デジタル化に関する基本法
デジタル化に関する法制度の展開は、2000年のIT基本法の制定が大きな契機となっています。今回は、デジタル化に関する基本法について見てみたいと思います。
基本法について
基本法とは、国として施策の推進が必要な重要な政策分野について、基本理念や基本的施策などを定める法律です。多くの基本法では、基本計画の策定や推進組織についても規定されています。また、国や地方自治体、民間事業者等の責務について定める例も比較的多く見られます。
例えば、デジタル社会形成基本法は、以下のような目次となっています。
デジタル化に関する基本法としては、現行のもので、デジタル社会形成基本法、サイバーセキュリティ基本法、官民データ活用推進基本法の3本があります。
デジタル化に関して基本法が3つもあるのは、豪華な気がしましたが、調べてみると基本法と名の付く法律は50本以上あるようなので、そうでもないのかもしれません。ちなみに、最も新しい基本法が、2021年に制定されたデジタル社会形成基本法です。
IT基本法(2000年)
「IT基本法」の正式名称は、「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」で、当時、世界的規模で生じていた、情報通信技術の活用による、急激かつ大幅な社会経済構造の変化(IT革命)に対応するために、2000年に制定されました。(2000年といえば、当時の森首相が、IT革命について、「このイット革命って何だ?」と言ったとか、言わないとか、そんな都市伝説が世間を賑わわせていた頃ですが。。)
正確には、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関して、基本理念と基本的な施策の枠組みを定めた法律ですが、大雑把に言えば。デジタル化(とは、当時はいってませんが)に関する基本理念等を定めた最初の基本法と言ってよいと思います。
また、IT基本法では、内閣官房へのIT戦略本部の設置と、IT戦略本部が重点計画を作成することが定められていました。
IT基本法は、2021年のデジタル社会形成基本法の制定に伴って廃止されましたが、多くの基本理念等はデジタル社会形成基本法に引き継がれています。また、IT基本法の廃止により、IT戦略本部も廃止されましたが、2021年に同時に制定されたデジタル庁設置法により、デジタル庁が設置されました。IT戦略本部の推進してきた業務は、現在、デジタル庁に移管されています。
デジタル社会形成基本法(2021年)
「デジタル社会形成基本法」は、デジタル社会の形成に関して、基本理念や基本的な施策の枠組みを定めている法律です。2021年に、IT基本法が廃止され、新たに、このデジタル社会形成基本法が制定されました。
デジタル社会形成基本法では、デジタル社会の形成に関して、基本理念や施策の基本方針、国・地方公共団体・事業者の責務、デジタル庁の設置、重点計画の作成などが定められています。(目次は、すでにご紹介しましたので省略します。)
デジタル社会形成基本法の目標はデジタル社会の形成ですので、デジタル化推進の対象は行政分野に限られませんが、行政の情報化の推進については、数多くの規定が置かれています。行政手続のデジタル化に関する通則法としては、デジタル手続法が制定されていますが、基本理念や基本方針を定めるデジタル社会形成基本法と、具体的な手続のデジタル化や情報システムの整備に関する規定を持つデジタル手続法とが、いわば一体的な形で、重要な役割を果たしています。
第1条の目的規定を見ると、国際競争力の強化や国民の利便性の向上、少子高齢化への対応等にデジタル化の推進が重要である旨が述べられています。
また、基本理念を定める規定としては、第3条から第12条まで、10個の規定が置かれています。すべての条文を引用すると相当な分量になってしまうので、見出しだけご紹介します。ご関心のあるものについては、ぜひ一度原文を当たってみていただければと思います。
第三条(全ての国民が情報通信技術の恵沢を享受できる社会の実現)
第四条(経済構造改革の推進及び産業国際競争力の強化)
第五条(ゆとりと豊かさを実感できる国民生活の実現)
第六条(活力ある地域社会の実現等)
第七条(国民が安全で安心して暮らせる社会の実現)
第八条(利用の機会等の格差の是正)
第九条(国及び地方公共団体と民間との役割分担)
