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yochan_hug08
【超短編小説】 待ってくれ、カフカ
「待ってくれ、カフカ」
カフカはどこかの世界に移行しようとする。
「悪いけど、僕は君みたいに器用じゃないんだ。失望したんだよ、あまりの出来なさにね」
「どこに行こうって言うのさ」
「君には関係ないよ」
カフカは僕に背を向ける。
「カフカ、話を聞いてくれ。僕は君に出来る限りのことをした。手を差し伸べてきたつもりだ。分からなかったら、もっと聞いてくれたら良いんだ。
これからだって。そうだろう?一緒に考えて行けば良いんだから」
カフカは振り向く。
「分かってる。君が僕にしてくれたこと。それは救いだ。こんなに優しいことなんてない。だからこそ、僕は、惨めで、情けない」
「それがどうした。構わないじゃないか。それを気にしているのはカフカ、君自身だ。誰もそんな風に思ってなんかいない。
だから、頼む。行かないでくれ」
僕はカフカの前に立ち、両手を大きく広げ、行く手を阻んだ。
「邪魔しないでよ」
「僕は、ここを動かない」
カフカは黙っていた。そして、上を向いた。
「僕は初めてだ。君みたいな人に出会ったのは。どうしたら、そこまで出来る。ずっと一人で考えてきたのに。
どうしたら・・・、どうすれば良かった」
カフカは泣いていた。
僕はカフカを抱きしめた。
強く、決して離れることなどなかった。(おしまい)