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【超短編小説】 待ってくれ、カフカ

「待ってくれ、カフカ」

カフカはどこかの世界に移行しようとする。

「悪いけど、僕は君みたいに器用じゃないんだ。失望したんだよ、あまりの出来なさにね」

「どこに行こうって言うのさ」

「君には関係ないよ」

カフカは僕に背を向ける。

「カフカ、話を聞いてくれ。僕は君に出来る限りのことをした。手を差し伸べてきたつもりだ。分からなかったら、もっと聞いてくれたら良いんだ。

これからだって。そうだろう?一緒に考えて行けば良いんだから」

カフカは振り向く。

「分かってる。君が僕にしてくれたこと。それは救いだ。こんなに優しいことなんてない。だからこそ、僕は、惨めで、情けない」

「それがどうした。構わないじゃないか。それを気にしているのはカフカ、君自身だ。誰もそんな風に思ってなんかいない。

だから、頼む。行かないでくれ」

僕はカフカの前に立ち、両手を大きく広げ、行く手を阻んだ。

「邪魔しないでよ」

「僕は、ここを動かない」

カフカは黙っていた。そして、上を向いた。

「僕は初めてだ。君みたいな人に出会ったのは。どうしたら、そこまで出来る。ずっと一人で考えてきたのに。

どうしたら・・・、どうすれば良かった」

カフカは泣いていた。

僕はカフカを抱きしめた。

強く、決して離れることなどなかった。(おしまい)