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堂々めぐりの風

朝から吹き荒れる風。
洗濯ものは部屋に干して家を出た。


駅に着くと、強風の影響で電車は遅延していた。
ホームに行ったら遅れている電車が入ってきたので飛び乗った。


電車から川っペリの遠くを見たら、日差しはあるのに一面煙ったような色あいだった。
強風が砂埃を舞いあげているのだろう。

降りた駅では、大学入試の看板を持った人が改札口正面に立っている。
だが受験生の姿は見当たらない。

強風の中を歩く。

開店前のお店のランチメニューを熱心に読んでいるサラリーマンの男性がいる。
その中華料理店はお昼どきはいつも大行列だが入ったことはない。
今日こそ並んでみてもいい。
歩きながらランチメニューをチラッと見た。
「海鮮入りあんかけ玉子チャーハン」
だけ見えた。
もし並んだら、迷わず
「海鮮入りあんかけ玉子チャーハン」を注文する気がする。


1時間たらずで用事は済んだ。
中華のことはすっかり忘れてしまった。

カードと雑貨の店に向かう。
おひなさまのカードを買いたい。
2歳の女の子を育てている友人に送りたい。

交差点で立ち止まったら、ふとある店を思い出した。
この交差点を渡り右方向に行けばその店の近くだ。
たぶん。
行ったことはない。

私の頭の中の地図はいつも曖昧で、迷わずに辿りつけることは少ない。
スマホで確認するほどでもない。
辿りつけないならそれでもいい。
途中の路地を当てずっぽうに2度曲がる。


意外にもお店はすぐに見つかった。
清潔そうな佇まいのお店を覗いたら、席が空いていたので入る。
食べてみたいメニューはひとつだけ。
豆乳のスープ。
注文したらすぐに出てきた。
1分待ってかき混ぜる。
ホロホロと固まって、器の底にはあったかいお豆腐が出来上がった。
熱々のスープをそっと飲む。
豆乳のほかにもいろんな味がする。
たっぷりのスープで温まった。
食べたらすぐに店を出た。

一段と風が強い。

カードと雑貨の店は外国人の観光客でいっぱいだった。
レジにも観光客の列。
カードやかわいい小物を手にして並ぶ人たちの様子がなんともかわいい。
レジ待ちの間も招き猫の置き物と同じ絵柄のカードをじっと見つめてにんまりしている女の人。
自分のために選んだおみやげなのかもしれない。

お雛様のポップアップカードは淡いピンクのカードを選んだ。
送り先の友人がママになってから会ったことはない。
育児の様子は時々聞いている。
2歳半でママのおしゃべり相手になるそうだ。
かわいいだろうな。


私には今、気がかりなことがある。
自分のことならどうとでも、うっちゃることができる。
見切り発車も平気。
高齢の親のことだって、なるようになると受け入れるのは早かったと思う。
なのに子のことになると話は別だ。
もう手を離したつもりでも知らんぷりはできなくて、しかしできることは何もない。
黙って気を揉むだけ。


帰りの電車に乗ったら、二駅で止まってしまった。
この先の駅で強風によるトラブルが発生したらしい。

地下鉄に乗り換えて違うルートで帰ろうか。
電車を降りていく人多数。

地下鉄に向かう。
どっかでコーヒーを飲めばよかったな。

乗り換え駅でもダイヤは乱れていた。
家に到着する気がしない。
駅ナカのスイーツエリアについ足を踏み入れる。
そこはバレンタインのチョコレートを見繕う女性でいっぱい。

私は白玉あんみつをふたつ買った。
夫は今日は帰りが遅くなると言っていたので息子と私の分。
バレンタイン前日の和菓子屋、多少売り上げが落ちたりするのだろうか。
期間限定ショコラあんみつがあるところがいじらしい。
だがあんみつには黒蜜がいい。


やっと自宅の最寄り駅に到着。
強風の中を歩く気がしなくてバス停に向かったが、目の前でバスは発車してしまった。
ああ帰れる気がしない。

やっぱりコーヒーを飲もう。
今日は寄り道やまわり道ばかりしたあげく、まだコーヒーショップのソファに座っている。
頭の中もそれと同じで、いろんな思いが浮かんで沈んで答えはない。

白玉あんみつなんて食べるんだろうか。
何年か前は美味しそうに食べていたけど。


窓の外はまだ強風が吹き荒れている。
帰る家はどんな日もひとつ。








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