【散文詩小説】時代遅れの寵児④青蛙
「日東駒専」
個人の実力以前に、
入り口からランク分けされる
学生にとって、氷河期の就活がどれだけ苦戦するか、
想像に難くない。
無論、
大学受験の比ではなかった。
面接や採用枠はもちろん、
書類選考で篩にかけられる。
そう、
試験すら受けれないのだ。
それでも、
世間知らずの前向きさで、
どうにかこうにか内定を
もらった会社は、
同族経営の中小企業。
上司は、社長の息子。
一期一会をいっきいっかいと
読む、高校中退の元暴走族。
それでも、
悪い奴ではなかった。
そんな会社だから
6大学やMARCHはいない。
それでも、
同期も先輩も気のいい奴らが
多かった。
だから、
人間関係は良かった。
その会社は、
大手の下請けではなく、
大手が手を出すこともない、
独自に開拓したニッチな
市場で、そこそこの業績を
維持していた。
だから、
大きな疑問も持たずに、
前向きにに働いていた。
だから、
会社の常識が、
日常の常識になっていた。
だから、
有休が取れないことも、
残業代がつかないことも、
離職率が高いことも、
何も気づいていなかった。
不思議なほどに、
受け入れていた。
不思議なことに、
少し自信もあった。
世間知らずの、
青二才は、
不思議なくらい、
前向きだった。
井の中の蛙、大海を知らず。
俺は、井の中の青蛙だった。
(続く)