまくり上げた。
ルーシアも、最後はミルーも協力してくれた。
それぞれが、それぞれの無罪を確認する。
「Atype24が犯人だと分かっているなら、そう主張すればいいじゃないか。・・・あんたたちが言えば、誰も疑わないだろう」
ナリユキが忌々しそうにつぶやく。
「Atype24の模倣犯の可能性もあるんだけど・・・どちらにせよ、村長は犯人をかばっているわ。ケンから事情を聞いた時に見せたあの表情・・・あれは悲劇が起こった衝撃より、なにか秘密が暴かれるのを恐れる顔だった」
「違う!村長はそんな人じゃない!・・・村から研究の為に人が連れ去られたことはきっとあったのだろう。村長の態度が、普通の人の尊敬の念とは種類が違うと思うから・・・でも」
「ルー、私は、今日の朝この村に来たばかりだから、ルーシア程村長の事は良く分からないよ。・・・どちらにしろ、一晩明ければ分かる事よ」
ルーシアを抱きしめるハル。
二人には見えない様に、ルーシアの背中に文字を書いていく。
【何か、心当たりがある様ね】
ルーシアは頷く。けど、まだ言えない。
やっと信じかけた世界が、押しつぶされていきそうで・・・
そうして、疑惑の夜が過ぎていく。
朝を迎えることがない者を、生み出しながら・・・・
5話
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