天才ゆえの悩みに感動
ダニエル・キイスの名作、「アルジャーノンに花束を」を読んだ。物語の主人公は、IQは低いが純真な心の持ち主である、チャーリー・ゴードン。彼はパン屋で働いているが、IQが低く、それ故に心無い人から意地悪な行動を受けている。それでも周囲の人を友と信じる健気な人柄である。
そんな彼がIQを高める手術を受ける。手術とはいえ、それまではラットに施されてきたような、人体実験である。そんな手術を受けてチャーリーはIQがみるみる向上していく。彼は賢くなりたいと常々望んでいたため、幸せになるかと思われた。しかし、現実はそんなに甘くない。
賢くなってしまったため、周囲の人間の、自分に対する言動に潜む悪意に気づいてしまったり、高すぎるIQがゆえに、逆に周囲から浮いてしまうこともしばしばとなってしまった。
さらに、賢くなる前の自分の影に襲われることも多くあった。愛する人と結ばれようとする際に突如現れて。幼少期に、自身のIQの低さが原因で母親が発狂したり、家庭の不和を生んでしまった記憶が蘇ってきたり。
最終的には手術が不完全だったため、IQは再び低下の一途をたどってしまう。医学の発展、周囲の幸福を願う、チャーリーの拙いながらも懸命な文章で物語は終わる。
賢くなることは必ずしも良いことばかりではない。時には知らなかったほうが幸せなこともあるし、無知なまま生きられたらと思うことも多くある。世の中のことが全て透けて見える、そしてそれを分かち合える存在がいない、そんな辛い状況に陥りながらも人類の発展のために、自分を犠牲にしてまでも貢献しようとするチャーリーに感動せずにはいられなかった。
また、ラストはIQは低下しなく、愛する人と結ばれる案もあったらしいが、私はそのままのラストが好きだった。確かにチャーリーには酷な展開ではあるが、IQの高い・低いに関わらず接してくれる人の存在に気づけたし、何よりチャーリー自身の人となり、芯にある部分は変わらないことが感じられるラストシーンが大好きである。
「アルジャーノンに花束を」改めて、物語を象徴する、いいタイトルだと思う。