第十条(個人及び法人の権利利益の保護等)
第十一条(情報通信技術の進展への対応)
第十二条(社会経済構造の変化に伴う新たな課題への対応)
サイバーセキュリティ基本法(2014年)
「サイバーセキュリティ基本法」は、2000年のIT基本法制定後に、デジタル化の進展により⽣じたサイバーセキュリティの確保という重要な課題政策的に対応するために定められた基本法で、2014年に、いわゆる議員立法として成立した法律です。
「サイバーセキュリティ基本法」では、サイバーセキュリティの推進に関する基本理念や、国の責務等が定められています。また、基本法ではよくある形ですが、政策に関する基本計画(サイバーセキュリティ戦略)の策定や推進組織(サイバーセキュリティ戦略本部)等についても規定しています。
目次としては、以下のようになっています。
この法律では、「サイバーセキュリティ」についての定義が置かれています。この定義は、様々な法律で引用されているほか、電子通信事業法の「サイバー攻撃」の定義でも、同様の表現ぶりが使われています。(「情報通信ネットワーク又は電磁的方式で作られた記録に係る記録媒体を通じた電子計算機に対する攻撃のうち、・・・」という形で定義されています。)。
第三章の基本的施策では、第13条から第24条まで、幅広く規定が置かれています。
具体的には、以下のような規定が置かれています。
・国の行政機関等におけるサイバーセキュリティの確保(第13条)
・重要社会基盤事業者(インフラ事業者)等におけるサイバーセキュリティの確保の促進(第14条)
・民間事業者及び教育研究機関等の自発的な取組の促進(第15条)
また、条文としては、ご紹介の前後が逆になってしまいますが、サイバー攻撃は、情報通信ネットワークを使って行われること、社会インフラを目標として行われると大きな被害が出ることから、第一章の総則の中で、これらに関係する事業者(重要社会基盤事業者、サイバー関連事業者)の責務について、特別に定められていることも、この法律の特徴かと思います。
具体的には、以下のような形で、自主的・積極的なサイバーセキュリティの確保と国・地方自治体の施策への協力が求められています。
官民データ活用推進基本法(2016年)
「官民データ活用推進基本法」は、デジタル技術の進展により⽣じたビッグデータの活用等の新たな課題にに対応するために、2016年に議員立法として提案・成立した法律です。
2000年のIT基本法以後のデジタル技術の進展による変化への対応という意味では、「サイバーセキュリティ基本法」も、同様の背景を持つものです。サイバーセキュリティ基本法も議員立法として提案され、成立しています。
官民データ活用推進基本法の構成は以下の通りとなっています。
総則には、目的や基本理念などが置かれていますが、特徴的なこととしては、定義規定の中で、AI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングス)など新技術に関する法律上の定義が新たに置かれていることです。
第2章では、「官民データ活用」を推進するための計画の策定を、政府、都道府県、市町村に求める規定が置かれています。
また、第3章の基本的な施策に関する規定については、「官民データ活用」に関連する、多様な規定が置かれています。
具体的には、以下のような規定が置かれています。
・⾏政⼿続に係るオンライン利⽤の原則化(第10条)
・国・地⽅公共団体・事業者による⾃ら保有する官⺠データの活⽤の推進(第11条)
・データ流通における個⼈の関与の仕組みの構築(第12条)
・ 情報システムに係る規格の整備、互換性の確保(第15条)
・マイナンバーカードの利⽤(第13条)
・研究開発の推進等(第16条)
最後に、ご参考まで、行政手続のオンライン原則に関する第10条の規定を引用しておきます。
この後、2019年には、行政手続のオンライン化を原則とする「デジタル手続法」が成立することになりますが、そこにつながる、オンライン利用の原則の考え方が、この規定ですでに示されていたことがわかります。
デジタル化に関する基本法については、以上としたいと思います。
次回は、行政手続のデジタル化に関する主な法律の内容やポイントを見ていけたらと思います。少しでも有用な情報を発信できればと思いますので、引き続き、よろしくお願いいたします。